第23話 決死
戦いが始まった。
トンとヴォングは不安定な岩場の上で激烈な攻防を繰り広げている。トンの速く、重い動きは以前よりもヴォングを苦しめているようで、奴は苦しい表情をしていた。
「く.....腕を上げたな!」
トンはこれに何も言わず、素早く畳み掛けた。僕はその洗練された二人の動きに見とれていたが、はっとして、二人の近くにより、ボッカス・ポーカスの援護を行った。
「セイッ!ボッカス・ポーカス!!」
ヴォングはこれにびっくりして、すぐさま僕に飛びかかってきた。以前僕から発砲されたことがトラウマにでもなっているのだろうか。
だがこれは、奴にとって悪手だった。ボッカス・ポーカスから出てくるのは、拳銃とかのものばかりだけではない。とんでもない現象が、起きることがあるのだ。
ヴォングは僕を殴り始めた。だがボッカス・ポーカスの詠唱はとうに終えている。後は出てきたものをトンが何とか使ってヴォングをぶっ飛ばせばいい、そう考えていた。だが突然、辺りが赤く光り始めた。
やばい、これはやばい。ヴォングを僕から引き離して戦っているトンに僕は声をかけた。
「トンさん!!ここから離れてください!!」
辺りには、赤い魔法陣がいくつか展開されている。これは、爆裂魔法「ロバナッシュ」の魔法陣なのである。
トンはただうなずいて、そこから離れようとした。僕はヴォングがそれについていこうとするのを飛びかかって足を掴み、妨害した。
「なっ!?貴様!何をする!離せぇ!!」
「サカグチさん!」
トンが若干遠くから心配そうな目でこちらを見ている。
「トンさん僕なら大丈夫です!!早く!離れてください!!」
ヴォングに頭のツボを押される攻撃をくらいながら、僕は叫んだ。
「いや、あの、ここでヴォングを殺すのはちょっと!」
あっそうか。
僕の握力は1ぐらいになった。
そうだよね、こんな所でヴォング殺しちゃったらドルの居場所わからんもんね、駄目だよねこんな所でやったら。
奴は僕を振りほどき、川の中に飛び込んだ。その瞬間。
ズドガドバボボボーン!!
そこら一帯は大爆発で吹き飛んだ。
僕は幸いにも、一瞬の気絶で済んだ。目を開けると、僕は水中にいた。最初は滅茶苦茶パニックになったが、冷静さを取り戻して何とか浮かび上がり、どうなったかをみた。トンとヴォングは、相変わらず攻防を繰り広げていた。だかヴォングの方は爆発の影響が若干効いたのか、服がボロボロで立ち回りもふらついていた。
トン優勢である。僕は荒れ狂う流れに耐えきり、地面に上がった。
するとトンがヴォングを何とか地面に押さえつけていたようだった。これはチャンス!ドルの居場所が分かりそうだ。
「ヴォング!!貴方がこの森に来ているということは!ドルも近くにいるという事でしょう!あの人が今どこを目指しているのか、行ってください!」
トンが問い詰めにかかる。
「うぐぉ...ああ...ぐぐぐ....」
締め付けられて苦しそうなヴォング、見かねたトンは、力を緩めた。がその時。その一瞬の隙をついて、ヴォングは素早くトンを自身の後方に寝ながら蹴り飛ばした。
トンは、川に転落した。
「ハハハ!!貴様の優しさへの感謝代わりに教えてやろう」
トンは、水面に顔を上げ、泳ぎ始めた。
「我々がこの森に来た理由....それは3人のメンバーが貴様に殺されて行方不明になったこの森は、集中的に捜索するようになった。そして一週間前、ついに一軒の小屋を発見し、そこから貴様らが出るのを見たという情報を得た。そして今日!我々大臨会はそこに襲撃をかけることになったのだ」
やはりというか、予想通りだった。だが、同時に危機的状況でもあった。奴らが狙っている財宝の地図は、その小屋で預かってもらっているのだ。いくらローといえど、ドルに勝てるほどの腕は無い。非情に不味い状況なのだ。
トンもこれを察知してか、顔色が一気に悪くなった。
「ほう.....その顔からして、地図はその小屋に置いてきたようだな......ククク....ハハハッハハ!!今頃地図は!ドルの手に渡っているころだわ!!」
ヴォングは勝ったと言わんばかりの笑い声を響かせた。トンはすぐさま怒りを胸に、水面から上がってヴォングに攻撃を仕掛けた。今度は逆にヴォングを川へ投げ飛ばした。もうヴォングに遠慮はいらない、父を殺された恨みもあるのだ。恐らくトンは、奴を殺すだろう。
「サカグチさん!ローさんの所へ!」
ヴォングが岸に上がらないうちに、僕はすぐさまローの小屋へ行くことになった。正直あんな頑固おやじなど助けたくない、トンが優しさを捨てる原因の一因であるからだ。僕にとって......ローは....いや何とも言えない。なんだろうか、この複雑な気持ちは。
だが、彼は助けなくてはならない。僕にとっては何とも言えん存在だが、トンにとっては何だかんだ良き師匠なのだ、僕はトンのためのに行動している以上、見捨てることは許されないんだ。
だから僕は森を駆け抜けた、滝から、小屋までは大体歩いて30分ぐらい、走れば全然間に合いそうである。だが、僕は何度も転んでしまった。木の幹やら、根に足を取られまくった。情けないなぁ.......。
だが、幸運な出来事もなくは無かった。
僕が草むらから飛び出した時、何者かにぶつかった。
「うおお!?」
「きゃぁ!?」
男の声と女の声がそれぞれ聞こえた。倒れながら、僕はこの時大臨会のもう一人の幹部であるイェンと鉢合わせしてしまったのでないか、と恐れたが、そこにいたのは.....。
「な.....なんだ?うん?....お前....サカグチじゃねぇか!」
顔を上げると、見覚えのある二人組。
「サカグチ?どうしてこんな所に.....?」
洞窟カップルこと、ラングとフェイが立っていたのだ。
「ラングさん....フェイさん.....?」
僕は驚きすぎて何も答えられなかった。ていうかこんな再会に感慨深く思っている場合ではない。
向かわねば。
僕はただ、付いてきてくれと言って、二人の前から立ち去った。
「ちょっ!待ってくださいよ!!」
「そんなに急いでどうしたんだ.....?」
走っている最中、ブツブツ文句を言っているのが、後ろから聞こえてきた。戸惑いつつも、何だかんだ付いてきてくれているようで安心した。
そうして五分後、ようやくローの住む小屋に到着した。家の前をふっと見ると、ローが、ドルの鷹爪での攻撃に怯んでいる場面に出会った。どうやら、間に合ったようだ。
後ろから、カップルも来た。
「あいつは....大臨会のリーダー!!あの爺さんが目的だったのか....」
ラングはすぐさま武器を構えて、突撃しようとしていた。一方フェイは無言で立ちすくんでいた、一体どうしたのだろうか.....。
「お爺さん.....!?」
僕は、耳を疑った。でもよくよく考えたら、ローの目元が誰かに似ていたことを思い出した。あのキリっとした者はフェイの物だったのだ。
「ええっ!?あの人、お前の爺さんなのか!?」
「そうよ、こんな所でぐちゃぐちゃ話してないで助けなきゃ!!」
様子はまだまだいけそうだったが、助けることにした。3体1、負ける気がせーへん。
ラングはローに追撃しようとするドルに割って入り、戦い始めた。
「オラァ!!」
剣を振りまわしてラッシュを仕掛ける。
が、軽くよけられ、裏拳を食らって吹っ飛ばされた。あれっ?
「お爺さん、大丈夫ですか...?」
「おお.....フェイか....」
家族の再会は涙ぐましい事だと普通は思うのだが、あまり好きじゃない奴同士なので、彼らのやり取りはあんま聞いてなかった。
それよりもラングがやばいのだ。僕は彼の戦いを集中して観戦していた。ラングはもう一度挑みかかるが、もっかい吹っ飛ばされた。見事な噛ませっぷりだ。
もう見てられないのでボッカス・ポーカスを唱えた。洞窟カップルに鉢合わせできた運ならば、きっといいものが出る。そう確信していた。
「行けるぜ!!ボッカス・ポーカス!!」
だが、運というものは長続きしないのである。
出てきたのは、木が描かれた絵画だった。その絵は見た感じうまくかけていて、きっとよく鑑賞すれば心が癒されるものだっただろう。だが!!今回は最悪なタイミングで出たので、心が荒れた。
剣をかなり吹っ飛ばされて武器の無いラングは、その絵画を両手で持って、ドルに殴りかかった。まあそんな単純な攻撃が当たるはずもなく、ラングは蹴り飛ばされた。
「くそっ.....!?」
こちらに吹っ飛ばされたラングは、ふらつきながらもう一度挑もうとしたが、それをローが手を前に出して止める。
「なにすんだ!!俺はまだいけるぞ!」
「駄目だ...お前でははっきり言って話になっていない、私が行こう」
「なんだと!!」
「二人とも怪我が酷いでしょう!私が行きます!!」
「「駄目だお前(孫)に行かせる事は出来ない!!」」
なんとまあ酷い言い争いである。こんな事をしている時にもドルは迫って来ている。
「美しいやりとりだ....私も昔は仲間と共にこんなやり取りをしたもんだ」
ドルがなんか回想にふけっている。僕は取り敢えずチャンスは今と言わんばかりに唱えた。
「くたばれ!!、ボッカス・ポーカス!!」
もうなんか.....トンが来るまで何とか持ちこたえられそうな物なら何でも良かった。正直モンスターが出ても良かった。この状況をかき乱せれば何でも良かった。
が、魔法陣から出てきたのは........。
全部金でできた自転車だった。
「ええ.......」
「なんだよこれ......」
みな一瞬困惑して動きを止めた。が、戦いはすぐに始まった。
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