第18話 腹の調子は精神に繋がる

次の日、トンは改めて僕らに謝罪した。昨日も謝ってはいたが、なんというか....途中から記憶がない、滅茶苦茶疲れたから寝てしまっていたのだろうか。


「自分の思い込みで.....迷惑をかけてすいませんでした....」


トンはもはや半ば土下座の体制で謝罪をしている。そんな謝ることではないのだが.....。


「まあ、これでお前さんもよく分かったじゃろ、頑張るのはもちろんじゃ、だが、一人でやるには限界がある。だから仲間からの救いの手は、むやみに払いのけたらダメなのじゃ」


「はい...身に染みて分かりました....」


「これから、協力して地図を守りましょうトンさん!」


僕はトンに手を差し出した。


「はい!!...ありがとうございます」


トンは両手で、僕の腕を取った。その握りはとても強い。前のトンほど明るくないが、彼がこうやって僕たちと協力する意思を改めて決めたことは嬉しかった、力が強かったので、手は痛かった。

この感情が混ざり合って、僕は苦笑いをした。


「トイレ無いな......ちょっとワシに外でしてくるわ.....」


この家は、トンを誘い込む為に突貫で作った家であるからか、トイレなど生活に欠かせないものがなかったりした。


「ああ、はい。戻ったら出発でいいですかね」


「いいぞ」


そう言って、爺さんは外に出ていった。


「さて、これからどこに行きましょうかね」


「一回村に戻りませんか?」


「道わかるんですか?あいにく僕もチャウさんも帰り道がわかりませんなぁ」


「この辺りは知り尽くしているんで、全然わかりますよ」


とまぁ、そんな調子で話しながら自分は青銅の防具を着ていた。

すると。


「今だっ!!」


壁から、槍が突き出てきた。青銅の防具にあたってガリッと音がする。防具がなければ痛かっただろうなぁ


「サカグチさん!!」


赤服どもが3人、窓から入って来る。


「ジジイさえいなけりゃこっちのもんだぜ!!」


顔を見れば、見覚えのある連中、トンの自信をズタズタにした部隊長と一緒にいた雑魚二名。なんか顔色が悪そうだ。

僕はすぐさま、トンの隣に逃げ込む。


「観念ししろ!!」


僕たちは奴らを見ながら、ちょっとした作戦会議をした。


「サカグチさん...僕が前に出るんで後ろから魔法をお願いします」


「なるべくいいものが出るように祈っときますわ」


なんか基本的な戦略に聞こえるが、ボッカス・ポーカスなのでうまくいくとは思えない。ぶっちゃけこんな状況で唱えたくない。

だが、相手は部隊長。ここは二人で協力せざるを得ないのだ。僕はトンに協力の大切さを爺さんに訴えた。この立場だったから、やらねばならんのだ。


「死ねぇ!!」


部下のうちの一人が、槍片手に突っ込んできた。トンさんが迎え撃とうと構える。槍の先端が届く数歩前で、事件は起きた。


「う.......ぐ.......」


突然、赤服は足を止め、尻を手で抑え始めた。表情を見ると、必死に何かを我慢したような表情をしている。


「おい!!、どうし.......うごっ.....」


後ろにいたもう一人の赤服も、同じように苦しみ出した。


「どうしたんでしょうか.......?」


「うーん...あっ!」


なんとなく、僕は彼らの苦しみを察知した。


「お、お前らどうしたんだよ....」


「隊長......俺ら腹の調子が悪いです....グルグルして気持ちが悪い....」


「屁が出そうだ....」


「屁ぐらい好きにだしゃあええじゃねぇかよ!!」


「うるせぇ!!この調子の時の屁は.....ただもんじゃねぇんだ....」


彼らの顔はどんどん青白くなっていく、その様子を見て、僕もまたぞっとする。彼らの苦しみはよく分かる。下痢の時に屁をして、ケツに違和感があるなぁ、と感じてトイレに入り、パンツを確認すると.....。

ここから先は書かないでおこう、僕も書いていて非常に気分が悪くなってきた。この本の内容は、なるべく健全でありたい。


さて、彼らはケツを抑えながら、武器を置き、ゆっくりとトンの前まできた。トンはさっきから困惑した表情で彼らを見ていた。腹を壊した人間の気持ちが、分からなかったのだろうか。


「お、おいあんた.....こんか...今回は見逃してやる...だがこのまま無傷で帰ってしまうと、ドイ様にクビにされるに違いねぇ....」


なんかブツブツ言い始めた。何を頼んでるんだか分からん。


「だから俺たちを.....思いっきり蹴とばしてくれ!!!!」


「ええっ!?」 「はぁっ!?」


トンは思わず、素っ頓狂な声を上げた。それと同時に部隊長を驚きの声を上げる。


「てめえら!!そんなのが許されると思ってんのか!!武器を持て!!こいつをいた......ぐぐぐ....」


「隊長、あんたももう限界でしょう!!」


「しかしドル様が、ドル様.....」


「なんとでも言い訳は立ちますから!!ほら」


「しょ、しょうがねぇ、確かに、このままじゃ戦えねぇ.....」


こうして、彼らはトンに蹴り飛ばされ、僕らから逃げていった。なんというか...その、あっけなかった。


「チャウさんは、ここまで予測して彼らに腐った肉を食べさせたんでしょうか.....」


「いや、流石にここまでは.........いや、あり得るかもですね、飯屋ですし」


「そうですよね!やっぱり凄いですよ」


しばらく戦えなくなる、爺さんは神社で奴らを撃退した時、確かにこう言っていた。腐った肉を食わせたのは思いつきでやったんだろうけど、確かに予期していた。冷静に戦うタイプだ。伝説の剣を焦ってぶん投げた誰かさんと違ってな。


「おい、お前ら!大丈夫だったか!?赤服どもにいきなり襲われたんじゃが!」


爺さんが小屋のドアを思いっきり開けて、僕らの前に現れた。


「ええ、大丈夫でしたよ」


「そうか、良かった。さて行くか」


「はいっ!」


「うお、びっくりしたあ」


僕らは小屋から出て、トンの道案内で山を下り始めた、一回村に戻り、ラングとフェイを連れて準備を整え、再度山を登るとのことだ。何を考えているのか、よく見えて来ないので、爺さんに質問することにした。

滝のふもと辺りを歩いている時だった。


「あの」


「ん?」


前を歩いていた爺さんは、歩むのを止めてこちらに振り向いた。


「何でこんな周りくどい事を.....?もう一回山に登って、何をするんですか?このまま五人で攻めてしまえばいいじゃないですか」


我ながらウザイ畳み掛けである。


「僕も気になります」


後ろにいたトンもそう言って、僕の隣に立ち、純粋な目線で爺さんを見た。僕と違って綺麗な瞳だ、彼の目に曇りはもうほとんどない。

爺さんは目をつぶって、俯きながら言い始める。


「.......実はな、最初はこのまま5人でゴリ押しで戦うこと考えてみたんじゃがな.......やめた」


「どうしてです?」


分からん、このまま安牌を取って解決してしまえばいい話ではないか。


「確かに、このまま五人で畳み掛ければ勝てる、確かに勝てる。だがこれでは、次に繋がらないとワシは考えたんじゃ、所詮身にかかる火の粉を払っただけで、何も得ていない。トン、お前の自信も、取り戻せないまま終わってしまう」


「そうですかね......」


僕は疑問に思う、確かに次に繋げられる事は何もないかもしれな......いや、なくはないだろう、トンは仲間との協力の大切さをこれで学んだはずだ。


「じゃからワシは、自信を持ってもらうために、お前たちを鍛えようと思う!」


うーん..........

僕はあまり納得はしなかった。ただトンはこの話を聞いて、熱くなったのか、目の奥に炎が見えた気がした。なんか....本当に純粋だなぁ、修行するって聞いて、ワクワクしたり期待するだけの心の余裕があるなんて羨ましいよ。


「よろしくお願いします!!」


トンは腰を90度曲げた。僕は相変わらず冷めたままだ。爺さん一人で四人を指導するなんていろいろと厳しいだろう。そのことについて何か考えはあるのか彼に聞いた。


「でも一人で4人を指導するのって大変じゃないですか?どんな感じでやるんですかね.....」


爺さんはこれに自信満々といった感じで答えた。


「それに関してはもう考えてある。実は、もう一度山に登るのは身を隠すためだけではないんじゃ、村から、西の山の奥に住んでいるワシの友人を訪ねるためでもある。その友人に、お前を指導してもらう予定だ」


そう言って、爺さんはトンに指をさした、爺さんの友人......一体どんな人なのだろうか、ビリーと爺さんは確か魔王軍幹部を討伐したクランのメンバーだったのだから、その類の人だと僕は予想した。


「急に訪ねて.....僕に教えてくれるのでしょうか.....?」


トンは不安な眼差しで爺さんを見た。爺さんもビリーのジジイも、かなり癖の強い性格だったから、一筋縄ではいかなそうである。


「なあに、頑固な奴じゃがワシが頼み込めばいけるいける、心配はいらんよ...」


笑顔でトンの肩に手をおきながら爺さんはいった、トンも「そうですよね」と笑顔で言いつつも、不安は消え去っていないように見える。トンは...恥ずかしさで一時的に落ち着いただけで、自分の弱さに対する不安はまだ消え去っていないように見ていて感じた。もしトンがこの先何かを失ってしまったら、また彼はやけっぱちになって、僕の前から姿を消してしまうだろう、今思えば爺さんが修行を提案したのも、そのトンの未熟な心を、どうにかゆっくり指導していくことで強くしたかったのかもしれない。でもそうだったとしても、その指導を友人に任せたのか、この文を書いている時はではあまり分からない。


「よし!、もう聞くことは無いな、トン、道案内を頼むぞ」


「はい!」


お互いの不安がなくなった所で、僕らは村へ向けて下山を再開した。このまま無事に山を降りることができる。

.....そう考えていた。


「見つけたぞ」


竹藪と森の間の道を進んでいる時、であってしまった。

黒い服に身を包み、真っ白に染まった髪.....ウォングなんかではない....どす黒いオーラを感じた。

あの.....あの赤服が言っていた大臨会のリーダー、ドルに出会ってしまったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る