第15話 爺さんと作戦
どうもカイ・サカグチです。
僕は今、村の外れにある神社の西門辺りに爺さんと朝早くからいます。眠いです。
寒くはないです。パンツ一丁ではなくなったのでね。変装ということで、ボロい古着を借りました。
トンが来るまでここに待機、反対側の東門らへんには洞窟カップルが待機しています。
「まだですかね.......」
僕はもう待ちくたびれた。かれこれ体感時間は2時間ぐらい、トンがおとりとなって南門から神社の敷地内に入ることになっている。だが今のところは人の気配が感じられない。トンは無事か?
「なかなか来ないな。ま、今んとこは追いつかれて捕まっていないことを信じて待つだけじゃな」
爺さんは自分で作った肉まんをモグモグしながら待っている。
トンが心配だ、もし追手にヴォングがいたら.....うーん、ヤバい気がして止まない。
「そうじゃ、お前肉まん食わないか?あった時からずっと思っていたじゃが、体型が細すぎる!見ていて心配じゃ」
「別に大丈夫ですよ、食べなくても平気ですし」
「不死身だからってか?お前な.....食べないといざって時に力が出んぞ?」
「僕魔術師ですし、力とかいらんのですよ」
「本当にそうかな、お前の魔法は不安定じゃ、自分は大丈夫かもしれんが、周りの人に迷惑がかかるかもしれん」
「...........」
「その魔法だけで、友達は守れるか?」
確かに、守れやしない。だが僕はこれしかできない。普通の人にはあるものが僕にはないから。
その時。
「おい、止まれーーっ!!」
「もう逃げられんぞーーーっ!!」
南門の方を見ると、トンが赤服を三人連れて神社の境内に入ってくるのが見えた。トンは息切れ一つせず、相手の方を見ている。
赤服どもは三人とも昨日飲食店で戦った奴らとは別人で、2人は槍を持っており、もう一人はラングと同じぐらいの体格で素手。部隊長みたいな感じなのだろうか。
この時点でトンを助けに行きたいのは山々だが、じっと我慢しなければいけなかった。作戦にはまだ続きがあったのだ。
赤服が槍で一斉にトンに突っ込んでくる。トンは交わしながら槍の逆輪辺りを握って無効化し、赤服二人を蹴り飛ばした。ここまではよかった。
だが、次の瞬間トンは背後からの攻撃を受けた。部隊長が背後に周りこんでいたのである。
「なかなかやるじゃねぇか、小僧。次は俺とだ」
トンはすぐさま振り向き、部隊長の胴体にパンチの応酬を浴びせるも、奴はびくともしない、平気だと言わんばかりにドヤ顔を決めている。そして、トンの腕を掴み、顔面を殴った。
「ぐぅっ!!」
トンはその勢いで地面に転がった。奴は指をぽきぽき鳴らしながらトンに近づく。トンはなんとか立ち上がって蹴りを浴びせたが、効かずに再び殴られた。
「ははは、力が足りんなぁ」
「グッ.......」
「大人しく俺たちに捕まって、宝の地図を渡してもらおうかぁ」
ヤバい、このままじゃトンが捕まる。
元々立てた作戦ではトンが赤服を一人以外全員倒し、残った奴にヴォングを呼ばせて、きたところを僕たち四人が飛び出してボコる予定だった。
だが、今の状況は作戦がどうこう気にしている場合ではない、反対側の門を見ると、ラングが今にも飛び出さんとばかりに構えている。
「救出しましょう、チャウさん!!」
「しょうがない....ワシが最初に行く」
爺さんが一番最初に境内に入り、部隊長の顔面に思いっきり飛び蹴りをかました。
残りの三人も、それに続く。
その時。
「こっちだ、急げ!!」
ドタドタドタと大人数が神社の境内に入ってきた。全員、赤い服を着ている。
さっきトンに蹴っ飛ばされた奴が仲間を呼んでいたのだ。。
「援軍か!!」
「まあ丁度いいわね」
洞窟カップルはやる気満々である。フェイは棒、ラングは素手で大臨会の援軍と戦いに向かっていった。彼らの援護をしたいのはもちろんだが、まずはトンの救出だ。
「くそっ!!誰だ俺に飛び蹴りかました奴は」
目のあたりを蹴られたのか、目をつぶりながら腕をブンブンと振り回している。僕は若干ふらついているトンに声をかけた。
「大丈夫ですか!?」
「はい、なんとかぁ......まだやれます」
「無理しないで、下がってください!」
「嫌だ....僕が...戦わなくちゃいけないんです...」
トンは、使命感に囚われてしまっている。困ったなぁ。
一方爺さんは部隊長と雑魚を同時にさばいていた。部隊長やら雑魚やらの攻撃を体全体動かして交わし、反撃のチャンスを伺っている。
援護しなければ
「エイヤッ!!ボッカス・ポーカス」
「ついにやったか.....」
爺さんはこれを聴いて警戒し始めた。ジジイから散々なのも聞いていたか。
魔法陣から出てきたのは........箱、しかもダンボール。っぽい物とかそう言うのじゃなくて、マジのダンボールの箱である。
「なんですかこれ.......?」
トンがダンボールの箱をみて言った。異世界にはまだダンボールというものはない。つまり初めて見たわけである。
「分かりませんが.....こういうのには中になんか入ってるパターンが多いです、開けて見ましょう」
とりあえず、上についているガムテープを剝がして中を確かめる事にした。箱はそこそこ大きい、僕らが期待している物が、入ってるかもしれない。武器とか.....そこら辺。
だが、入っていたものは、予想を遥かに下回る最低なものだった。
箱を開けると、鼻に突くような悪臭が僕を襲った。臭い、臭すぎる。僕はすぐさま箱から離れてえずき始めた。やばい、胃酸が出そうだ。
「大丈夫ですか!サカグチさんっ!!」
「トンさん....あの箱にはオエ”エ”エ”エ”エ”ッ」
「サカグチさぁん!!!」
中に入っていたのは腐った肉の詰め合わせと黒い塊とシャベル。
......意味が分からない、なんだこれは。統一性も糞もないし用途も分からない。出すものは神様方が決めているらしいが、いくら何でもこれは狂ってる。おかしいでしょさすがに。邪神に考えさせたのか?
「おい!なんかいいもん出たのか?」
爺さんが赤服をビンタしながら、こちらの状況を聞いてきた。
「残念ながらこのざまです......」
僕は箱の方に指を指しながら、失敗を訴える。再び唱える気力はない。今はこの気持ち悪さに打ち勝てるかどうかが鍵だ。
「なるほどなぁ.......こいつはひどいな」
ふと顔を上げると、爺さんが箱の中身を見ていた。発酵した生ゴミの臭いがしてやばかったのに、爺さんは何ともなさそうである。
「確かに酷いなぁ......まあでも、使えないことはないな」
そう言うと、中にあった腐った肉、黒い塊、シャベルを取り、向かってきた赤服にまず塊を投げた。
「うおっ!!」
命中して声を挙げたその瞬間。爺さんはすぐさま懐に入り込み、口の中に腐った肉を無理やり突っ込んだ。
「な、何しや.....ウォ”エ”エ”ッ」
口の中に肉を突っ込まされた赤服は、たちまち悶絶した。
「ふあはははっ!!うまくいったうまくいったぁぞぉ」
ジジイは自分の思い通りに事が進んだのを喜んでいた。
「この野郎!!」
もう一人の赤服と部隊長の攻撃をシャベルを使って片手で受けつつ、塊を投げた。今度は目に命中。部隊長の面をシャベルで殴りながら、再びもう一人の赤服に無理やり肉を口に入れた。
「なんだこれっ....まずいっ!!うぉ”ろ”ろ”ろ”!!」
赤服は吐いた。
「この野郎!!」
いよいよ残る敵は部隊長のみとなった、ラングとフェイの方は見た感じだいたい片付いている。トンはさっきから食い入るように爺さんの戦いを見ている。
爺さんは部隊長のパンチをよけてシャベルでちまちまと殴り、ダメージを与えた。そしてそのまま、神社の石像の前まで離れた。
「ははは、動きが遅いわ」
それを聞いた部隊長は激怒した。
「なめやがってぇ!!」
切れた闘牛のように、全力で突っ込んむ、ぶつかる瞬間に、石像の上に乗ってかわした。
部隊長の方は、何故か頭突きを繰り出していたので、思いっきり石像に頭をぶつけた。
「ぐぉぉおっ!?」
滅茶苦茶痛そうだ。
爺さんはその隙を見逃さず。石像の前で頭に手を当てて痛がっている奴の顔を石像の上から足裏で挟んで捕まえた後、口に肉を突っ込んだ。
「ゲッホッ、ゲッホッ!!」
「これで終わりじゃな」
実際、戦いは終わった。
「撤退....ゲホッ......撤退....」
せき込みながら、部隊長は撤退を部下に命じる。洞窟カップルの周りにいたやつらもそれを聞いて、倒れた仲間に肩を貸したりしながら、南門からぞろぞろと出ていった。
結局ヴォングはこなかった。
「逃がしていいのかしら?」
フェイが僕たちの前に来て言った。
「なぁに、これであいつらはしばらく戦えなくなったじゃろ、ヴォングとかいうやつがこなかったのは残念だが、よしとしよう」
一応爺さんの計算どうりだったわけである。とりあえず、僕たちも一回解散することにした。洞窟カップルは自分の家へ、僕とトンは帰る家がない(まあ廃墟があるが、あそこにトンを止めるわけにはいかない)ので爺さんの家に泊まることにした。
トンは、今回の戦いで酷くショックを受けたようだ、すっかり自信を無くしている。食事の時でも、トンは気の抜けたような顔をして、黙々とご飯を食べるだけで、僕たちの話に参加することはなかった。それを見かねた爺さんはトンに声を掛ける。
「まったくどうしたんじゃ.....そんな落ち込んで...」
「.........自分の攻撃が、全く効かなかったことが...たまらなく悔しいです」
「そんなに落ち込まないでくださいよ、一様思い通りには言ったんですよねぇ、チャウさん」
「そうじゃ、狙い通りなんじゃ、そんなに気を落とすな、誰にだってそう言う経験はあるもんさ」
「.............」
トンはそれを聞いても、不安が隠せないというような表情をしていた。彼は、ヴォングに負けたことに加えて、部隊長だったとは言え赤服に完敗したことが引っかかっているようだ。
自分は足手まといになっている。とも感じているのかもしれない。励ましてやりたいところだが、既に足手まといになっている僕からの言葉何ぞあまり意味がないだろう。
トンと僕の寝る部屋は一緒なのだが、互いに一言もしゃべらなかった。気まずい、死ぬほど気まずい。明日、もしかしたらトンが一人でどこかに出て行ってしまうのかもしれない、そんな感じがした。
僕はどうしていいかわからないまま、とりあえず寝てしまった。「お休み」の一言さえも言えずまま.........
翌朝、僕は物音も聞いて目覚めた。目を開けると、トンが部屋から出ていく姿が見えた。
僕はすぐさま飛び起きた。バッと、ここまではっきりとした目覚めは初めてである。なぜ出ていったのか、それを考えながら、彼の後を追う。
もしかしたら.....僕の予感が、当たってしまったのかもしれない。
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