第13話 頼れるカップル?
山の中を突き進んで、夜だから周りがよく見えなかったもんだからあっちゃこっちゃ行って。
夜通し走って村に着いたのは昼頃だった。村のしょぼい建物が見えて、これほど嬉しいと思えた事は無い。
トンは俯いて、僕と目を合わせようとしない。
自分の力不足で助けられなかった、そう思っているのだろうか。だが、はっきり言って僕はそうは思わない。トンの父親は、トンに財宝の事を話しておくべきだった。トンに不安をかけたくなかったのか、何を考えて話さないで置いたのかはわからないが、話しておけば対処出来たのかもしれない。
まあ彼を今非難しても、もう、しょうがない。
パンツの中に入っていた紙を取り出した。紙は何十にもたたまれていて広げてみるとそこには地図が書いてあった。
恐らく中心のバッテンが財宝の埋められている場所だろう。
周りの地名はどれも見覚えの無いものばかりだった。18年前と名前が違ったりしているものあるが、根本的にこことは地形が違う感じだった。
詳しくは書かない。
トンを村の外れの僕のボロ屋において、一週間ぶりに村を散策すると、村の雰囲気が更に悪く、というか僕たちからしたら更に最悪の状況に代わっていた。
あのヴォングの部下の赤い服を着た連中が村中に何人もいたのだ。彼らは商人を脅して商品を奪ったりしているのを目にした。なんて乱暴な奴らなんだ。こういう奴らは、転生者がこの世界に台頭することで、いなくなるもんだと思っていた。人々にとっての”悪の存在”は皆沙汰されるものだと考えていた。
だが、現実は違った。転生者は必ずしも清き心を持った人間では無かったのだ。彼らは、いや、僕たちは確かに転生前の進んだ技術をあやふやではあるが伝えてゆき、この世界を豊かにした。だがその一方で力に溺れ、野心を起こし、国を乗っ取ろうとしてクーデターを起こすものもいた。人間に絶望し、魔族側についたものまでいた。
転生者も突き詰めていけばすごい力を持ったただの人間でしかないのだ。転生者どうし嫉妬しあい、争ったりすることも珍しいことではない。今やこの世界は二つに分かれている。
転生者同士争いあって滅茶苦茶になっている地域と、転生者同士手を取り立って平和が守られている地域だ。
この世界の人類の命運は、転生者によって握られている
話を戻そう、そんな光景を見て見ぬふりをしながら、僕は飲食店に入った。この件は、トンと僕では解決できないだろう。
協力者が必要だと考えた。まずワンは役に立たないのでパス、ジジイは......うざったくて嫌だが仕方ない、実力は確かだ、肝心な時にやらかすがな。
「いらしゃい」
店員が、僕を空いてる席に案内した。いまは昼時、店はギルドの冒険者で繫盛していた。見回した感じ、ジジイはいなかった。いつもなら酒を飲みながら店員とペチャクチャ会話してるのに、ちなみにジジイの家はどこにあるかわからない、教えてくれなかったのだ。
皆、街中にいる赤い服の連中の愚痴を言っていた。
「ちきしょう......あの大臨会とかいう連中にクエストの報酬取られた、これからどうすりゃいいんだ.......」
「そいつは災難だったなぁ、俺も最近、薬草十個取られたよ....ほんとなんなんだよ......」
この町の冒険者のほとんどはこんな感じの情けない奴ばかりだ。愚痴だけで、立ち向かおうとしない。
僕は店で一番奥の席に案内された。
「ご注文は?」
ジジイ見つけて帰るつもりだったから、なに食べようか考えて無かった。
「お茶を一杯.......」
とりあえずお茶。
以外にも、この世界には緑茶がある。転生者が広めたのは技術だけではない、食や文化も広めていたのだ。
転生者は日本人がほとんどだから日本人好みなのはありがたいありがたい。まあ貧乏だから全然くえねぇんだけどな。
フッと前のテーブルをみると、そこの席に座っていた女と目が合った。見覚えのある顔だなあと思っていたら、その席に座っていた2人はあの洞窟カップルだった。
となると、手前の背中は洞窟カップルの男の方か。
女、いやあいつの名前は「フェイ」と言ったな、フェイは僕の顔見て、変な物を見たかのような反応をして、睨んできた。
フェイとは二つ因縁がある。ジャイアントスネーキーに苦戦している所を僕が助けようとしてクエスト事態をダメにしたのと、人間をさらったオーク討伐に僕を推薦した事だ。
そういえば、フェイがこの村にきたのは割と最近の事だったりする。1年前だったか、村にきれいな女の冒険者が来たとか言って冒険者の中ではそこそこ話題になっていた。まあ男連れてきたんだけど。
彼女は、たった一年でギルドの中でも発言力を持つ地位まで駆け上がっているかなりの実力者だ。危険なクエストも村一番のクリア率を誇る。顔も綺麗だ、転生者のハーレムの一人に居てもおかしくない、どうして彼女が見た感じ脳筋の屈強な男である「ラング」と付き合ってるのか理解できない。
幼馴染とかいうやつか?
........そう考えると、この件にジジイの次に適任なのはこいつらなのではないか、と考えるようになってきた。誘いたいところだが、僕の顔を睨んでくる辺り僕の事をよく思っていないだろう、協力を得るのは難しい。
「どうしたんだ?、そんな怖い顔して」
ラングがフェイに語りかける。
「別に........」
彼女はシュンとした表情をして何も言わなかった。
ラングは振り返って、僕の方を見た。そして彼もばつが悪そうな顔をした。
何とも言えない居心地の悪さを感じていると、その時。
「いらっしゃ........」
入り口の方をみると、例の赤服の奴が5人ほど、店の中につかつかと入って来た。奴らの手には槍とか剣とか武器が握られている。店の中は、たちまちどんよりとした空気に包まれた。
「おい、あいさつもちゃんとできねぇのかよ」
店員の肩を押しながら言った。
「おい、さっさと席に案内しろ」
店員は冷や汗をかいていた。席は今、満席なのである。
「それがあの.....今は満席でして.....少し待ってもらえませんか.....」
戦闘の奴は槍の持ち手を床にガンッ!!とやった。店内にいた人のほとんどが震え上がる。
「満席だとぉ?知ったこっちゃねぇ!俺たちは今腹ぁ減ってるんだ、客どかしてでも案内しろぉ!!」
極悪な奴らだ、店員は震え上がって奥の方に引っ込んでしまった。
「使えねぇ......」
愚痴を叩きながら、奴らは奥の一番大きいテーブルの前まで来た。僕からもまあまあ近い所だ。多分、ヴォングはまだこの町にたどり着いていないだろうから、僕の事はまだわからないだろう。
「おい、てめえらどっか行け」
元々座っていた5人のパーティーは恐れをなして何も言わず店を出ていった。奴らはそこに座って騒ぎ始める。ほかの客はうんざりしたのか徐々に、店から立ち去っていった。
フェイの席方をみると、二人は奴らをにらんでいた。お茶をゆっくり飲みつつも、不機嫌な態度は隠しきれていない。奴らも視線に気づいたのか、フェイの方を見た。
彼女を気にいったのか、奴らは顔を見合わせてニヤニヤしていた。その様子を見た僕の顔は引きつった。きめぇ。
奴らのリーダー格みたいなのがついに、声をかけようとフェイの席に近づく。この時の顔がマジでキモかった。猿みてぇだ。
「やぁやぁやぁ、お嬢さん?これから俺たちと遊びに行かないかい」
こいつらラングの事が見えていないのだろうか、これを聞いて、彼は腕を組んで赤服を睨んでいる。
「行きません、あなた達の事よく知りませんし」
即答だった。フェイはこいつらと目すら合わせていない。
「知らないだって?俺たちゃ大臨会って言うギルドのパーティーさ、怪しいもんじゃねぇよ」
そう言いながら、こいつの手にはしっかり剣が握られている。脅す気満々である。
「そうですか、どちらにしてもお断りします。ほっといてください」
大臨会......聞いたことがない。一体どのようなギルドなのか調べてみる必要がありそうだ。
「おいおい...そんな冷たいこと言うなよ、こんなゴリラみたいなのとつるむより俺たちといた方がいいぜぇ、そのほうが有意義さ」
ゴリラ.......確かにラングはこの村で一番ガタイが良いので冒険者たちから陰でゴリラと愚痴られている。ガタイがいいだけでゴリラといわれるのはおかしいだろうと思う人がいるかもしれない、実は、もう一つ理由があるのだ。
それは.....
突然、フェイに話しかけていた赤服が後ろに吹っ飛んだ。壁に激突する。
飛ばされた赤福は若干びっくりした顔をしながら頬を抑えていた。
「て、てめぇ!!」
後ろで見ていた赤服どもが、武器を握って席からたった。
「いい加減にしろよ糞ったれども......しつこいんだよ」
殴ったのはラングはだった、彼の怒りは頂点に達していたのだ。
この男、沸点が低いのである。
「流石に店の中で乱暴するのは....ダメだと思うよ」
「すまんな.....つい頭にきたもんで....」
こう二人が話しているその瞬間。赤服が彼らの背後に向けて突撃してきた。
これはヤバいなと思って、僕はたまらず、テーブルの上にあった箸の束が入った入れ物をぶん投げた。
入れ物は顔面に命中し、赤服は「いでっ!」という声を上げて顔を抑えた。気づいていなかったのか、カップルはびっくりしていた。
「この野郎!!」
別の赤服が斧を僕に目掛けて振り下ろしてきた。僕はよけることをハナから諦め、目ぇつぶって身構えた。
ああ....背中切られるだろうなぁ....いてぇだろうなぁと考えていると、ガキン!という音がした。なんだと思って目を開けて上見ると、ラングが斧の一撃を大剣で受け止めてくれていた。
「これで、お互い様だなぁ!」
ラングは斧を弾いて、僕を助けてくれた。ありがたいことだ、女に助けられるのは恥ずかしいと思っていたからね。
「切りかかれ!!」
店内はたちまち戦場と化した、残っていた客も走って外に逃げていく。店内に残ったのは、僕とカップルと赤服の奴らのみだ。
フェイは赤服の薙刀攻撃をかわし、蹴りを浴びせた。
「おい、お前もボーっとしてないで戦えよ!!」
赤服の腕を抑えながら、ラングが叫ぶ。飯を食っていないので、頭がまだふわふわするが、戦うことにした。
横から赤服が斧で切りかかって来た。よけ.......られない!!後頭部若干切られた!!
「死ねぇ!!」
別の赤服が、薙刀で突いてきた。もう黙ってやられるわけにはいかない、店の中なので使いたくはないが、ボッカス・ポーカスをやらざるをえない。
攻撃よけて、フェイが相手してくれている間に、テーブルの下に潜って唱えた。
「セイッ!!ボッカス・ポーカス」
唱えた瞬間、フェイが物凄い勢いでこっちを振り返った。
「ちょっと!!そのヘンテコ魔法使うのやめてよ!!」
仕方ないのだフェイ君、君たちを助けるためなのだ。僕は自信に満ち溢れた顔をした。
「見てて下さい....必ずいい結果が出ますよ.....」
僕は必ず、いいものが出ると思っていた。
トンの為にも、ここは2人にできるアピールをしなくてはならない。
だが、現実は非情、いや神が非情なのかもしれない。
僕は次の瞬間、宙に浮くような感覚を感じた。目の前が真っ暗になっていた。意味が分からない。自分は今どうなっている?
そんなことを考えていると、頭に強い衝撃が来た、マジで痛かった。それで僕は薄れゆく意識の中で気づいた。
僕は、ボッカス・ポーカスによって足元に出来た穴に落ちたのだ。
バゴッ!!というテーブルが上に落ちた音を聞いて、僕は失神した。
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「○○○........チョットキナサイ..........」
「コレハイッタイドウイウコトダイ............トウサントヤクソクシタロウ?................」
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