第9話 遂に登場!オークのボス
深い森の中、僕らはただひたすら進んだ。
さらわれた女の子の母親を救う、そんな任務ももうすぐ終わりを迎えそうだ。オークのボスを倒せるとかそういうことではない。僕らは今、遭難しているのだ。
このままじゃ僕以外死ぬ、マジで死ぬ。森の中めちゃくちゃ暑いからもう全員体中汗まみれだ、ワンなんかあと一時間ぐらいたてば動けなくなるだろう、表情からそう見て取れる。
そんなワンの顔が、急に明るくなった。
「み、見てくださいよあそこ!!村ですよ!!」
そう言って人差し指を前に出した。
村?こんな山奥に村なんか......と思ったが、確かに先を見ると人工的に作られた柵らしき物が木の陰から見える。それに気づいたトンも。
「おおっ!確かに村です!」
と声を上げた。確かにあれは村かもしれない、だがなぜこんなにも違和感を感じるのだろうか.....なんだろう、なんかもやもやする。
そんなことを考えていると、村に行って水でも飲みたいのか、ワンが村の方へ走ってったその時。ジジイがトンに言った。
「トン、あいつを止めろ」
そう言われて何かに気づいたような反応をしたトンは、ワンを後ろから抑え込んだ。その時、僕もようやく気づいた。何で今まで気付かなかったんだろう、暑さに頭がやられていたのだろうか。
「何するんですか!!離してください!!」
ただ一人、事情がわかってないワンは必死にトンを振りほどこうとする。そんな様子を見て呆れた様な反応をしたジジイは言った。
「まだ気づかんのか馬鹿者!、あの村はただの村じゃない!オークの村なんじゃよ!」
それを聞いた瞬間、ワンの体から力が抜けていった。
「そ、そんなぁ~~........」
その場にへたり込み、今にも泣きそうな様子だ。まあ散々暑い森の中を歩いた末にたどり着いたのがオークの村とか旅人だったら泣けてくるよな。旅人だったらな。
僕らは木の陰に隠れて作戦会議をすることにした。
「とりあえず.......どうしましょうか」
そんなこと言いながら、僕はジジイの方をチラチラ見る。このメンバーの中で作戦を建てられそうなのはこいつしかいない。
「うーん、まずは中の様子を見たほうがいいのう」
確かに爺さんの言う通りだ、オークが何頭いるか、とか村の広さはどれぐらいかとかみといた方がいいだろう。
まずはこれをやることに決定し、役割はトンが引き受けてくれた。
しばらくして、トンが戻ってきた。その顔は若干困惑した感じだった。一体彼は村で何を見たのだろうか。
「ど、どうでしたか......」
ワンが緊張した表情で聞く。
「そ......それが....オークは一頭も見当たりませんでした」
え?
「ええっ!?」
思わずワンと一緒にでけぇ声だしちまったよ。
「そうか.....村の建物はどんな感じじゃった?」
ジジイは冷静な様子で建物の外観を聞いた。
「建物は村の奥の方に怪しげな黒い塔以外は人の村と同じ感じでした」
怪しげ塔は見るまでとりあえず置いといて、やはりそこらへんの技術も人間と同じレベルに達しているのだろうか。恐ろしい限りだ。
「誰もいないなんて......それって昔、人が住んでた村とかなんかじゃ.......」
確かにそういう解釈もすることができる。
「でも.....家とかは最近建てられた感じだったんですよね、朽ち果ててたり、崩れてたりとかはなかったんですよ......」
うーん、結局なんなのか分からない.........もしかして.....罠だったりするのか?村に入った瞬間全方位から矢が飛んでくるとかそういうやつなのだろうか。
「まあ、入ってみればわかるじゃろ」
そうこう僕たち3人が色々考えていると、爺さんが村の方へ歩いて行きながら言った。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!まだあの村が何の村かも分かんないのにもう行くんですか!?」
さっきと立場が逆にワンが爺さんを止めに行った。爺さんは目の前に立ち塞がったワンをけだるそうな顔で見ている。
「なぁに心配はいらん、ワシは今サーガンソード持っておる。これがあればよほどのことが無い限り心配はいらんじゃろ」
確かにその通りだ、この剣は僕が召喚しなければ世界に一つしかない伝説の剣だ、どんな相手が来ようと負けることはまずないだろう。しかも剣を持ってるのが経験豊富な爺さんときたらもう無敵、金棒に鬼ってやつだ。
「まぁ.....そうですけど......」
ワンはまだ納得がいかないような顔をしていたが、僕が行くと言うと特に不満も述べずに僕らの後をついていった。
木材で作られた塀が空いてる部分、いわゆる入り口みたいな所から村に侵入した。村の中の様子はトンが報告した通りだった。誰も外にいなくてシーンとしている。女オークはここにいないのだろうか。
左右を見ると、藁で作られた家がたくさん並んでいた。塀が木でできているのに、家が藁ってどういうことなんだ?やはり我々人間にはオークの感性を理解することは出来ない。
色々見ていると、僕は気づいた。明かり用の松明が燃えている、これはオークがここに直前までいたことの証拠だ。
すると爺さんが、僕らの前に手を出して歩くのを止めさせた。爺さんはじっと黒い塔を見ている、何が見えたのか、と僕らも彼の見ている方向を見ると。
黒い塔の門が、ゆっくりと開いていく。門の中からうっすらとオークのシルエットが見えた。
「ふははははははは!!よくぞここまでたどり着いてくれたなぁ!人間達よ」
この汚い声....洞窟内で聞こえた声と一緒だ。
オークのシルエットがゆっくりと歩み寄ってくる、門の外に出て、太陽の光にさらされて、その姿をあらわにした。大きさは3m、洞窟内でみたオークとは違って獣の牙などのアクセサリーを身につけており、手には圈と呼ばれる金属でできた輪っか状の武器を持っている。
その巨体と派手な格好に僕たちは圧倒された。これはやべぇ。なんか只者ではないという感じがする。爺さんやトンは苦しい表情をしてるし、ワンは僕たち3人の後ろでうずくまってる。
そのでけぇオークは腰に手を当てて、僕たちを見下ろしながら話し始めた。
「我が名はヤオグ!魔王軍の幹部である!!」
え?まじ?
なんで?なんで魔王軍幹部がここにいるんだ?
僕たちの住んでいる村「ボベダ村」は人口500人ぐらいの小さな村だ。王国と魔王城の間にあるというわけでもない。世界地図で言えばクッソ端っこの方にある。
なんでこんなところに幹部を派遣しているのか、意味が分からん。
「ま、魔王軍幹部だって......!!」
トンはとても驚いた顔をしている。驚くのも無理はない、ここら辺で冒険者やってる人間は戦う機会がない相手だ。本来ならもっと栄えてる栄えてる町とかに現れるはずである。
別に「ボベダ村」には特産品があるとかそういうのもない。
ワンはすっかり顔が青ざめている、最初っから危険だったのはわかってたとはいえ、魔王軍幹部は予想外だったみたいだ。
爺さんは若干顔をしかめている、僕と同じような事を考えていたのだろうか、それとも”クスリ”が切れたのか。
「ええい!ヤオグとやら!さらった村の人を返せ!」
トンがヤオグに指を指して叫んだ。若干緊張しているのか言葉がたどたどしい。
「返してやろう....」
静かに俯きながらヤオグは言った。その顔には若干、笑みがあった。
怪しすぎる。
「本当ですかっ!!?!!」
後ろで静かに震えていたワンが、急に声を張り上げて言った。
......んなわけあるかよ。
「俺を倒せたらの話だがなっ!!」
だろうと思った。
この気迫に、ワンは尻餅をついた。もうションベンを漏らしそうな感じでびびっとる。
「馬鹿....そんな虫のいい話があるわけないじゃろう.....」
爺さんが呆れた口調で言った。全くもって爺さんの言う通りだよ本当に....
と、その時。
「死ねぇっ!!」
ヤオグが飛びかかってきた。
4人それぞれ、様々な方向に逃げることで攻撃をかわした。
「こやつ....動きはそんな素早くない、4方からいくぞ!!」
爺さんが相手の動きを分析しすぐさま作戦を立てた。
悪くはないが、ワンが家の中に入って隠れてしまったため、すぐさま没になった。
ワンが逃げたことをしった爺さんは「あの臆病者め.....」と悪態をついた。
一方トンは3mの巨体をもつヤオグにひるまず攻防を繰り広げていた。動きの鈍いヤオグの攻撃をよけ、一撃を打ち込む。
だが、ヤオグの肉体はとてもかたいため、攻撃を受けても全然ひるまなかった。
「動きはなかなか素早いな.....だがこれはどうだっ!」
トンが腹に目掛けてパンチを繰り出したその瞬間、ヤオグの姿がフッと消えた。
「なっ....!!」
これにはトンも、それを見ていた僕たちも驚いた。
でもよくよく考えたら驚くほどでも無かったなとこの文章を書いてるときに思った。
ヤオグが消えて少したった後、僕たち3人の前に緑色の魔法陣が展開された。
「なるほど、あいつはトランサメントを使って姿を消したのじゃな.....」
「トランサメント」とはいわゆる透明化魔法のことである。トランサメントはその類の魔法の中ではランクが低い魔法であり、透明になってる時は相手に触れることができず、また解除には少々手間がかかるのが特徴だ。
魔法陣が展開されているということは、解除の準備に入っているということだ。
「なるほど.....でもどうして奴は解除の魔法陣をこんなところに展開してるんでしょうか?」
トンは首をかしげながら言った。確かにそれは僕も疑問に思ったと言った。
その瞬間。
「いかんっ!!後ろじゃ!!」
突然、背中に強い衝撃が掛かった。僕の体は思いっきり前方に吹っ飛んだ。
くそいてぇ。
僕の肉体はそのまま村の家に思いっきり突っ込んだ。
体のあちこちがズキズキと痛む、常人なら多分これでもう動けなかっただろう、それぐらい体が痛むのだ。
村の外から高笑いが聞こえた。
「フハハハハハハ!!愚か者どもがっ!見事に引っ掛かりおったわ!!」
ちくしょう、冒険を長く続けているがモンスター如きに一杯食わされたのは初めてだ。
僕は杖をつきながら体を引きずるようにして家から出た。
「サカグチさん!!大丈夫ですか!!」
「なるほど.....わしらの前に出てきた魔法陣は偽物だったというわけか.....」
僕を心配して駆け寄るトンと、ヤオグのひっかけについて話す爺さん。
にしても3人揃って騙されるとは思いもしなかった。魔術を使うモンスターに対しての実戦がなかった僕とトンが騙されるのはともかく、ベテラン冒険者の爺さんまでがこんな簡単に騙されるとは。
雲行きが怪しくなってきた。
「関心してる場合じゃないですよ.....と、とりあえず僕が魔法を唱えます」
こうなったら、リーダーである僕がなんとかするしかない、トンはさっきの攻防で息が切れてるし、爺さんも手が震えてきている。禁断症状が出かけているのだ。
僕はヤオグの数メートル前まで歩みを進めた。
「ふん、そんなボロボロでガリガリな体で何ができる!」と鼻で笑った。
ボロボロでガリガリでも、神頼みぐらいはできるさ。
「だ、大丈夫なんですか!?」
トンが僕に駆け寄った。僕は駆け寄った彼に耳打ちをした。
「......恐らく今までの結果からしてしょぼい物が出るのは目に見えている.....でも隙はちょっとぐらいできるはずだ...今のうちに爺さんから剣を貰って、隙が出来たら奴の首を真っ二つにしてやれ」
「は...はい」
トンは僕の耳打ちに、緊張しながら答えた。
こんな責任がかかる役割をトンにやらせたくなかったが、爺さんとワンがあれじゃしょうがない。
「お話は終わったか?いくら作戦を建てようが貴様ら素人どもには俺を倒すことはできねえよ」
ヤオグは慢心しているのか話をしている最中に攻撃してこなかった。
なめやがって、今に見てろ。
僕は手を前に突き出して唱えた
「これが僕にできることだっ!!ポッカス・ボーガスッ!!」
しょぼい物が出るとトンには言ったが、実はこの時、僕はいいものが出るのを心のそこではめちゃくちゃ期待していた。
しかし、僕はこの時まで忘れていた。
伝説の剣を出すときに。
運を全部使っていたことを。
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