第8話 若さが人間の強さの全てでは無い

僕らはオークの像の中にあった抜け穴から外へ出た。

出た先は開けた草原、周りは木々に囲まれている、天気は雲一つない青空だ。後ろに振り返ってみると急な崖がそびえたっており、出口はその崖に作られた洞穴の入り口というわけだ。

改めて、オークたちの技術の高さが感じられる。出られたはいいが、困ったことが一つ....いや、一つどころじゃない。


「うーん、これからどこに行けばいいんでしょうか...トンさんとワンさんはなんか洗脳されたみたいですし...荷物も取られちゃいましたし、そもそもここがどこかもわかりませんし」


何気にまずい状況なのは変わりない、このままいけばジジイは飢死してしまうだろう。なんかこう書くと他人事みたいだが不死身だからしょうがない。


「これからどうするかによるのう.....帰りたいなら一回頂上へ、でも無事に辿り着けるか、どれぐらいかかるか....」


そうジジイが言った瞬間、木々の間から二つの影が飛び出した。日の光に照らされて、その姿をあらわにした。

一人は白い道着を身にまとった筋肉質の青年、もう一人は顔から足の先までとろいって感じの中年。


そう、トンとワンだ。


恐れたことが、起こってしまった。二人は僕らの前に並んで立ち、じっとこちらを見つめている。怖い。

彼らの目は真っ赤に染まっている、明らかに正気じゃない。


「若造....あいつら正気じゃないわい.....」


「そうみたいっすね」


ジジイもただならぬ気配を感じ取ったようだ。ジジイの頭から冷や汗が流れる。

そんな感じでにらみあっていると、トンとワンが出てきた所から、一頭のオークと数匹のゴブリンが現れた。オークたちはトンとワンの後ろに立ち、見た感じ女性っぽいオークが腰に手をあて、こう言った。


「ふふふ....感動の再開だねぇ...」


ぶっちゃけるとトンとワンは初めてあってまだ数日しかたっていない、だから感動もくそもないが、とりあえず苦しい表情をしておく。


「貴様....トンと...ええともう一人誰じゃったかな........とりあえず何をしたんじゃ!」


ジジイが若干ボケながらも問いただす、こんな状況なんだからもっとちゃんとしてくれ。


「ふん、見てわからないのかい?こいつらはねぇ、あたしが魔法で洗脳したんだよ!」


自慢げに女オークが答えた、この女オークの声、さっき洞窟内で聞いた声とは違ってそこそこいい声で喋っている。となると、この女オークは洞窟内のやつとは別の奴だ.......。洞窟内で倒した奴?あいつは絶対聞こえた声のやつではないと自分は思っている!。保証はないけど。


「ええい貴様!!洗脳するとは卑怯な!!オークならその鍛えた体でぶつかってこんかい!!」


ジジイがオークに対して説教をかました、モンスターに説教かますとかこのジジイは肝が備わりすぎる。


「ふん、なにとぼけたこと言ってんだい......力任せに戦うなんて時代遅れさ...今の時代は技術を磨いてこそ、勝利が手に入るんだ....」


こいつ、本当にオークか?言ってることが的を得てて思わず相づちを打ってしまった。オークの発言なのに。


「何を生意気な.....」


ジジイもこの正論には反論出来ず、悪態をつくことしかできていない。


「ふん、ともかく貴様ら人間はここで仲間同士戦って死ぬんだよ!ハハハハ!」


女オークが大きな高笑いを挙げた瞬間、トンとワンが一歩ずつじりじりとこちらに迫ってきた、まずい、このままでは同士討ちをしてしまう、早く何か手をうたねば.....。

僕とジジイは互いに顔を見合わせながら、後ろに下がっていく。


「おい!若造!、なにか洗脳を解く魔法は使えないのか!!」


「なくはないですけど.....ボッカス・ポーカスで洗脳を解くのはかなり難しいです!」


そうこう言ってるうちに逃がしはしないと言わんばかりにゴブリンどもが後ろへ回ってきた。彼らの目も、みな赤色だ。


「とにかく!確率は0ってわけじゃないんじゃろ!なんとかしろ!それまでワシがなんとかする!!」


そう言って、ジジイが飛び出した、ジジイは二人の攻撃をよけなががら、僕をチラチラと見てくる。ジジイの体力が尽きる前に、なんとかしなければ。

とは言っても洗脳が解けそうな奴が出るまでボッカス・ポーカスを連続で使うのは駄目だ、下手したら僕意外みんな死ぬ。


となると、今まで隠していたもう一つの”アレ”を使わざるを得ない。


________そのアレとは、運を上げる魔法である。


運を上げて望んだ物を出やすくする、最大で望んだものを確定で出すことも可能という凄い効果である。これだけ聞けばいい魔法だが、当然、弱点がある。

その弱点とは、望んだ物を出した後、急激に運が下がり、しばらく出るものが悪いものばかりになるというものである。これはその後の僕の生活にも影響するので(とは言っても不死身だからそんなんでもないけど)使いたくは無かった。だが、今、人の命がかかっている。味方どうしで潰しあうなんて嫌だし、このままもたもたしていたら女の子の母親の身にもなにか起こってしまうかもしれない。


僕は覚悟を決めた。


3人が戦っている横で、僕は跪き、祈るポーズをとった。これが発動の印だ、他の魔法とは違って、魔法陣は何故かでない。


「な、なにやっとるんじゃ!!」


ジジイが僕の方を見て言う。顔をチラッと見た感じきつそうだ。


「ふん、仲間が必死に戦っているそばでお祈りとは.....見ものだねぇ」


女オークが僕を見てせせら笑う。今に見てろ。

運を上げる魔法を使った僕は、両手を前に突き出し、ボッカス・ポーカスを唱える体制をとった。僕が望むのは.....何でもできる万能の武器、伝説の道具シリーズの中でぶっ壊れレベルに強いと僕の中で有名な「伝説の剣」だ。


「ポッカス・ボーガス!」


今までの十倍ぐらい、輝いた魔法陣が展開された

僕の手前で一段と輝く魔法陣に、女オークの目線は釘付けだ。


「な....何をする気だ.....?」


女オークは恐怖を感じたのか震えあがり、すぐさまゴブリンたちに指示をだしたが、もう手遅れだ。

魔法陣から剣の持ち手部分が出てきた瞬間、風が立っているのがやっとのレベルで強く吹き始め、地割れが起きた。ゴブリン達はその地割れに飲み込まれたり、風で吹き飛ばされたりしている。ちょっと可哀想だ。

魔法陣から剣がゆっくりと出てきている時は、その場にいる全員が風に耐えながら見守っていた。


そして.......宝石のようにきらめきを見せる一本の剣が、魔法陣の真ん中に召喚された。


そう....この青く輝くこの剣こそが、僕の望んだ伝説の剣「サーガンソード」そのものだ、運の魔法でいいものが出る瞬間ってのは、最高に気持ちいいもんだ、顔のニヤニヤが止まらない。

まあこれは運を上げる事によって出たものだ、恐らく次からは最悪な物しか出ないだろう。


「凄いじゃないか!!でかしたぞ!」


ジジイは笑顔で二人を押しのけて剣の前に立った。僕は召喚した剣をジジイに渡した。


「これ....うまく扱えますか?」


僕が使ったらなんか....奪われそうなのでジジイに使わせることにした。


「まぁ剣は扱えん事もないのじゃが....これでどう洗脳をとくんじゃ?」


実はこの剣、ちょっとしたことをすることによって掛かった状態異常を解くことができるのだ。それは何かというと。


「この剣の樋の部分で.....太陽の光を反射して、それを二人の目に当てる.....これで洗脳は解けますよ!!」


「ほ、本当なんじゃろうな!!」


その時、トンの飛び蹴りが僕たち二人の前に飛んできた、ジジイは上手くかわしたが、当たるまで飛び蹴りが来ていたことを知らなかった僕はよけられず、蹴りが顔面に直撃した。めちゃくちゃ痛い、不死身じゃなかったら死んでた。

僕は地面に倒れながら、二人の追撃をかわすジジイに言った。


「とりあえず......今言ったことをやってください......これしか方法はありません.......」


そう告げたあと、僕は気を失った。これから書くことはジジイから聞いた奴だ。だからちょっとした捏造があるかもしれないから気を付けてくれ。


ジジイは僕の言葉を聞いて、気を引き締め、トンの前に立ち、にらみつけた。ジジイはこの時、自分が負けたら救出が完全に失敗する、とか様々なプレッシャーを感じたという。

こんなしゃぶやってるジジイでも責任とか感じるんだな。

そんな関心は置いといて、ジジイはトンを睨み付けていると、後ろからワンが飛びついてきた。どうやら2人がにらみ合ってる隙に、後ろに回ってきていたようだ。

だがジジイはそのことを察知していたようで、ワンの攻撃をひらりと交わした。ワンは運動神経が悪いので、受け身が取れず、地面に思いっきり顔から突っ込んだ。ジジイは前からくるトンの追撃を転がりながらかわしつつ、地面から顔を上げたワンに太陽光を反射した光を目に当てた。

ワンは「うおっ!」と声を上げて、目を手で覆い、その場にうずくまった。

上手く行ったことを確認したジジイは、次はトンに対して光を当てようとするも腕で防がれてしまった。


____隙を作らなければ、光を当てることは出来ん_____


そう考えたジジイは、トンに向かって接近戦を挑んだ、格闘家としての技術はジジイの方が上だが、力や体力はトンのほうが上だ。拳が一発でも当たれば、ジジイはくたばるだろう。

だが、遠くから当てることはできない。だからこそ近づいて隙をつくる必要がある。


(少々手荒だが.......やるしかないのぉ...)


ジジイはトンの攻撃をかわしながら、チャンスをうかがっていた。そしてついに、その時は来た。

トンがジジイに向けて思いっきり腰を入れた突きを放ったのだ、ジジイは息を切らしながら、左によけ、トンの手の甲を剣の持ち手部分で叩いた。即座にワンが「ぐうぅ!?」と手を抑える、なんかつぼの所を叩いたらしい。ジジイはその隙を逃さず光を目に当てた。

トンは目を抑えてその場にうずくまった。


「終わったか.......」


ジジイはその場に座り込み、ため息をついた。ここまで動いたのは久しぶりとのことだった。


「ば、バカな.....あたしの洗脳魔法がこんな簡単に......」


一方、女オークはこの結果に啞然としていた。光なんかで洗脳が解かれてしまったのだ。

だが、彼女はあきらめなかった。


「お前ら!!出てこい!」


そう叫ぶと、森の草の陰からオークが10頭ぐらい現れた。手にはナイフが握られており、攻撃の命令を今か今かとそわそわして待っている。ジジイはけだるそうな顔をしながら立った。

その様子を見て、女オークは苛立ちながら。


「奴を刺し殺せ!!」


と命令した。10頭のオークが、ジジイ目掛けて雄叫びを上げながらむかっていく、そのままジジイに切りかかるのかと思いきや、オーク達はジジイの周りを取り囲んだ。以外にも理性が働いているようだ。

ジジイはオーク達を睨み、剣を構えた、するとオーク達はジジイの周りを周り始めた。賢いもんである。

ジジイはそれを見て目を回した。その様子を見たオークは指示を出し、その瞬間、5頭のオークがジジイ目掛けてナイフを投げた、が、ジジイはそれをジャンプでよけた。なぜよけられたのか、実はあの時ジジイは目を回したふりをしていたのだ。

よけられることなんて想定しいなかったのだろうか、ナイフはそのまま対角線の先にいたそれぞれのオークの胸や頭に刺さってしまった。

それでも、オーク達は慌てなかった。次はジジイの着地の隙を狙って、一斉にナイフで突いた、いい機転の利かせ方だったのだが、これもジジイは見抜いていた。着地した瞬間、しゃがむ事によって攻撃をかわしたのだ。

「ヴっ!?」とオークは声を上げて驚いた。そしてその後、オーク達の体は真っ二つになった、ジジイが剣を持ってその場で一回転し、オーク達を切り裂いたのだ。


「くっ........!!」


女オークが苦しい表情をして、ジジイの前に来た。部下のあっさりとしたやられっぷりをみて、非常に焦っている。


「フン、もうおぬしの負けじゃ、とっととさらった女の所へつれていかんかい!」


ジジイは剣を前に突き出して、女オークに詰め寄った。だが女オークはあきらめなかった。


「ふふふ......これでもくらいなっ!!」


女オークは手を前に突き出し、ジジイの目の前に魔法陣を展開した。


「ふん、甘いわ!」


ジジイは魔法陣を剣で真っ二つにした。これは普通の剣なんかではできないことだが、伝説の剣だったらできるだろうと考えていたジジイのとっさの行動だ。

女オークはまた驚いた。剣で魔法陣が切れるなんて”予想外”の一言で済まされるレベルの物ではなかっただろう。

彼女はその場から森の中へ逃亡した、ジジイは僕たちが起きるのを待ったため、無理に追わなかった。


僕は目を覚ました、起き上がって周りを見渡すと、めちゃくちゃ申し訳なさそうな顔をしたトン、そこそこ申し訳なさそうな顔をしたワン、自慢げな顔で剣を見ていたジジイがいた。


「あのぅ......洗脳...解けたんですか.....?」


顔がヒリヒリしている、トンからくらった蹴りのダメージがまだ残っているようだった。


「ふふふ...おぬしのおかげじゃ、この通り、洗脳は解けておる」


ジジイはニヤニヤしながら言う、腹が立つが、解けたのはよかったよかった。

すると、トンがいきなり僕の前に跪いた。


「あ、あのっ!本当にすいませんでした!!怪我までさせてしまって.....なんというか....その」


凄いぎこちない謝り方だ、顔が赤くなって、必死に頭を回し、謝罪の言葉を考えていることが伺える。だが、はっきりいってこの出来事に関してトンは謝る必要はそんなにないはずだ。

夜の山の中を必死に歩いて、オークに襲われて、気絶しているうちに洗脳されるなんて考えようがない、というかこれは僕の責任でもある。


「そ、そんな必死になって謝ることないですよ.....原因を作ったのは僕みたいなもんですから.....」


「そ、それでも......あの時僕に......ゴリラの肛門に手を突っ込む勇気があれば..こんなことにならなかったと思うと.....申し訳無くて.....」


しゅんとするトンに、僕はどう声をかければいいのか迷った。するとジジイがため息をついた後、トンに声をかけた。


「トン、自分が悪いと思っていても直ぐに謝るのは止めたほうがいいぞい」


「ど、どうしてですか.....?」


トンは首を傾げる。


「直ぐに謝ってたら相手に付け込まれて、責任を押し付けられる様なるし、何より心が持たん。今は助かったんだし、謝るより感謝を伝えるようにしろ!そのほうがお互い気が楽じゃ」


トンはそれを聞いた後、目をつぶって考えた。しばらくしたのち、キラキラした目を開いて。


「わかりました.........!!ありがとうございます!!」


トンはやっぱり純粋すぎる、この純粋さがいつか利用されたりするかもしないと考えると怖くなってくる。


僕ら4人はこれからどうするか話し合った。一度村へ戻るか、女オークが逃げた方向に向かって住処を襲撃するか。

ワンは村に帰ることを強く望んでいたが、時刻は昼。帰る前に夜になるからまた襲われて結局さっきの二の舞になると考えた僕はオークの住処へ行くことに決定した。食料も地図もないしね。このままじゃ僕以外のメンバーが死ねる。


僕ら四人は森の中へ進みだした。

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