第7話 危機一髪

目を覚ますと、周りは暗ーい闇の中だった。目を開けているのかいないのさえわからないぐらい暗かった。

ただ、地面は固く、冷たかった。ここは洞窟の中か?

寝る前の出来事を思い出そうとしたが、山中を歩いていたことしか思い出せない。ていうか洞窟に入った記憶が無い。

どういうことなのだろうか、記憶が飛ぶぐらい疲れてしまったという事なのか。


すると突然、周りがぱぁっと明るくなった。何事か、と思って周りを見渡すと自分が今、とんでもない所にいることが分かった。

広い洞窟の中であることは分かっていたのだが、それだけではなかった。


なんとオークの石像が自分の周りから少し離れたところに4体並んで立っていたのだ。


石像の口と目から光が溢れていて、それが明かりとなっていた。怖い。

この石像は一体誰が作ったのだろうか....こんな所に人が住んでいるとは考えにくい。

となると....まさかオーク!?いつの間にそんな発達したんだ!?


「う~ん....なんじゃもう朝か.....」


僕がオークの進化にびっくりしている時、僕から10Mぐらい離れた所でジジイが起きた。


「ビリーさん!」


「うん?なんじゃ?」


「周りを見てください......」


「ん........どこじゃここはっ!?」


ジジイは周りを見渡して、僕と同じように驚いた。その後僕らはもう一つの異変に気が付いた。


「トンさんとワンさんがいない!!」


そう、トンとワン、二人の失踪である。困った、マジで困った。ワンは別にいなくなってもかまわないが、トンがいなくなってしまうのは戦力的にもチームの空気的にもきつい。

二人は何処へ行ってしまったのか、そもそも無事なのかさえわからん。まさか......オークに殺されてしまったのだろうか。もしそうだとしたらこの救出作戦は失敗だ。


「どこに行ったんじゃろうか.....」


ジジイが言ったその時、洞窟に笑い声が響いた。


「フハハハハハハッハ!!」


どこから流れているのだろうか、声は大きくて、声質はとてもひどい、聞いてられないレベルだ、転生者たちに分かるように例えるならば、例のガキ大将の歌声をリアルで再現した感じだ。

僕は思わず耳を塞いでしまった。そして、笑い声がやんだかと思うと、今度は話し出した。


「ようこそ!!冒険者諸君!わざわざここまでやって来てくれたお礼に手厚くもてなそう!」


耳から血が出そうなレベルで酷い声だ。

とりあえず、これで僕らが何処へつれてかれたのか理解することができた。ここは恐らく、というか絶対オークの住処だ。


「えーい!グダグダ言ってないで姿を見せろ!叩き潰してやる!」


ジジイが強い口調で言い放った。

こんな状況なのにどうして強気でいられるのかとあきれていたら、突然、オークの像の顔の部分が物凄い勢いでこっちに飛んできた。

とてもよけられない、と諦めて目をつぶったその時。


「ほああああああああっ!!」


ジジイが叫んだ、その叫びに驚いて目を開くと、僕の手前には石像の顔の破片と思わしき物が散乱していた。

その光景に呆然としていると、ジジイが俺の頭をこづいた。


「諦めるのはまだ早いぞ!!若造!!」


真剣な表情でこっちを見て言っていた。

山賊相手に圧倒してたとはいえ、ジジイがここまで強かったとは思って無かったからその強さには驚いた。

しゃぶやってるジジイもくせに。

とは言ってももうここで頼れるのはジジイのみだ。


「フハハハハハハ!!やるじゃないか.......あのデブじゃなくてこっちを洗脳すればよかった」


あのデブとは恐らくワンのことだろう......てか待て、洗脳?今洗脳つったか?いつからオークはそんな魔法使えるようになったんだ?でかトンとワンはまじで洗脳されたのか?

洗脳を解く魔法を使える奴はこのパーティーにはいない、もし洗脳された二人にであってしまったら...もうあれを使うしかないだろう。実を言うと僕にはもう一つ、使える魔法があるのだ。但しこれはボッカス・ポーカスよりもデメリットが大きいから使いたく無かったのだが、洗脳を解くにはこれしかないだろう。


「おい!なにボケっとしとる!」


ジジイの言葉で僕は正気をとり戻した、そして僕はジジイに質問した。


「この状況....どう乗り越えましょうか.....」


この洞窟に、出口らしき物は見当たらない、下手したらここは地下かもしれない。

だからこそ僕はベテラン冒険者のジジイに質問した。なにかいい考えが聞ければいいのだが。


「見た限り変な石像しか周りにないが.....なにか{仕掛け}があるはずじゃ、じゃから待て、なにか起きるまでまて」


確かにまだ仕掛けがありそうだが、その仕掛けがさっきのより殺しに来てるのだったらどうしようか、例えば上から矢の雨が降ってくるとか。

まあでも石像とかを変に探って罠にかかるよりはいいかもしれない。

ジジイの考え通り待つことにした。


「後ろをしっかり見てくれよ、なにか起きたらいうんじゃぞ」


そして僕たち二人はお互い背中を合わせて、周りを注意しながら見回した。すると僕の前方にある石像の胸の穴から矢が飛び出た。


「伏せて!」


二人は同時に伏せて矢をかわした、矢をかわしたその瞬間、こんどはジジイの方の石像からオークが飛び出した。

オークは釵のようなものを持って、僕らに襲い掛かってくる。


「ま、前からオークが来ます!!」


「よし、任せろっ!!」


僕たちは素早くオークの突きをよけた、そしてジジイが反撃しようと突きを繰り出すが、ジジイの拳は空を切った。

オークは一瞬にして、僕らの前から消えたのである。


「なにぃ!?」


ジジイは目をきりっとさせながら冷静に周りを見ている、消えたことに驚いて声を上げた僕とは対象的だ。さすがはベテランといったところか。

するとジジイは突然、自分の真後ろに手刀を放った、一体何を考えてんだと思った瞬間、なんとその手刀の場所にさっきのオークが現れたのだ。手刀はオークの体を貫いた、腹に穴が空いたオークは「ぐぇーっ!!」と鳴きながら穴を手でふさぎ、後ずさる。ジジイはその隙をのがさんとばかりにオークの顔めがけて飛び上がった。オークの身長は大体3mぐらい。人間より遥かに高い。それでもジジイのジャンプはオークの顔にちゃんと届くもんだから大したもんだ。

顔の高さまで飛んだジジイはオークの両目を手刀で思いっきり突いた。目潰しだ。これを食らったオークは後ろに仰向けになって倒れた。ジジイは地面に着地した後、とどめと言わんばかりにオークの喉元を握ったが、力が入らなかったのか一回手放し、ため息をついてから手刀を喉元に放った。

喉元を握られていた時は腕を振り回したりして暴れていたオークが、手刀でピクリとも動かなくなったのが印象的だった。

喉元を突いたあと、ジジイはこちらに振り返って言った。


「ははは.....腕にうまく力が入らなかったのう....年を感じるわい」


何言ってんだこのジジイ。


「そんなことないですよ、あんなに高くとんで、しかもオークまで倒しちゃってるんですから.....それにしてもなんでオークが真後ろに来るって分かったんですか?」


「それはな.....おぬしはオークを見ているとき、主にどこを見ているんじゃ?」


「それは.....顔とか....腕とか....」


「そうか。わしはな、全身をくまなく見ておったんじゃ、それでわしはオークが何故消えたり現れたりするかのからくりがわかったんじゃ」


「からくりとは?」


「実はあのオーク、転移魔法を使っておったんじゃ。消える直前足元をみたら白い魔法陣が展開しておってのう.....それでわかったんじゃ」


「なるほど.......」


このオークは魔法を使って僕たちを錯乱させていたのか.....筋肉質で、見るからに武闘派って感じなのに、意外と頭脳派みたいな戦いをするもんだなー、と、僕は物言わなくなったオークをみて思った。


「おぬしも次からは、相手の全体を見て戦うんじゃ、決して目立つ部分だけ見て判断してはいかんぞい」


「へいへい」


「なんじゃその態度はっ!!」


ふん、どうせ僕は一種類の魔法しか使わないし、不死身だからそんなこといちいち気にする必要はない。戦いにおいて、僕には吉と凶、その二つしかないのだ。


怒って僕に色々言ってくるジジイを無視して、僕はオークが出てきた石像に向かった、その石造からは、光が差し込んでいた。


「見てくださいビリーさん、ここから外に出られそうですよ.....」


僕は過剰にかしこまった態度で、ジジイに出口を指し示した。


「ふん、そうか」


ジジイは不満げな態度で、僕のいる出口へ向かった。そして僕たちはそこから外へ出た。

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