第6話 登山には危険が沢山

僕たち4人は、山を登っていた。

時刻は分からないが、空模様から見て夕方ぐらいだ。

僕が持っている地図によれば、この山の中腹辺りにオークの住処があるらしい。

果たして、僕らはそこに無事に辿り着けるのだろうか。


「カイさん、さっきのあれって....何だったんですか.....?」


ワン、やめろ。

その話はするな、僕のハートが砕け散る。

僕はワンの問いかけを無視した。


「きっと詠唱かなんかに失敗したんでしょう」


トンがそんな感じでフォローする。

ありがとう、でも魔法の発動という点から見ると、あれは一応成功の内に入るのだ。


ただ、運が無かっただけなのだ......。

あんなかっこつけたセリフを言っといて、スープが出てくるなんて愚の極みだ。

「みろ、これが私の実力っ!!」と言って食卓にスープを出す母親はいないだろう。


「失敗した様には見えなかったぞ」


ジジイがスープに入っていた野菜を食べながら言ってくる。

汚ねぇ。


「きっとこいつはこれしか魔法が使えなかったんじゃ......スープを出す魔法、グフフフッ」


ジジイは野菜をつまみながら笑った。

畜生、考察が半分あってるのがムカつく。


「別にそういうわけじゃないんですよ.....もっと色々できます」


一様反論はしておく、このままじゃ僕のあだ名が「スープ使い」になりそうだからね。


僕は迷った、魔法のことを喋るべきか、喋らないか。

喋らなかったら味方に迷惑がかかる、だが、喋ってしまったら気味悪がられるに違いない。

どうしようかと色々考えていたその時、上から僕の目の前に、何かが落ちてきた。


「おわっ!?」


びっくりして変な声を出してしまった。


「な、なんだ!?」


トンが落ちてきた”なにか ”を見る、するとそこには、背にたくさんの針を抱えた....これも転生者の人たちにわかるような言い方をすると、「ハリネズミ」のような可愛らしい小動物がそこにいた。

肌の色は白く、針の先は若干青みがかかっていて、尻尾が普通のハリネズミよりも長くて太かった。


「な、なんだこれ!?可愛いぃ~」


僕たちの後ろで見ていたワンはその可愛いらしさに見とれて、撫でようとしたのか、そのハリネズミに手を伸ばした。

すると。


「触るな馬鹿ッ!!」


そう言って、ジジイがワンの顔を思いっきりぶった。

ワンはぶたれた衝撃で後ろに倒れた。


「い、痛っ!なにするんですか!?」


「こいつはな、[エイタムンハリネズミ]といって、毒を持ったハリネズミなんじゃ。撫でようとして、うっかりその針が刺さったら....おぬし...全身の筋肉が麻痺して死ぬぞ?」


それを聴いて、僕とトンはハリネズミから離れた。お互いに、顔は真っ青だ。

死に方を聞いて、本来不死身の僕でさえ恐怖を感じてしまった。はずい。

ジジイがいなかったら、ここでワンは死んでいたであろう。この事に関してはジジイに感謝だ。


「すいませんでした.......」


「全く、同じ冒険者のくせにそんなこともわからんのか」


これにはワン以外にも僕とトンも知らなかった。たぶん、このエイタムンハリネズミとやらは珍しい動物なのだろう。

ジジイはため息をついた後、後ろを向いた。これは僕の予想だけど、たぶん”あれ”を吸っているのだろう。イライラした時に吸うのが、ジジイの習慣なのだろうか。

トンはその間、細心の注意を払って、ハリネズミの長い尻尾を掴んで放り投げた。ハリネズミが掴まれた時にもぞもぞ動いたのをみて3人ともビビったが、針には刺さらなかった。


そして再び、オークの住処を目指して山を登り始めた。


「にしても何で....ハリネズミが上から降ってきたんですかね.....」


トンはさっきの出来事についての疑問を呟いた。確かに、よくよく考えたらおかしい。

あのハリネズミはあっちの世界のハリネズミと違って、尻尾が長くて太いなどの違いが多少見られたが、手足には違いが無かった。

あれでは、木に登ることは到底不可能だろう。第一あの時自分は木の真下にはいなかった。


「まさか....我々の襲撃に気づいたオークが木の上から投げた.....?]


ワンはこう推測した。いや、ありえないだろう。


「馬鹿いえっ、オークの体重はわしらより遥かに重いし身長も大きい。というかそもそもワシはあの時すぐ上を見たが、木の上には何もいなかったぞ」


ジジイの視力がどれほどのものなのかは知らないが、いくら悪くても木の幹にしがみついているオークを見逃すことはないだろう。


「でも....僕聞こえたんですよ...ハリネズミが落ちた時に...ガサガサって」


僕はびっくりしていて聞いていなかったが、ワンの証言を信じるなら、あそこに何かいたことになる。結局4人でいろいろ考えたが、結論には至らなかった。



そして、夜を迎えた。

辺りは一面真っ暗になり、松明をつけてもあまり遠くは見えなかった。なので僕たちはこれ以上進むのを諦めて、山の急斜面で洞窟を探す事にした。

そしてトンは、ある一つの洞窟を見つけた。その穴は僕らの身長ほどの大きさで、奥も深そうだった。


「ここ、いいんじゃないですか」


トンは自慢げにこの洞窟を進めた、確かにいい場所、流石トンだ。僕たちは早速入った。

だが、入ってすぐ、[ゴツ......ゴツ.....]と音がした。

何がいるんだろう。

トンはすぐさま薪を起こした、一同唾を飲んで洞窟の暗い所から何が来るのか見守った。


するとそこから出てきたのは........一頭のゴリラだった。


ゴリラとは言っても、ただのゴリラなどではない、その姿は....銀色に包まれていた。


「アージョンゴリラじゃっ!」


ジジイが叫んだ。

ゴリラは僕らが入ってくるまで寝ていたのか、あくび?をしながらのしのしとこっちにやって来る。この洞窟はこのゴリラの寝床だったようだ。

実を言うと、このゴリラの特徴をいくつか僕は知っている。それは.....何かというと....。


「僕が行きます.......はああああああああっ!!」


説明する前にトンが飛び出した、おい、待てや。

トンはゴリラめがけて飛び蹴りを放った。ゴリラは全然よけようとしない。

トンの蹴りはゴリラに当たった。が、ゴリラは全然平気そうだった。そりゃそうなるな。

トンはというと、飛び蹴りを放った足が真っ赤になっていて、めちゃくちゃいたそうだ。


「かてぇっ!?」


そう、このアージョンゴリラの特徴は、全身が関節をなどを除いて金属で出来ていることだ。だから打撃攻撃の類は全然効かない、しかも拳や蹴りだとしたらなおさらだ。あのゴリラを倒すには、見た感じ金属で覆われてない関節部分を攻撃するか、魔法を使うかの二択だが、残念ながら魔法は自分以外使えないし、この魔法は頼りにならない。


「まずい、アージョンゴリラが怒りだすぞ....」


トンの放った蹴りのせいで、ゴリラの気が高ぶった、今にもこちらに突っ込んできそうだ。


「カ、カイさん...魔法を使ってください」


完全にビビッているワンが、ポッカス・ボーガスを使うことを勧めた。いや、最近運が悪いから使いたくねぇ。

でもゴリラを倒すにはこれしかなさそうだ。


「わかりました、皆さん離れてください」


これを聞いて、僕以外の3人が洞窟から一回出た。ゴリラはこっちにナックルウォークで寄ってくる。たぶんこれで、ゴリラは完全に怒るだろう。

僕は腕を前に出して、手首を内側に倒して唱えた。


「いいのこいっ!!ポッカス・ボーガスっ!」


ドコーンと、雷が洞窟内でなった。後ろから「おおっ!!」という声が上がったが、実はこの雷、肝心のゴリラにあたってない。この雷は攻撃するためのやつではなく、ただの”演出”なのだ。


「アレ.....?」


トンは、ゴリラが何ともなっていないことに気づいた。


では、雷の落ちた場所に何が起こったのかというと、落ちた場所の地面が、きれいな鉱石に変わっていた。この鉱石はこの世界においてとても貴重な「デマンター」という鉱石である。

色は青色で、磨けば綺麗に耀き、めちゃくちゃ硬い。なので宝石や武器、防具など幅広い用途で使われている。

そんな貴重な鉱石が、落雷と共に召喚されたのである。


使えねぇ........。


でも、これは当たりの部類だ、こんな状況じゃなきゃ僕は死ぬ気で鉱石を素手で掘り出しただろう。だが、今は危機的状況だ。ゴリラは今、雷の音で完全に怒った。

ポッカス・ボーガスの魔法が思いっきり裏目に出ている。これはヤバい。


「危ないっ!!」


ワンが叫ぶ。ゴリラがナックルウォークでこっちに突進してきたのだ。当たったらメチャクチャ痛いだろう。僕は洞窟の出口の方に向かって逃げた。

間一髪の所で、逃げる事ができた。僕は息を切らせながら、仲間たちと顔を見合わせた。


「これから......どうします?」


ワンが言った、マジでどうしよう。


「うーん..?他の洞窟を探しましょうか?」


トンがそう提案した、うーん、これ以上探すのは面倒かなぁ。でもゴリラに勝てないからこうするしかないのか。

てか、これからオークの集団相手に戦うってのになんでゴリラ一頭倒せないんだ?意味が分からん。


「いや、これ以上探すのは厳しいぞ、それよりこの”アージョンゴリラ”を倒した方が良い」


ジジイ.....それが出来たら苦労しないんだよ。


「何か、いい方法はあるんですか?」


僕はこう質問した。ジジイに何か考えがあって「倒す」というのならわかるが、何も考えずに言ってるのならガチでジジイに一発拳をぶち込むつもりだ。


「ふふふ....実はあのゴリラにはな、弱点があるんじゃ....」


弱点!?

あるなら最初から言えや!!返せ!時間を返せ!!


「それで...その弱点というのは!?」


トンが目を光らせてジジイに聞く。僕はその間ジジイを睨み付けた。


「ゴリラの弱点は.....肛門じゃ」


肛門!?なんで!?

僕が今、心の中で言った事をワンがそっくりそのまま言った。


「何で肛門かだって?自分の身になってよくよく考えてろ、肛門が金属でできてたら、糞できんじゃろっ!」


確かにその通りだ、だが、ゴリラの肛門に浣腸したいやつなんて誰もいない。ジジイも断りやがった。そこで、話し合いの結果。

もう一回ポッカス・ボーガスを唱えて、成功したらこの洞窟、失敗したら別の洞窟を探す事にした。ちなみにポッカス・ボーガスの魔法の特徴についてはこの話し合いで全て話した。

3人とも、この魔法について、いい魔法ではないが、頼るしかないと話していた。


僕は再び洞窟に入った。ゴリラはなんか胸を叩く、いわゆるドラミングをしていた。

こっちに来る気配はない。僕は全身全霊、力を入れて唱えた。


「死ね、ゴリラっ!!ポッカス・ボーガス!!」









_______ダメだった。


でできたのは、カビの生えた肉。嘘だろ?本当だよ。洞窟の地面にどの動物、どこの部位かわからないカビの生えた肉が魔法陣からでてきやがったんだよっ!!

4人とも、この結果には膝をついてがっかりした。その後、僕らは再び暗い森の中をさまよった。


そして歩いている最中に......”気を失った ”。


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