第2話 運には頼るべきではない

冒険者の女は顔を真っ青にしてこっちを見ていた。

ジャイアントスネーキーは魔法陣から出た光で一瞬身じろいだが、出たものを見て再びこっちに近づいてきた

蛇との距離は大体50mぐらい?まあそんなことは置いといて。


問題は、出てきた物である。


ウサギの足と豚の鼻と動物の内臓がそれぞれ詰まったビン。


こんなもの、戦闘に使えないのは明らかである。

恐らくこの変なものは本来なんかの魔術の儀式かなんかに使われるものだ。

ひどいとしか言いようがないっす。まあこんなことは日常茶飯事だ。

僕は叫んだあと、もう一回あのポーズをとり、唱えた


「頼むッ!!ポッカス・ボーガス!」


この魔法の発動に、魔力は使わない。

このことは幸運なのか、良く分からない。


そして、魔法陣が展開され....なんか出てきた。


「クッキッキッキー...」


最悪だ、魔物が出てきた。

この特徴的な鳴き声からして恐らくは「ウィッチゴブリン」だろう。

魔法が使える珍しいゴブリン。

これは厄介極まりない、すぐにでも倒さなくては。

だが、僕はこのぼろい杖以外は何も持っていない。

しかも、仲間もいない。まあこんなパンツ一丁の僕に仲間なんてできるはずがない。当然のことだ。


どうしようかあれこれ考えていると、周りをキョロキョロ見ていたゴブリンがこっちに気づいた。

そして、手にもっている杖を振り、魔法を唱え始めた。

(ヤバい)....とは思わなかった。


なぜなら僕は、不老不死の無敵の男だからだ。


だから攻撃をくらっても死んだりしない。


___神が___そう僕を呪ったのだ__


そして僕はゴブリンからの攻撃を気にも留めず。

ため息をつきながら、再び発動の体勢をとった。

ゴブリンの方は独唱が終わったみたいで、杖から出した魔法陣を僕の方に向けている、今にも炎が飛び出てきそうだ。

と、その時。


ゴブリンの肉体を、胸から背へ鋭い剣先が貫いた。

あの女冒険者が僕の後ろから一気に飛び出して、持っていた剣で貫いたのだ。

「グゲエッ」みたいな声を出した後、ゴブリンはバタッと後ろに倒れた。

いやーありがたい、不死身とはいうものの痛覚はあるのだ。


そして女はゴブリンの肉体から剣を抜き、ゴブリンが持っていた50cmぐらいの杖を自らの体の支えにして、言った。


「あの!さっきから何やってるんですか!?」


僕の戦いを見た人間のほとんどはこうやって言う。

まあ、たしかにおかしい。

さっきから僕がやっていることは全て無駄な結果に終わっている。

でもこうするしかないのだ。

まずは相手を納得させよう。


「何って.....魔法を唱えているだけですよ。危ないですから下がっていてください」


多分信じてもらえないだろう。


「魔法...って、これがですかぁ!?これが何の役に立つんですか!?」


女はウサギの足が詰まったビンを手に取りながら、おもっきし𠮟り付けてくる。


「ま、まあ落ち着いてくださいな、次こそはいい事が起こりますから」


このセリフも、もう何十回行ったことか。

幸いにも、蛇との距離はまだ遠い、慎重な性格だったのが幸運だ。

次こそは、結果を出さなくてはいけない。


「HEY!COME ON!ポッカス・ボーガス!」


そう僕が唱えた瞬間、今度は僕たちの真上に魔法陣が展開された。


「な...何が起こるんですかこれぇ.....?」


女はビビッている。


「分からん」


僕は今までこの魔法を何百回も唱えてきたが、起こる出来事のパターンは数え切れない。

しょぼいのもあれば、派手なのもある。

そうして上を向いて見上げていると、魔法陣から出てきた。


バシャっつ


「きゃあああああああああああっ!!」


出てきたのは、スライム状の緑色の液体。

思いっきり僕たちの体に大量にかかってしまった。

とても粘々していて気味が悪い。

幸いにも、酸性とかではなかった。


「ちょっと本当に何してるんですかっつ!!ふざけてる場合じゃないんですよっつ!!!」


ぶちぎれた。

今にも僕の顔面に一発くれてやりそうな感じだった。


「というか.....なんでそんな魔法使ってるんですか....いい加減普通の魔法を使ってくださいよ....」


えらいっ。

上から目線で申し訳ないが、怒りを押さえて僕に冷静に質問を投げかけた。

でもねぇ.....これ以外に魔法が使えたら僕は苦労しないのよ。

もし使えたら、今頃僕は城下町とかで「カイ様~」とか呼ばれて敬れてるはずだ。

決して、こんな田舎町で冒険者なんてやってない。


「申し訳ないんですけど.....僕、これ以外何もできないんですよ~」


「はぁ~っ?」


女は呆れて、ため息をついたあと、スライムでねちょねちょになった地面に大の字で倒れ込んだ。


「もう終わりよ.....このベタベタになった体のまま、蛇に食べられておしまいよっ」


「こんなことになるなら....こんなことになるならっ、あいつからのプロポーズ....受け入れとけば良かったぁ...」


女は目に涙をためながら、今は失神している男の方に目を向けた。

もはや、迷っている時間はない、蛇が目と鼻の先まで来ているのだ。


「諦めるのはまだ早いですよ」


そう言って僕は歩みを蛇の方に進めた。


「ええ......?」


「嘘だろ...」とでも言いたそうな顔で女はこっちを見ていた。

蛇はこちらをじっと見つめてから、口を開けてこっちに突っ込んできた。

そのタイミングで唱えた。


「ポッカス・ボーガス!」


奇跡的に口が早く回った。

いや、それはどうでもいい、問題は何が出る、もしくは起きるかだ。

今まで出た物の中で一番良かった物は「伝説の弓」だ。

あれは本当に良かった、今出ればこんなでかい蛇何ぞ一撃でやれるだろう。

何故今は持っていないのかって?売っちゃったからだ。

今僕はこの世界で借金地獄に落ちているからね。

普通の人間なら気がくるうほどの借金だ、総額は国家予算並だ。


魔法陣は巨大なものだった、正直嫌な予感しかしない。

その予想は、半分当たった。


この巨大な魔法陣から召喚されたのは、ボスクラスに巨大な「マグマスライム」だった。


「キシャアァァァァ」


突然目の前に自分と同じぐらい大きさの奴が現れたらどう反応するか。

蛇はこの疑問に的確な答えである反応をとった。

スライムはスライムで蛇に驚いた。


そして洞窟内の二頭の魔物は、戦闘を始めた。


マグマスライムの体はベタベタしてる上に熱い。

その表面温度は....この世界の技術ではまだ測れないぐらいだ。

蛇はそのスライムの体に嚙みつこうとしたが、熱気でためらってしまい、逆にスライムが蛇をその蛇の頭を体内へと引きずり込んだ。


「今のうちよ!早く逃げましょう!」


ぼーっとその戦いを観戦していた僕は、その言葉で気を取り直したあと、すぐさま男女パーティと共に洞窟から脱出した。

気を失った男を僕が背負ったんだけど、凄く重かった。

女は足の怪我のせいでうまく歩けず、結果として逃走する時の速さはすーごく遅かったのだが、逃げきれた。






後日、例のパーティーが家にきた。

てっきり感謝を言いに来たのかと思いきや、「あの洞窟クエストの報酬が支払われなかったのはお前のせいだ、だから弁償しろ」と、僕に請求書と突き付けてきた。

たしかに僕のせいだ、だってあの洞窟には蛇の代わりにスライムが住み着いてしまったからね、スライムは蛇より討伐するのが難しいからね。

でも、僕に弁償を求めるのは間違いだろう、この本を呼んでる君らもそう思わないかね?

命の恩人だよ?君らが結婚できるのは誰のおかげなの?

そんな感じの事を言ったら請求書を持った手で女からビンタをお見舞いされた。

僕はぶっ倒れた、そして目の前に請求書が落ちてきた。

その後、パーティーの奴らは家から出ていった

結局、この請求書に書かれている30000ドックは、僕の借金の一つとなってしまった。


もう、こうなったらどうしよもない、役所に泣き寝入りしても、どうせ相手にはしてくれないだろう。

僕は再び高い報酬が得られるクエストを受けに行くために立ち上がり、家から出た。

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