第2話 1話 裏
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俺の名は
……それだけ聞けば、何の変哲もない自己紹介だろう。だが、俺には他人においそれと話せない事情を、幾つも抱えている。
俺の右肩には
こいつを生まれ持ったせいなのか、俺のこれまでの人生は、ろくなものではなかった。
俺が6歳の時だった。両親が殺され、妹は誘拐された。
俺は幼かったこともあり、両親の死体をこの目で見ていない。そのせいか、両親が死んでしまった……という実感が今もあまり湧かないのだ。何か恨みを買っていたのか、行きずりの物盗りにやられたのか……どうしてあんなことになってしまったのか、理由は未だに分かっていない。
妹は、どこへ連れ去られてしまったのだろうか……。あれから10年経つから、今は13歳の筈だ。
手掛かりは何もない。だが、諦めずに探し続けていればきっと、いつか見つかると信じている。
両親が死に、妹が連れ去られた後、俺は叔父の家に引き取られた。叔父は、表向きはごく普通の寺の住職だが、裏では霊や妖怪を退治する『ばらし屋』なる仕事を営んでいる。
叔父には子供がいないため、引き取られた俺は跡取りとして鍛えられた。どうやら俺には、『ばらし屋』としての類まれな才能があるらしい。潜在的な力だけなら、既に叔父を超えているとか。
そんなわけだから、たまに俺だけで『ばらし屋』の仕事をすることがある。
聖痕のせいか、1人で行動した時を狙われたかのように、想定外の事態に多々遭遇する。
中学最後の夏休み。簡単な除霊だと聞き、叔父に代わって単身向かった先で、俺は”そいつ”と遭遇した。それは、巨大な黒い蛇だった。高い知能と霊格を持ち、もはや神と言っても差し支えない存在……とても俺の力で祓えるような相手ではない。
黒の大蛇は何故か俺を気に入ったようで、俺の右目をペロリと舐めた。おそらく大蛇としては、祝福のつもりだったのだろう。それからというもの俺の右目は、見た対象を麻痺させたり、幻惑を見せたり、魅了してしまうようになった。制御しようにも、全く言うことを聞かない。そのうえ、時折激痛が走る。日常生活に支障をきたすレベルだ。また、蛇のような縦長の瞳孔の金色の瞳になり、もとの白目の部分は黒くなってしまった。叔父に頼んで封印してもらっているが、封印されてもなお、強い痛みを覚えることがある。
次が、中学最後の冬。これは俺も迂闊だったのだが、学校の行事で行ったスキー合宿でのことだ。
晴天だったというのに、リフトを乗り継いで俺が山頂付近に着く頃には、猛吹雪へと変わっていた。そのまま動かなければ良かったのだが、運動神経にそれなりに自信のあった俺は、レストハウスまで戻ろうとしてしまったのだ。
その結果大幅にコースを外れ、山の中腹で迷子になってしまった。風雪をしのぐため避難した洞窟で、とんでもないものを見つけてしまった。
それは、とてつもなく巨大な力を持った邪龍だった。見れば洞窟には社があり、封印されてはいたが、今まさにそれが解けようとするところだった。本来なら社に封印された状態で、人々が祭ることで少しずつ邪気を払い、神格化を促すつもりだったのだろう。いつの間にか祭るべき人々はその事を忘れ、住み辛い山奥からふもとの町へと引っ越してしまった……そのため、俺が見つけた時には封印は解けかけていたのだろう。洞窟には膨大な邪気が漏れていた。
社は朽ち果て、既に封印の力を失いつつある。もはや一刻の猶予もない。邪龍をそのままにしておくわけにもいかず、俺は邪眼の力を使い、自分の右手に邪龍を封印することにした。……邪眼を介して、大蛇の力を一部使えたことが幸いし、どうにか封印は成功した。
そのままではすぐに封印が解けてしまいそうだったので、急な体調不良ということで叔父に迎えに来てもらい、帰ってすぐに封印を強化してもらった。強力な封印具である『天導瀑布』を所定の手順で左手に巻き付け、最後に術で封じることでどうにか安定させることに成功した。
邪龍を半ば強引に肉体に封印した影響なのだろう。残っていた左目の瞳はルビーのように赤くなり、黒かった髪は銀髪へと変わってしまった。
邪龍を左手に封印してしばらくすると俺は、その強大な邪龍の力を求める様々な機関に狙われるようになっていた。日本の陰陽師、ローマの教会、イギリスの魔術師、ネパールの寺院……それとほぼ同時に、近隣に住まう妖怪達も力を狙って現れるようになった。
そいつらを、叔父直伝の古武術と法術、邪眼の力、果ては封印からわずかに漏れ出ている邪龍の力を使い、撃退してきた。
学校の人間にとりついて俺を襲う者もしばしば現れるようになった。奴らは腕力のあり、鬱屈を抱える人間を狙って憑くようで、周囲からは俺がしょっちゅう不良に絡まれているように見られていたことだろう。
そんなことが続いたので、俺は高校に入ってから極力、人付き合いを避けて過ごしてきた。
本来なら、高校にも通うべきではないのだろう……。しかし、俺は”普通”というやつに憧れる。友達と一緒に勉強して、バカ話をして、遊んで……そんなふうに、何てことのない高校生として、普通に過ごす日常を夢見ているのだ。
妹を見つけ出し、邪龍も両親のことも全て解決すれば、ごく普通の高校生として過ごせる……学校に通うことは、今の俺にわずかに残された普通の日常。何としても維持したい。
しかし、今友達を作れば、それを利用する奴が現れるだろう。俺のせいで厄介なことに巻き込んでは申し訳ないし、きっと迷惑をかけることになる。
高校に入学して、2ヶ月が経った頃。
ふと、今までに感じたことのない強い妖気を感じた。
「嵐が……、来る!」
これほど強い妖気の持ち主が暴れれば、辺りはめちゃくちゃになり、天候にも影響を及ぼすだろう。
人の多い場所で暴れさせるわけにはいかない。俺は学校を早退し、妖気の発する元を誘導することにした。
運動公園も併設されている河川敷……ここなら多少暴れても、大きな被害は発生しないだろう。
妖気の持ち主はこちらを捕捉しているのか、だんだん近づいてくる。空からかと思ったが……違う。一方向から……流れに乗るように……これは!
(――川から? 水妖か!)
邪悪な気配を纏い、水が人の形になる。口は裂け、目はギラリと赤く光っている。
「小僧、その邪龍を渡せ。さすれば命だけは助けてやるぞ。」
「貴様のような邪悪な気配を纏った輩に渡せるか! ――ノウマク・サマンダ・バザラダン・カン!」
俺は不動明王印を結び、法術を唱えた――
なんとか水妖を退けた翌日、隣の席の
天気を教えてくれた、とのことで礼を言われた。
自分では気付いてなかったが、どうやらすっかり独り言が癖になってしまっているらしい。
聖痕のことを聞かれ、一瞬、敵対組織の回し者かと勘繰ったが、水妖との闘いをたまたま目撃しただけらしい。水妖のような妖怪は、普通の人間には見えない。
おかしな奴だ、と警戒されそうなものだが、あろうことか
そのあと、普段見るテレビの話から、俺が周囲からバンドをやっていると勘違いされていることを知った。……確かに、ビジュアル系のバンドには、こんな恰好をしている奴も珍しくない……のか?
「
そう言って去っていく
たわいもない会話、俺が求め、諦めていた日常……それを僅かな間でもくれた
翌日。俺は楽器店に行って、エレキギターを購入した。
ケースに入ったそれを肩に背負って、試しにそこらをぶらついてみると、周囲からの視線の大部分を占めていた好奇の目が、かなり和らいだように感じた。……なるほどな。理解不能な恰好をしていれば、相手も何事かと構えるが、こうやってギターを持ち、『バンドをやっています』と回答を与えてやれば、好奇の視線も和らぐのか。
よし。これからは、「バンドをやっている」と自己紹介で言うようにしよう。なるべくギターは持ち歩くことにして……流れで「聴かせて」と頼まれても困らないように、練習もしておいたほうがいいか。
しまった……それなら教本も一緒に買っておけば良かったな……。
■次回あらすじ!
次回を待て!!
(※本当に思いつきで1話だけ書いたので、一生更新は無いかもしれないです……)
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