現代の悪魔

「おい小僧」


自宅で大学受験の勉強に取り組んでいた僕は、突然の声に驚き、振り返った。

そこにいたのは、恐ろしい姿の化け物。


「我は悪魔である」

「あ、悪魔……」


悪魔と名乗るそいつをよく見てみると、頭には二本の角、背中には黒い翼、そして尻からは矢印のような先の尖った尻尾が生えていた。

まさしく、悪魔と聞いて想像する通りの姿である。


「あなたは何のために僕のところへ来たのでしょう」

「貴様の魂を貰うためだ」


なるほど。

魂を売ると、その代わりに願いを三つまで叶えてくれるというやつだな。

まさか僕が悪魔に選ばれるなんて、運が良いんだか悪いんだか。

だが、恐らくこんなチャンスはもう二度と来ないだろう。

ここは、この悪魔と契約するべきだ。

そうと決まれば、重要なのは願いの内容。

受験に合格させてもらうというのはどうだろう。

いや、そんな小さな願いではもったいない。

もっと大きな願いでなくては。

大金持ち、好きな人との結婚、超能力……。

どれも魅力的だ。

しかし、派手すぎて目立ってしまうのも良くないだろうな。

さて、どうしよう……。


「では、魂を頂く」

「なんだって。待って下さい。僕はまだ契約するとは言っていませんよ。それに、願いの内容もまだ決めていないんです」

「契約など必要ない。我はただ貴様の魂を貰うだけ。それに、なぜ願いを聞いてやらねばならんのだ」

「そんな!あなた方悪魔というのは、人間と契約し、魂と引き換えに願いを三つ叶えてくれるものでしょう!」

「それは一体いつの時代の話をしているんだ。我ら悪魔界では、時代とともにルールが変わったのだ」


なんてことだ。

僕はこのまま悪魔にやられてしまうだけらしい。

最後に、何か抵抗できないか……。


「事情は分かりました。しかし、いくらなんでも急すぎます。せめて、一分だけでも待って下さい」

「よかろう」


僕は、すぐにスマートフォンを手に取り、そこに文字を打ち始めた。

こいつは悪魔界のルールが変わったと言っていたが、人間界だって日々進歩し発展してきたのだ。

思い知らせてやる、悪魔め。

SNSのフォロワーが百万人を超えるちょっとした有名人の僕は、最後にこう発信した。



拡散希望

悪魔が出現。願いも契約もなく、魂を奪うだけの危険な存在。遭遇したらすぐに逃げるべし。至急、人類は対策を開始せよ。今後、一人でも多くの人間が救われることを願う。

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