福の神
ある日の真夜中のこと。
古びた屋敷に忍び込んだ男は、目当ての物を見つけるため、屋敷中を探し回っていた。
物音を立てないように、一部屋ずつ静かに丁寧に確かめていく。
そしてとうとう、男は目的の物を見つけた。
男が探していたのは、福の神が閉じ込められていると言われる壺だった。
この日、男が生まれて初めて強盗を働いたのは、単に金を盗むためではない。
福の神を我が物とするためであった。
「あったぞ。しかし、二つあるとはどういうことだろう」
目の前には、似たような壺が二つあった。
きっと、どちらかに福の神が封印されているはずである。
そう考えた男は、片方の壺の蓋を少しだけ開けて中を覗いてみた。
そこには、にこやかな表情で豪華な服を着た太った小さな男がいた。
「素晴らしい、福の神だ。この壺の中にいるのは福の神で間違いない。すると、もう一方は……」
男は、もう一つの壺も同じように、蓋を少しだけ開けて中を覗いた。
すると、こちらには、暗い表情でみすぼらしい格好の痩せ細った小さな男がいた。
「こっちの壺には貧乏神が封印されていたようだ。なんて危険な壺だろう。貧乏神などごめんだ」
男は、最初の壺だけを盗んで、屋敷から去って行った。
翌日になり、屋敷に住む老人は、壺が盗まれていることに気付いた。
「壺が無くなっている。さては昨日、何者かがここへ忍び込み、わしの壺を奪って行ったのだな。盗人め、許さんぞ」
怒る老人だったが、呆れた顔でこう続けた。
「だが、貧乏神の方だけ持って行くとは馬鹿な奴よ。まあ、見た目で間違えるのも無理はない。まさか、人々に福を分け与えすぎたせいで福の神がこんなに弱々しい見た目になっているとは思うまい。そして、人々から福を奪いすぎた貧乏神がまるで福の神のように見えたとしても仕方ない」
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