変換の力

誰しも、一度はこう思ったことがあるだろう。

お金よ降って来い、お金よ湧き出ろ、と。

女もその内の一人だった。

特に貧しいわけではなかったが、お金は多ければ多いほど良い。

ある時、女はお菓子を食べながらこう呟いた。


「お金よ出て来い」


もちろん、本気で言ったのではない。

単なる願望が口から溢れたに過ぎなかった。

しかし、驚くべきことに、女の目の前には本当にお金が現れた。

突然、何枚かの硬貨がそこに現れたのだ。

信じられない出来事に女はしばらく固まっていたが、だんだんと落ち着いてくると、思考を巡らせるようになった。

さっきまで、目の前には硬貨などなかった。

だが、今はこうして存在している。

つまり、硬貨が無から生成されたのは間違いない。

女は、さらにもう一つの重大な事実に気が付いた。

さっきまで食べていたお菓子が無くなっていたのである。

それはちょうど、現れた硬貨と同じくらいの値段のお菓子だった。

今度は逆に、実体のあるお菓子が無となったのだった。


「まさか……」


勘の良い女は、頭に浮かんだ仮説を確かめるべく、お金よ出て来いと何度か念じてみた。

すると、目の前の物体が消え、その代わりに、その物の価値の分だけお金が現れるという現象が続いた。


「なんということ。私は物をお金に変える力が身に付いたのね」


それから女は、ありとあらゆる物をお金に変えた。

お金に変えるのは私物でなくても良かったため、外出の度に捨てられている物や不必要な物を見つけてはお金に変えていった。

そのため、女はお金に困ることがなくなった。

すると、女は能力を持て余すようになった。

お金はこれ以上要らなかったので、何かを消す方の力を利用できないか考えた。



ある日、女は友人を自宅へ招いた。

友人と言っても、彼女は女が昔から憎み続けていた人物だった。

女は、大嫌いなこの友人を消そうと考えたのだった。


「二人きりで会いたいなんて急にどうしたのよ。しかも家に上げてくれるなんて初めてよね」

「実はね、あなたに消えてもらいたくて、今日は私の家に招待したの」


そう言うと、女は笑みを浮かべながら両手を友人の肩に乗せ、お金に変われと念じた。

その瞬間、友人はその場から消えた。

それと同時に、部屋中を埋め尽くすほどの札束が現れ、女は潰されてしまった。

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