夢世界
それはあまりに突然の出来事だった。
突如として現れた男が、ナイフを僕に突き刺そうとしてきたのだ。
いわゆる通り魔というやつだろう。
叫び声を上げる間もなく、ナイフは僕の胸に近づいてきた。
その様子は、スローモーションとして僕の目に入ってきた。
迫り来る危機のため、感覚が研ぎ澄まされていたのかもしれない。
ゆっくり、ゆっくり。
非常にゆっくりとナイフが近づいてくる。
それと同時に、恐怖心も徐々に高まっていく。
ここでようやく、僕は叫ぶことができた。
「ぎゃああああああ」
その瞬間、僕の目の前の景色は一変した。
通り魔は消え、その代わりに真っ白な壁が現れた。
周囲を見渡してみると、辺り一面、真っ白な壁に囲まれており、僕はどこかの室内にいるであろうことが分かった。
どうやら、恐ろしい夢を見ていたようだ。
そして、その恐怖によって目を覚ましたらしい。
やけにリアルだったが、夢だと言うのなら、とりあえず一安心だ。
ホッとした僕だったが、すぐに違和感を感じ始めた。
この、真っ白な部屋はどこなのだろう。
こんな場所は見たことがない。
どうして僕はここにいるのだろうか。
それに、やけに景色がはっきりしているのはなぜだろう。
室内や自分の身体の輪郭は驚くほどくっきりとしているし、それらの色も非常にはっきりとしている。
また、僕の意識もこれまで経験したことがないほどはっきりしている。
さらに、思考能力も格段に高くなっている気がする。
僕はこの謎について考えた。
すると、すぐに結論に至ることができた。
世界は、現実と夢で連鎖するいくつもの層を成す構造をしているのではないか。
これまで僕が過ごしてきた世界を0とする。
すると、夢の世界はマイナス1の世界であり、0の世界に比べると、ぼんやりとした世界となっている。
一方で、0の世界より高次な存在として、プラス1の世界がある。
これは、僕が今いる世界のことだ。
プラス1の世界からすると、0の世界は夢である。
プラス1の世界が、やけにはっきりと感じられたのは、このためだろう。
上へ上へと昇るにつれて明確な世界となっていき、下へ下へと降りるにつれてぼんやりとした夢の世界になっていくのだ。
なるほど、きっとそうだ。
プラス1の世界で、高度な思考力を駆使して謎を解明していく僕の頭の中からは、0の世界でこれまで過ごした人生の記憶が静かに消えていった。
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