悪の形

「兄貴、そろそろ次の獲物を狙いましょうか」

「いや……その必要はない」


とあるアパートの一室で二人の男が会話をしている。


「なぜです?確かに、この前の女は騙すのに成功しましたが……」

「ああ。30万騙し取れたな。神秘のエネルギーだの開運だの浄化作用だの聞こえの良い言葉を並べただけで水晶玉が30万だ。ああいう素直で正直な奴は最高のカモだぜ」

「もちろん、それは喜ばしいことです。しかし、30万なんてすぐに無くなってしまいますよ。次の標的を探した方が良いのでは?」

「だからその必要はないと言っているんだ。いいか、聞いて驚くな。実はな、あの女からすでに追加で300万頂いてある」

「300万ですか!さらに10倍もの大金を騙し取ったんですね!一体どうやったんです?」

「水晶玉に一工夫したのさ」

「と言いますと?」

「水晶玉の中に、小型のスピーカーを仕込んでおいたんだ。そして、そのスピーカーからはこういう音声が流れる。私は幸運の女神、あなたを幸せに導く者、○○公園のベンチの下にありったけのお金を入れたケースを置いていきなさい、そうすれば、翌日にその倍のお金があなたの元に帰ってくるでしょう、とな」

「なるほど、買わせた水晶玉から女神のお導きですか。二段構えで金を頂いたってわけですね。さすが兄貴。しかし、こんなのを信じるなんて、よっぽどの馬鹿正直者ですね、あの女。」

「ああ、とびっきりの馬鹿正直者だ。だが、あいつこそ、まさに俺たちにとっては女神様だな。」

「確かに。あはははは」




一方、こちらは高級マンションの一室。

大金を騙し取られた女が嘆いている。


「もう。いつまで経ってもお金が返って来ないじゃないの。この水晶も偽物だったのかしら。また騙されたのね。人の言うことを何でも信じてしまうこの性格はいい加減に直さないと」


彼女は正直者だ。

正直者ゆえ、騙されてしまった。

だが、正直者が善人であるとは限らない。


「まあいいわ。どうせ、全部偽札だもの」

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