エピローグ
第22話(最終話) 神崎あやめの幸福な結末
私の名は、神崎あやめ――いや、この世界ではアヤメ・アールモーデン。現実世界からゲームの世界に喚び出され、『極運の冒険者』をしていたのも今は昔。私は『極運』の力を失った。
邪王を倒したあと、魔王と妖王は魔物や妖怪を引き連れて山の奥深くに隠れ棲むことになった。もちろん、魔王の生み出した獣人の女盗賊、カターリヤもついていくという。
「マオちゃん、お妖さん……せっかく仲良くなれたのに、なんだか寂しくなるね」
「我も寂しい。じゃが、魔物と人間は共生できないからのう」
「まあ、双子の神様の温情で生かしてもらってるだけマシよねぇ。特に弟のほうは
「いえ……」
「なーに暗くなってんだい。アタシたちは二度と会えなくなるわけじゃないさ。いつか山に遊びに来なよ。もしかしたら魔王が勝手に人里に降りてくるかもしれないしさ」
「我を熊かなにかだと思っとらんか? カターリヤ」
笑って私の背中をバンバン叩くカターリヤに、マオちゃんはジトッとした目を向ける。
「それより、アタシたちにかまってたら、式に間に合わなくなっちまうぜ。もう行きな、お嬢ちゃん」
「あっ、もうそんな時間? どうしても最後にみんなに会っておきたくて……」
「だから、最後じゃないって。いつか縁があれば、また会えるさ。じゃ、行こうぜ魔王。このままここで別れを惜しんでたら、嬢ちゃんがいつまでたっても動きやしねえ」
「わっ、わかって、おる……グスッ」
「おいおい、泣くなよ」
「泣いとらんわい! ま、魔王が涙など流すものか!」
「はいはい。じゃあ、またねぇ、アヤメちゃん」
魔王と妖王、そして魔物や妖怪たちはふわりと舞い上がり、群れをなして山の方角へ飛んでいく。
知らない人が見れば、それはまるで百鬼夜行だろう。
「マオちゃん! お妖さん! カターリヤさんも! 元気でねー!」
私は力いっぱい声を張り上げる。
百鬼夜行が山奥へ消えていくのを確認した私は、
「……さて、私も行かなくちゃ」
山から
――今日は、エルモードさんの
第三王子でありながら、エルモードさんは父王のエルドラド王から次の王様に指名された。
つまり、エルモードさんと結婚した私は王妃になるわけで、ますます遅刻したらまずい。
私は全速力で王城へ駆けていくのであった。
――私は、極運を失うことと引き換えに、この世界――『ワールド・オブ・ジュエル』で生きることを許された。
現実世界であの不運な人生は二度とごめんだし、そもそも向こうの私は既に死んでいる。
選択肢は、ひとつしかなかった。
そして、エルモードさんに求婚されて今に至るわけである。
極運を失ったとはいえ、現実世界に比べればいくらかマシな運のステータスにしてもらえたらしく、特に大きな不運もなく毎日を過ごしている。
……流石に、王妃となってしまった今は冒険に出かけることは出来ないが。あの頃が懐かしい。
戴冠式で王冠を受け取ったエルモードさんを、玉座に座って見つめる。
やがて並んで王座に座ったエルモードさんは、優しい瞳でこちらを見つめ、緩く微笑んだ。
今日から私の旦那様で、ラピスラズリ王国を治める王様。
エルモードさんが私の手を絡め取ると、もう離さないというようにしっかり握りしめた。
私も同じ気持ちだと伝えたくて、その手を握り返した。
戴冠式のあと。
「アヤメ、こっそりお忍びでクエスト行ってみませんか?」
エルモードさんはいたずらっぽく笑う。
「いや、流石に無理でしょ。この国の王ですよ? 秒でバレますよ」
「だって、僕は冒険が好きですから。……あなたも、そうでしょう?」
「そうですけど……国政に集中してくださいよ……」
顔を覗き込むエルモードさんを避けるように、顔を背ける。
しかし、私の顎を優しく手で包んで、キスされるのは避けられなかった。
「……は~、まさかアヤメと結婚できる日が来るとは……国王にはなりたくありませんでしたが……」
「お兄様同士が政権争いしているところをエルドラド様に指名されてしまいましたからね……あのままだとエルドラド様、暗殺されかねませんでしたし……」
「僕も兄上たちに殺されないように気をつけないとですね。まあ、伊達に冒険者やってなかったので負ける気はしませんが」
物騒なことを言いながら、エルモードさんは朗らかに笑う。
「それで、いつギルドに行きます?」
「だから、国王が冒険に出ちゃダメですって……」
私達は歓談しながら城の廊下を歩いていくのであった。
――かつて『極運の冒険者』だった女は、強運を失い、冒険者を引退しましたが、王子様と結婚して幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
〈完〉
極運の冒険者~ゲームの世界に転移したけど、運がカンストしているおかげで幸せ人生!~ 永久保セツナ @0922
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