第17話 さらば、瑠璃国

 私、神崎かんざきあやめ! 現実世界から異世界に喚び出された極運の冒険者! 魔王に引き続き妖王も仲間になってくれました!


 マオちゃんは妖王のことを「よーちゃん」と呼んでいるが、流石におそれ多いので私は「お妖さん」と呼ぶことにした。

 お妖さんは私の極運と私が持っている人間の食べ物をよほど気に入ったらしく、私にかなり至近距離で懐いていた。

 エルモードさんは「また魔物が仲間になった……」と頭を抱えている。四人パーティーの内、半分が魔物ということになる。

 ……まあ、もともとお妖さんを仲間にするつもりだったし、今更のことではあるんだけど。

 お妖さんの御殿で一晩泊まらせてもらって(お妖さんの悪戯とか寝起きドッキリにおびえながら)、翌日私達四人は下山した。

「結構気に入ってた御殿だったんだけどぉ……もうここに戻ってくることもないだろうし、あとはちていくのみねぇ」

 お妖さんは少し寂しそうに笑った。

「? 邪王を倒したらまたここに戻ってくればいいじゃないですか。悪戯しなければ人間も退治しようなんて思わないだろうし」

 私は首を傾げてそう言うと、お妖さんは静かに首を横に振る。

「もともと、人間と魔物や妖怪は一緒にいちゃいけないものなのよ。魔物や妖怪が人間に敵意を持っている以上、どうしたって迷惑がかかるもの。人間だってわらわたちの存在を許しはしないでしょうし」

「お妖さん……」

「ま、妾が悪戯をしまくった自業自得なんだけどねん」

 お妖さんは空元気からげんきでおどけて笑う。

 船が難破して私達が打ち上げられた砂浜に戻ると、既に新しい船が海に停泊していた(その直前にマオちゃんは角と翼と尻尾、お妖さんも狐の尻尾をしまっていた)。

「よぉ、お客さん方。実は船職人に船を造ってもらうように依頼をしに行ったら、既に完成済みの船があってな」

「見本用とのことだったが、性能はピカイチだぜ。あんたらホントにラッキーだな!」

 船乗りたちは新品の船にウキウキとごきげんな様子であった。

「乗客が一人増えることになったんですが、よろしいですか?」

「もちろん! 運賃さえ払ってもらえりゃ、定員までは乗せてやるぜ!」

 エルモードさんの言葉に、船乗りは二つ返事で了承する。

 しかし、お妖さんだけが渋い顔をしていた。

「船に乗って『冥府の海』を渡るつもりぃ? 冥府の海の嵐をナメちゃダメよぉ。こんな船、バラバラになっちゃうわよぉ?」

「じゃあ船以外にどうやって海を渡るつもりなんだい、姉ちゃんよぉ」

 お妖さんの台詞に、船乗りはムッとした顔で問いかける。

「空よ」

「……空?」

「雲の上まで飛んで、そのまま海を渡ればいいの。雲の上まで行けば、嵐なんか関係ないでしょぉ?」

 お妖さんの発言に、船乗りたちはポカンとした表情を浮かべていた。

「おいおいおい……姉ちゃんは空が飛べるのかい? 仮に飛べるとして、この人数を運ぶ方法なんて――」

「まぁ飛べますけどぉ……船ごと空の上まで運べばいいのよねぇ?」

 そう言って、お妖さんは胸元から『双神の宝玉』を取り出す。

「海を渡りたい人は全員船に乗ってぇ?」

 お妖さんの指示に従い、私達四人と船乗り全員が船に乗り込む。

「いくわよぉ?」

 お妖さんが宝玉を空高くに掲げると、宝玉が光を放ち、鳳凰ほうおうのような巨大な鳥が姿を現した。

「な、なんじゃこりゃ!?」

 船乗りたちは今まで見たこともないような巨大さに目を丸くしている。

「この子に船を底から持ち上げて雲の上まで運んでもらうわぁ。そこからはもう海を越えるだけ。じゃぁ、お願いねぇ?」

 お妖さんが鳳凰に声をかけると、鳳凰は一声鳴いて、船の下に潜り込み、ザバーッと水がしたたる音がした。

 船が空に浮かび上がると、現実世界で飛行機が上昇するときのように、重力で身体が押しつぶされそうな感覚がする。

 船よりも巨大な鳳凰は、背中に船を乗せて一気に雲を飛び越えた。

 嵐を巻き起こす雷雲も、飛び越えてしまえばそこには青空が広がっている。

「わぁ……! エルモードさん、虹が見えますよ!」

瑠璃国るりのくにも色々ありましたが……困難を乗り越えたあとの美しい風景は心が癒やされますね」

 虹にはしゃぐ私を、エルモードさんは優しい目で見つめ、微笑んでいる。

 瑠璃国に滞在していた時間は短かったけれど、そのぶん濃厚な経験をした気がする。

 さようなら、瑠璃国。

 四人に増えたパーティーを乗せた船は、鳳凰の翼で何事もなく冥府の海を渡っていくのであった。


〈続く〉

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