第24話 子孫美少女憑依受肉おじさん……!?

「ハハッ、お化けなんて出る訳ないだろ。ネズミか何かが入り込んだのさ」


 二階堂ゆみです。

 早速ですが朗読会の空気は最悪です。


「俺はこんな所に居られるか部屋に戻らせてもらう!」


 借りていたオービット邸からはなぜか出られません。


「マジでベッドが飛んできたんだって!」


 お兄ちゃんの友だちが仮眠室がやばいとしきりに主張します。

 でも本体は地下です。地下に居ます。私は魔女っ子なのでわかります。


「先輩こわ~い」


 サクラお姉ちゃんは色ボケています。不思議なことに霊的な気配が色ボケの度に消えていくのですが、空気の重さ自体はむしろ増しています。


「か、帰りたいよぉ……」


 それが私の偽らざる本音です。


     *


 一先ず部屋から出られないということで、私は幼女特権を活かし、お兄ちゃんとサクラと三人で同じ部屋へと籠もった。

 面倒になったので幽体離脱薬エクトプラズマーを飲んで先に寝た訳だが、ここで思わぬ相手が出た。


「……君、幽霊だね? 何をしている。ここは私の屋敷だぞ」


 外国人のおじさんだ。スーツを着て、ヒゲをピヨーンと伸ばしている。そしてとても怒った表情だ。

 廊下に飛び出した私はこのおじさんに呼び止められたのだ。


「あ、え、えーと、その。迷い込んでしまいまして」

「なるほど? まあ良い……ちょっと来なさい。立ち話もなんだしね」


 おじさんに招かれるまま、立入禁止の応接室へと入り込み、ソファーに腰掛ける。


「私はオービット・佐々木。この土地に帰化したアメリカ人で、この館の主だ。今、訳の分からない若者たちの乱痴気騒ぎに自分の屋敷が使われてとても不快だが、君に腹を立てている訳ではないから落ち着いてお話をしようじゃないか」

「佐々木さん」

「オービットで構わんよ」


 オービットさんは肩をすくめる。私が美少女なおかげで怒りを免れることができてしまった。私が美少女だから。


「ではオービットさん、私は二階堂ゆみです。あの、いま、なんか急にサークルの人たちが館から出られなくなっているのは……」

「私の仕業だが。星の並びが良いからね。力が増しているんだよ」


 黒幕だ。すげえ、黒幕一発でヒットしちゃった。やっぱり私はすごいわ。


「あの人たちを出してあげるつもりなどは……?」

「ある訳ないだろう。決めたんだ。彼らを生贄に捧げてそろそろ復活しようとね」


 そう言ってオービットさんは下に向けて指差す。


「この下にね。私の死体が埋まっている。保存状態はまあ自分で言うのもなんだがかなり良い。これだけの若者の血が捧げられれば簡単に復活できると思う」

「わ、私になぜそんなことを……!」

「君をスカウトしようと思ってね。ちょうど小さくて可愛いし」

「まあ可愛いのは認めますが……ナンパですかおじさん」

「ははは。まさか。復活の暁にはお手伝いさんの一人や二人くらい居なければ困るだろう。見たところ迷い込んだだけの子供の霊だろう? あの中の誰かにたまたま憑いてきちゃったのかな?」

「そ、そんなところです」


 話を聞いている内に、なんだか妙だと気づいてしまった。

 どうも、私が幽体離脱薬エクトプラズマーを使うまで、このおじさんは私の存在に気づいていなかったようなのだ。私だってこんなところにおじさんの霊が居るなんて気づかなかったからお互い様なのだが、もしかしたらこれはパパが何がしかの細工をしたのかもしれない。


「二階堂サトルって男の人が、優しかったから、ついふらふらと」

「二階堂サトル……ああ、あの男か。私の子孫となにやら仲睦まじい……」

「やめてくれません!?」

「お前もかわいそうだな」

「憐れむなぁっ!」

「お、お前、態度でかいな……いやまあいい。地雷に触れたのは私のようだし謝ろう。まあ、そうだな、あの二人だけは逃してやる。だからまあ君もここは一つ幽霊としての生き方を変えるチャンスだと思って、私の仕事を手伝ってはくれないだろうか」


 まあもう少し話を聞くのも悪くない。というかまあお兄ちゃんが無事帰還できれば他の連中はどうでもいい……! ついでにあの佐々木サクラが消えてくれれば申し分なしなのだが、こいつが相手では難しそうだ。ん? 本当に?


「はい! もちろんです! あの、オービットさん……どんなお仕事をすればいいでしょう!」

「適当にポルターガイストを起こしてさ。学生たちをちょっと地下まで誘導して欲しいんだよね」

「分かりましたオービットさん! あっ、あの」

「どうしたのかな? もちろんあの二人は無理に追い込まなくても良いよ。部屋に籠もってるみたいだしね」

「佐々木サクラの身体を乗っ取って復活してみては?」

「子孫美少女憑依受肉か……君、面白いことを考えるね。悪霊の才能があるよ」

「ありがとうございます!」

「うむ、それでいこう。私も一度は美少女になってみたいと思っていたところだ! 復活の暁には私をお姉さまと呼んでも良いぞ!」

「やったぁ~!」


 この子美肉おじさんめっちゃ良い人じゃん!

 待っててね、お兄ちゃん、おっさんが中身の女とは付き合えないよね!

 悲しい別れによって生まれた心の隙間に私が入り込んであげるから!


「じゃあ! 私、サクラさんを連れてきます! どこまで行けば良いですか? 地下ですか?」

「ああ、それで頼むよゆみちゃん。楽しみだなあ子美肉しびにく~!」

「仕える身としても美少女に仕えたいですもの~! じゃ、行ってきます!」


 そうとなったら善は急げ。私は急いで元の部屋に戻り、お姉ちゃんに憑依してトイレと偽って部屋を出ていったのであった。

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