美人のお姉さんに育てば勝てるわね!
第6話 大人の姿でキャンディーよりも甘い誘惑を仕掛けちゃうって作戦よぉ!
私はパパの書斎で昼間から紅茶を飲み、ため息を吐いて天井を見上げる。
今日も小学校は閉鎖中。私は魔法使いの家に生まれた頭の良い小学生なので、オンライン授業などを優雅に受けてまた一つ同級生に差をつけてしまった。私……なんて出来る子なのかしら。人格学業いずれも優秀、運動もそこそこ、人格良好、欠点といえば男子を狂わせる罪な美貌。
こんな立派なゆみちゃんならば、お兄ちゃんが落ちる日もそう遠くないわね。
「それにしてもこの前は酷い目に遭ったわ。私可愛いのに」
「どうみても自業自得だねゆみちゃん」
パパはパソコンに向かって何か書類を作っている。モニターが4つくらいあって、どうやら全部を同時に見て何か作業しているようだ。
「待ってほしいのパパ。確かに酷い目には遭ったけど悲しいことばかりじゃなかった。確かな収穫も得られたのよ」
「本気か?」
「つまり私が子供だから駄目……そういうこと」
「……う、ううん」
パパは紅茶をゆっくりと飲む。私の淹れたレモンティーだ。美味しいだろう美味しいだろう。可愛い私が淹れると茶葉さんも喜んで美味しくなってくれるもの。
「確かにゆみちゃんが言っていることは間違いじゃない。しかし君はそれにもっと早く気づくべきだし、交際相手が居る異性に言い寄るのは良くないという事実にだって気づけるね?」
「パパ……私ね、お兄ちゃんの一番大切な人じゃなくていいの。二番目に大事な人で良い……それでも傍に居たい。妹としてじゃなく、異性として……」
「パパそういうの本当に良くないと思うな……」
「そういう状態がズルズルと続くと、お兄ちゃんが彼女さんから愛想尽かされるでしょ。そこにそっと手を差し伸べるって作戦ね」
「悪魔か」
「魔女よ」
魔法使いの娘なのだから魔女だろう。そう思っていたのにパパは私を鼻で笑う。
「本物の魔女というには思慮と背丈が少し足りないね。せめてママと同じくらい大きくならないと」
「じゃあやっぱり私が大人になるべきなんだよ。パパは毎日私に紅茶を淹れてもらっているお礼に一瞬で大人の身体になれる薬を渡すべきよ」
「そうだな……見かけを誤魔化すくらいなら身体に害は無いし、渡しても良いけどさ……君またろくでもないこと考えているじゃないか」
「背を伸ばして、ママの服を着てみたいなあ。少しだけ思い出に浸れるかも……」
「分かったよ。君の方法論は正しい。君の実験の結果を見たくなった」
結果から言えばパパはとっても甘かった。ありがとう天国のママ。ダシに使ってごめんねママ。ママは天国から私の幸せを願ってると思うし、バッチリ結果を出してハッピーになるからそれで許してね! ママ!
*
「じゃんっ!」
\私 美 人/
パパから貰った青いキャンディーを舐めてみたところ、私の身体は瞬く間に二十一歳相当の大人のおねーさんとなったのであった。
「どう?」
肘を曲げ両腕を頭の後ろに、胸をグイッと張って、腰を少しだけ引いて、膝を緩やかに曲げる。密かに成長中だったバストと自慢の長い足は私の期待通りに成長してくれた訳だ。
「どうかしら~?」
「良いんじゃないかな。とても良い。まあママほど美人じゃないけどね」
この人はこういうこと言うから駄目なんだよな。お兄ちゃんならママほどじゃないと先に言って落としてから上げてくれるのに。
「それはパパの責任でしょ。パパ成分よ」
「えっ……えぇ、えー……俺?」
罵倒したつもりなのだがパパは急にニマニマ笑い始める。
「俺ぇ? えぇ~? 俺のせい~? そっか~そうだよな~俺の娘だもんな~も~」
「え、なんで笑っているの……? こわ……」
「いつかゆみちゃんにも分かる時が来るよ……くく。君が本当に大人になった時とかね、ふふっ」
「あっそう。まあそういうものなのは覚えておくわ。それはさておき服を買いに行きたいんだけど」
「え~? 似合ってるし良いじゃんゆみちゃ~ん?」
パパは珍しく楽しそうだ。まあ確かに古いなりにモノは良いので私も気に入ってはいるのだが。
「お兄ちゃんに会いに行くのにママの服着ていくのもちょっと……ほら、お兄ちゃんの心臓とかに悪い気がするし……」
それを聞くとパパはスンッと真面目な顔になる。
「それは……まあ、そうだな。とても良くない。パパはゆみちゃんの実験に興味を持っているが、別にお兄ちゃんにつらい思いをさせたいわけじゃないからな」
「あとメイク! 私、素材は良いけどそれに甘えてすっぴんで会いに行くのもサボってる気がするの。どうかしらパパ。小学生用のお肌に優しい玩具みたいなのじゃなくてもっとガチなやつ」
「まあパパも今回はノリノリだったから服とコスメ、パパが買い物に付き合ってあげましょう。研究費を捻出する為にスポンサーを作ることをゆみも覚えなきゃいけない年だからね、そのための教育費だと思えば安い買い物だ」
私の当面の敵である佐々木サクラもとびきり良い化粧品を使っていた訳ではないが、たとえ風呂上がりでも最低限の身だしなみを整えて私の前に現れていた。あの女と戦う以上、私もそれくらいの心構えでなくてはならない。
「やったー! パパからどうやってお金を引き出せば良いか勉強するね!」
「ああ、精々気持ちよくお金を使わせてくれよ」
*
という訳でパパを相手にパパ活を成功させ、私は白いワンピースの上からデニムジャケットを羽織り、スニーカーを履いた美人のお姉さんになった。普通っぽい服装でも溢れる美貌は抑えられないわね。
そんな美しき私が訪れたのは駅前。私の事前調査によれば、今日、お兄ちゃんは彼女が家におらずバイトでこの辺りを動き回っている。スマホのGPSで位置情報も把握済み。完璧なシチュエーションだ。
「もう少し歩くと人通りが多いのよね」
今回、私はお兄ちゃんが昔隠していたエッチな漫画を参考にして作戦を立てた。
「今日の私は人妻……人妻……」
最近、お兄ちゃんは暇すぎて飲食店のお食事をご自宅まで届けて回る学生アルバイトで出歩いている。
その途中で美人の私はクソみたいな男に声をかけられて明らかに困っている雰囲気を出す。
お兄ちゃんはイケメンなので至極簡単に私を助けに来てくれるだろう。
助けてもらった私は顔を赤らめながら『お礼にお食事などごちそうさせていただけないでしょうか?』と囁く。
するとお兄ちゃんも『まあバイトの後ならば……』となるだろうから、夕飯でちょっとワインの一杯も織り交ぜながら少し色っぽい姿を見せておいて、お兄ちゃんの倫理観が怪しくなったところで……帰る! 帰るのだ! なんなら食事の後にどこかお洒落なバーとか入って一杯ひっかけてから帰る。人間は自分が助けたものに価値を見出したがるし、期待してから逃げられたら執着する。お兄ちゃんも例外ではない。
「今日の私は年上で優しい夫を持ちながら、暇を持て余したイケない人妻……」
肉体だけなら大人と同等なのは実験で証明済み、青いキャンディーも飲酒によって効果解除などという間抜けなことにならないのはこの体で試している! ちょっと期待させておいてその日は連絡先交換だけして帰る! そしてLINEなどで少しずつ期待感を高めて向こうを夢中にさせてから呼び出したら大成功! あとはどうとでもなるはずよ!
「……よし!」
指輪をつけるかどうかで迷ったが馬鹿を引き寄せやすそうなので最初はつけないことにした。
これで準備は完了、待ってなさいお兄ちゃん。今日こそ人の道を外してもらうんだから。
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