第31話 リサと瑠衣の会話

「リサ、女同士の会話だから他の人には秘密にしてほしいんだけど」

「はい、勿論です、ルイ」

「雄一さんて、凄く素敵だと思わない?」

「瑠衣、私にはまだ素敵の意味が理解できていません」

「リサにとって研一郎さんは、どんな存在なの」

「この場合の存在の意味が理解できませんが、人間関係に例えれば、父親と思っています、これで、回答になっていますか?」

「ええ、私にとっても研一郎さんは、父か兄のような存在ね、でも、それは、後からの事で、知り合った当初は、違っていたの、私は彼の妻になりたかったの」

「研一郎さんには、既にジェニファーと言う奥さんがいます」

「ええ、解っているわ」

ルイはリサに答えながらケンとジェニーに初めて会った時の事を思い出していた。


ルイの父親は鉄工所の社長をしていた。

社員が150人とそれ程大きな会社ではないが順調に利益を上げていた。

ルイは恵まれた幼少期を過ごした、何不自由のない生活だった。

難を上げれば裕福な家庭にありがちな習い事の多さだった。

ある日、ある時、ルイはそんな生活に疑問を持ち自分の力だけで生きる道を選んだ。

ルイは料理店でアルバイトをしながら学校へ通う事にした。

当然、両親は反対したが、頑固な性格は両親譲りと言い譲らなかった。

そこで父親が折衷案をだした。

働く事は許す、但し、成績が落ちたら、その時点で終了する、住まいは自宅とする、但し家賃は貰う、家賃を滞納したら、その時点で終了と言う物だった。

彼女は受け入れアルバイトが始まった。

その料理店は、美味しい事で有名だったが、形式も変わっている、バイキング形式で、2千円と一万円の2コースある。店の言葉によれば、素材の産地、等級や一部のメニューの

有無が違うだけで、美味しさはどれも同じと言う。

ルイの担当は当初皿洗いだったが彼女の物腰と言葉使いに配膳つまり接客に配置変えになった。

その後、賄いを任されその味とメニューに関心したオーナーの料理長がコックへと配置変えになった。

ルイは率先して賄いを作った、彼女は仲間内に出す料理を新メニューの試し、試食と考えていた。

例えば、液体窒素を使い極度に冷やした料理を作った・・・これは後に正式メニューになった。

例えば、前菜から始まるコースの全てを豆腐で作る「豆腐づくし」を作った・・・これも正式メニューになった。

そんな料理を次から次に考案し店の看板メニューになると次第に店の名前が世間に知られ何時来たのか解らないが世界の料理評価で星を二つ貰う店となっていた。

その間、ルイは学校へは極力行かず最低の出席日数だった、だが時々行われる試験で成績を落とす事は無かった。

逆に生活が充実しているせいか成績が良くなり学年の順位が上がって行った。


この店にある日の夜、3人の男女がやって来た、一人の中年男性と若い男女のカップルだった。

オーナーは三人をとても大事に扱った。

ルイは何者だろうと思いながらも何時もの様に丁寧に調理した。

ルイは三人の中では年を繰った「おっさん」と若い外人女性を何処かで見た様に感じていた。

三人は何故か食事が終わっても帰ろうとはせずオーナーもそのままにしていた。

三人は申し訳無いと思ってか、時々料理を注文しそれを魚にビールや酒やワインなどそれぞれに好きな物を飲んでいた。

ラスト・オーダーの時間が過ぎ店が閉められたが三人はそのまま席に座っていた。

店の後始末が終りルイがオーナーに帰りの挨拶をするとオーナーが言った。

「ルイ、三人がお待ちだ、何だか話があるそうだ」

「えぇ~、私、あの人たちを知りませんが」

「あぁ、向こうも知らないらしい、まぁ~座って話だけでも聞きなさい」

「あの人達は誰ですか,オーナーの知り合いですか」

「いや、始めて会った、だけど知っている」

「ええ、有名人ですか、誰ですか」

「話をしてみれば解るよ、兎に角座りなさい」

そこまで言われてルイは観念し三人のテーブルに着いた。

「何でしょうか」

「初めまして、花咲瑠衣さん、ルイさんと呼んで良いかしら」

外人の女性が流暢な日本語で言った。

「どうぞ、それで話はなんですか」

「私達と一緒に来て」

「何処に何しに行くの」

「見てほしい物があるの、そして話をしたいの」

「話ならここでも出来るじゃないですか」

ルイは少し怒った様に言った。

「そうね、では、こう言ったらどう・・・ナサ、NSA、CIA、警視庁・・・」

「・・・」

「ねえさん、彼女、凄いね、一流の犯罪者に成れるよ」

ルイは少々動揺しながらもカップルじゃ無く兄弟なんだ・・・じゃあ、このおっさんは何と思った。

「ルイさん、貴方の天才的な手腕を私が作ったコンピューターが発見した・・・と言ったらその機械を見たいと思いませんか」

「・・・警察では無い・・ですね、役所でも無い・・・あぁ、思いだした、貴方は」

と言ってジェニーを指さした。

「じゃぁ、じゃぁ、貴方が岬研一郎さん・・・」

「そうです」

「うぁお~、悔しいどうして解らなかったんだろう、私、大ファンなんです、もう何処でも行きます、来るなと言っても付いて行きます。」

「待って、待って、彼にはもう彼女、私がいるの、だから駄目」

とジェニーがケンとルイの間に立ちはだかった。

「えぇ解って居ます、安心して下さい。岬さんは大ファンですが結婚対象じゃないです、正直、私はお兄さんを狙っています」

「えぇ~兄を、兄を知っているのですか」

「日本中の人が知っています、お会いした事はありません、ですが私の気持ちは本当です、貴方がたにくっ付いていれば合う可能性は高くなりますよ・・ねぇ」

「彼のお兄さんと貴方ではかなりの年の差があるけど」

「貴方方だってかなりのものでしょう、ちょっとこっちが多いだけです」

後に二人が兄弟の様になるなど、この時は誰も思わなかった。


帝国ホテルのインペリアル・タワー31階の部屋に入った。

「自己紹介がまだでしたね、私は岬研一郎でこちらがジェニーでそちらが弟のヘンリーです」

「はい、ありがとうございます、今は判ります」

「私の事はケンと読んで下さい、貴方をルイと読んで良いですか」

「はい、お願いします、ケン」

ケンがテーブルに置いてあったアタッシュケースより少し大きめのケースを開けて言った。

「早速ですが、これを見て下さい」

開けたケースに画面がありそこに「初めましてルイさん」と表示されていた。

「うぁ~言語認識が出来る様になったのね~」

ジェニーが喜びと驚きの声を上げた。

「えぇ~、じゃこのコンピューターはAIなのですか」

ルイが確認した。

「流石ですね、そうです、これは端末で本体はアメリカにあります」

ケンが答え、ジェニーが補った。

「このマシンの能力を機能アップしたの、そして試しに各種プログラム言語を覚えさせハッカーの技術や手法も覚えさせ、その後、試しにいろいろと侵入して見たの・・・いけない事だけどね、

そしたら成功したので皆で喜んだんだけどマシンが先に入った人が居ると言うの、それが「NASA」で、じゃーと言う事で「NSA」「FBI」「CIA」はと調べたら同様に侵入されていたの。

そして、貴方に辿りついた・・・と言う訳よ」

「・・・私は逮捕されるのですね」

「えぇ~、あぁ私達は何処にも知らせるつもりは無いのよ・・・貴方に私たちの仲間になってもらいたくて・・・勧誘にきたのよ」

「私を仲間にしてくれるの、本当?」

「ええ本当よ」

「でも、私・・・学校が・・・」

「学校ね~、まぁ世間には箔が着くはね、友達を作るには良い場所よね」

「私も楽しい・・・勉強になる・・・と思っていたわ、でもケンと知り合ってからの方が楽しいし勉強になったわ」

「日本では東京大学を出ていると就職に有利なんです」

「でも貴方はうちへの就職が決まったのよ、うちと言っても会社じゃなくて私達の仲間ですけどね」

「どう言う意味ですか」

「ウィンステッドとは関係無いと言う事よ・・・もっとも肩書がほしいなら関係会社の何処かの役員にでもしましょうか」

「仲間ってどう言う事ですか」

「あぁ~それはね、此処にいる三人と多分・・・後二人と貴方の計6人よ」

「えぇ~たったの6人ですか」

「人数が多ければ良いと言うものでも無いでしょう」

「他の二人ってどなたですか」

「ケンのお兄さんとお嬢さんよ」

「お兄さんってまさか・・・峰岸雄一さんですか」

「あら良くご存じね」

「入ります、仲間に入れて下さい、お願いします、私、峰岸さんの大大大ファンなんです」

「あらあら、でも良い返事をありがとう、学校だけど、止めちゃいなさい、ご両親には私達が話します、それとアルバイトも終了ね」

「はい」

「あらあら、素直ね・・・ケン、お兄さんの効力は凄いわ」


翌日、ルイはアメリカへの専用飛行機に乗っていた、勿論ルイの両親を説得し了承を得ていた。

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