第24話 雄一の謎々

「ありがとう、皆の趣味と専攻が解った。

では理論に至った経緯を質問形式で始めよう・・・まずは・・・宇宙で一番早い物は何かね」

「光です・・・あ・・・私達は光を超え今も光速の三倍で動いているんでした」

「そう、もう皆は真実を知っているが、私はこの宇宙で光が一番とは思え無かったんだよ」

「ブラック・ホールを知っているかね」

「はい、全てを取り込む超質量の星です」

「そうだね、でもその何をも取り込む物からジェットが両極から出ている事を知っているかね」

「はい、テレビで見ました」

「不思議には思わないかね、何ものをも取り込むと言っておきながらジェットが出ている事の現代の物理学の正当性、理論を・・・」

「境界点・事象の境界面で正と負が別れ負は引き込まれ正が放出され負は序々にブラックホールの力を弱めやがては消滅させる・・と言われています、そして中心には特異点があり重力が無限大と思われています、それにジェットを噴出しているのはブラックホールの前のクエーサーと呼ばれる天体です」

「そう、良く知っているね、現代物理で一番信頼されている説だね、だが、それでもブラックホール成立以前でも大質量の筈だそれは何をもおも吸収すると言う説が崩れているね、正が放出されている訳だからね・・・ところでブラックホールは如何してできるか知っているかね」

「大きな大きな恒星の終焉がブラックホールと言われています、太陽の様な大きさ・質量の恒星は赤色巨星になり白色矮星になると言われています」

ルイの返答が微妙に変化していた、それは何々です・・と言っていた答えが言われている・・と変化していたのである、自分が信じて来た現代物理に疑問を持ち始めた・・と言う事である。

当然と言えば当然な事で現に光の速度を超えて航行しているのだから・・・・。

「超巨大恒星がブラックホールになる過程を知っていますか」

「恒星は外への力・核融合と内への力・重力の均衡で大きさを保っていますが核融合の燃料が尽きると重力が勝り爆発する・・・そしてブラックホールが出来ると言われています」

「ではブラックホールは何処に存在するかね」

「大きな物は銀河の中心に存在し小さな物は宇宙の至る所にある・・と言われています、銀河の中心に存在する事は天文学により確認されています」

「そうだね、何か超高質量の物質が銀河の中心に無ければ沢山の恒星をまとめられないからね・・・・では恒星はどの様にして作られるのかね」

「宇宙のガスが集まり序々に高い重力を得て集まり限界点を越えると水素が結合・核融合し恒星になると言われています」

「ではガス惑星の成り立ちはどうかね」

「恒星と同じですが質量が核融合を起こす程に高く成らないだけです・・・と言われています」

「最近の天文学で銀河の惑星が多数発見されその中には木星の何倍ものガス惑星がある事を知っていますか」

「知っています、天文学界では大きな話題となりました」

「そうだね、では何故その巨大惑星は恒星に成らなかったのだろうね、質量は十分だろうに・・・ね」

ルイはここに来て初めて答えに詰まり援護を求める眼差しを回りの皆に向けた。

「兄さん、質問が詰問になっていますよ、ルイが可愛そうです」

「ケン、ありがとう・・でも、こんな質問をされた事が無いので戸惑っていますが不思議と快感を感じていて全く不快ではありません、でも今の質問は答えがありません」

「ルイ、君の知識は凄い、本当に凄い・・・でもね、それは他人が考えた物の蓄積でしかない・・・残念だが自分の考えが含まれていない、知識は貯めて自分の考えと照らし正当性が得られて知識が知恵になる・・・と私は思っています、今の質問は現代物理、天文学で回答が無い・・・と言うより誰も疑問視していない事だから回答も当然無いのだよ・・・そこで自分なりの理論を考えるといいね」

暫くルイに考える時間を与える様に静寂の時が過ぎた。

だが誰も不満を抱く者も無かった逆に皆が深く思考する様な目付きになり沈黙していた。

雄一は思った・・・良いメンバーが揃った、深く深く思考する事を習慣とし考える事が好きな人が集まっている・・・と喜びが沸いた。

「ルイ、浮かんだかね・・・皆はどうかね・・・・もう一つ問いを出そう、宇宙の始まりは何かね」

ルイは考えに落ち込み聞こえていないらしく雄一が皆を見るとケンだけが見返し他の者たちはルイと同じ様に考えに落ちていた。

「おやおやケン、もう少し待った方が良さそうだ・・ね」

「そうですね兄さん、コーヒーでも飲みますか」

二人はコーヒーを飲んで皆の思考時間を中断する事無く待った。

「お父さん、現代の物理学の理論には矛盾がいっぱいです」

「そうだね、それで早紀はどう言う理論に達したかね」

「あぁ、でもルイが・・・・」

回りを見回し付け足した。

「皆が戻るまで待った方が・・・・」

「そうだね、待つとしよう、その間に早紀が考えた理論を確立させて置くと良いね」

「はい」

早紀は返事をすると再び思考の狭間に戻って行った。

「兄さん、もう一つの問いとは何ですか、皆を待つ間に考えたいのですが、僕だけ先にとは行きませんか」

「良いよ、宇宙の始まりだよ、知っての通りビッグバンと言われている・・・が、今の全宇宙の質量を保持していて一瞬で拡張したと言われている・・・が、無限大の大質量を持つと言われるブラックホールが何ものをも吸収するなら何故格段に桁違いな大質量のビッグバン以前の物質は拡張・拡散したのかな」

「臨海点を越えた・・・では答えになりませんね・・う~ん、兄さん、少し時間を下さい」

再び雄一だけが動く人で他の五人は彫像の様に固まり思考の人になってしまった。

「リサ、居るかね」

「はい、雄一さん、皆さん考えていますね、私も考えましたが無理でした、所詮、私は現代物理しか知識がありませんので現行の理論でしか答えが出ません・・・・私に発想と言う機能を追加する事は可能でしょうか」

「おや、リサその機能は必要無い事に気付か無いかね」

「えぇ~如何してですか・・・・私には既にその機能が有るんですね、今の機能追加願い自体が発想なのですね」

「その通りだよ、じゃリサも皆と同じ様に現象を正当化する理論を考えて見なさい」

「はい、早速試してみます・・・暫く返事出来ないかも知れません、お許し下さい」

「リサ、但し、船の機能保全と周辺空間の探査機能は保持していて下さい」

「勿論です、では失礼します」

一人になった雄一はストレッチや腕立て伏せ、スクワットなど体を動かして過ごした。

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