第19話 二人のその後

種子島の北東、国道の西側一帯を買った者がいた。

小さな島だけに直ぐに話題になった、国の施設ではないかとの噂も出た。

数週間の後、数機の飛行機がやって来て大量の重機を降ろした。

大型トラックに重機を積み何度も往復し新たに購入された土地に運んで行った。

その飛行機は、アメリカのもので一度成田で税関の検査を受けこの島に来ていた。

購入された土地では大規模な工事が行われた。

大きな大きな穴が掘られていたり、高い塔が立ち各種のアンテナが設置された。

工事は土木、建設も含め突貫工事で進められ二か月も経たずに完成した。

再度、飛行機が数機飛来し重機を積み込み去っていった、まるで嵐の様なものだった。

その後は、何もなかったかの様に静かになった。

近くを通った者が見た風景は大工事が行われた面影はなく長閑な風景が見えるだけだった。

それから、二、三日して日本人の男性と外人の女性が種子島空港に降り立った。

研一郎とジェニーだ、二人は駐車場に止めてあった電気自動車「ジェニー・マーク5」に指紋認証で乗り込み発車した。

島の人々はこの見慣れぬ車の話題で持ちきりだった。

その前の話題は、北の土地の購入者についてだった。

見慣れぬ二人、それも飛び切りの美人の外人が話題の車に乗り北へ向かったので、全ての疑問への回答が得られたと思った、が、何しに来たのだと言う新たな疑問が湧いていた。

だが、その疑問も翌週には回答が得られた。

二人が近隣の家を周り牛と羊を購入して行った。

そしてたりない頭数を島へ空輸して来た、二人が始めたのは、牧場だった、名は「岬牧場」である。


ジェニーは研一郎には研究に専念してほしいと思い家庭用発電機販売、電気自動車販売も研一郎の手を煩わせずジェニーが父や祖父を手足の様に使い設立、稼働、販売、宣伝を行った。

発売が軌道に乗った頃、一度、研一郎の手を煩わす事が起きた。

自動車工場へ輸送中の発電機が多数盗まれてしまったのだ。

その為、研一郎に依頼しGPS探知して貰いFBIと協力し取り戻した。

その際に研一郎は、今後を考え制御センター構想を提案し、その設計を提出し装置を開発した。

そのセンターは全購入者を登録しその使用料を把握し電力残量を検出し少なくなるとメール通知するサービスを含み、今回のような盗難の場合、その位置を特定するシステムを含んでいた。

又、このシステムにより車の盗難は実質、不可能となった。

家庭用発電機については、何も問題はなかった。

強いて言えば電力会社が白旗を上げ発電機の購入を申し込んで来た事だった。

だが、その頃には、もう会社の存続は不可能だった。

顧客がないのだ、大型の発電機にまず飛び付いたのが大企業で大量の電力を消費する会社だったからだ。

そして、各業界、各社から一族は恨みを買う事になってしまった。

電力会社、自動車会社だ、一族は一般従業員は新会社へ雇用した。

自動車のエンジン以外の部門は変わらず必要だったからでもあった。

電力会社は家庭用発電機の家庭訪問要員に雇用された。

雇用しなかったのは重役を初めとする幹部だけだった。

恨みはそんな重役で直接的処置をして来た、つまり殺し屋を雇ったのだ。

カーターとジェフが乗った車を通りの真ん中でそれもニューヨークの市街地でだった。

偶々その時、ジェニーと珍しくケンが乗っていた。

ジェニーが研究所に籠り切りのケンを気分転換に連れ出し二人の車に同乗させたのだ。

ケンはエンパイアーステートビルに上った事がないと言うので、そこを目指している時だった。

交差点の信号で止まった直後周りから一斉に機関銃が発射され周りが大混乱になった。

周りの人たちは銃弾の中心の車は残骸になったと思っていた。

暫くして銃撃音が消え、煙が晴れるとそこには無傷で周りを小さな粒で覆われた姿が見えた。

粒は各種の銃から発射された銃弾だった、信号が青になると何事もなかった様に周りの粒をバラバラと落とし発進して行った。

周りの人々も驚いたが、撃った人間はもっと驚いた、更に驚いたのは車の内部の人間だった。

カーター、ジェフ、ジェニーはケンの仕業、いや、御蔭と直ぐに気付きケンを見た。

ケンはこの機械です、と懐から小さな携帯電話を取り出して見せた、

「この携帯にバリヤー装置を付けました、高速物質を遮断する機能があるだけの、詰まらない装置ですよ」と事も無げにケンは言って窓の外を眺めていた。

他の三人は、それどころではない、また、新規の事業を起こさなければならない事を意味していた。

世界中のVIPが顧客となるものだ、この装置は完全なセキュリティを意味していたのだ。

ケンがまた言った「そうだ、ジェニー、君にこれを渡そう」と先ほどの携帯電話と同じものを渡した。

「皆さんのもあります」とポケットから二台ずつ渡した、「奥様方にも渡して下さい、先ほどの防御装置は付属です、本来の機能は、地球上の何処に居ても直接接続が可能と言う事です。

地球の裏側でも繋がります、通信衛星は使いません、それぞれの相手の位置も解ります」と言ってまた窓の外を眺めていた。カーターがケンに質問した、

「君は我らに膨大に利益を齎してくれた、君の望みはないのかね」

ケンは珍しく即答した。

「取りあえず、三つあります、一、ジェニーを妻に下さい、二、日本の種子島にできるだけ広大な土地を購入して下さい、三、オーストラリアにも、より広大な土地を購入して下さい」

ジェニーの父のカーターが当の本人のジェニーに問うた。

「ジェニー、一つ目の願いは、どうなのかね」

「私も望んでいます、ケンは結婚してくれないと諦めていました」

こんどは祖父のジェフがケンに問うた。

「日本の土地は何に使うのかね」

「研究所を作ります、但し、見た目には一般の家庭です、そう、牧場が良いですね」

「オーストラリアは」

「難攻不落な大コンピューター施設を建造します」

ジェフがカーターを見た、カーターは頷いた

「三つの願い招致した」

ジェフが承諾した。

「ケン、ところで、まだ発明品はあるのかね」

カーターが確認した。

「まだ。大したものはありません、地球の全地殻に含まれる鉱物を特定できる探査装置くらいでしょうか」とケンがあっさりと言った。

三人は驚いた、その装置が齎す人類への恩恵は計り知れないし膨大な儲けが見込まれた。

だが、ケンには資産への執着がまるでないのである。

ケンには装置ができるまでが興味の対象でできてしまえば次の興味に注意が移って行った。

ケンの発明を人類への恩恵に安全に供給する事を三人は使命と考える様になっていた。

ケンのこれまでの二つの発明だけで全世界の産業界は崩壊変貌していた。


後日カーターの妻アイリスがケンに問いかけた。

「ケン、今は何を開発しているの」

「はい、今のシールドは銃弾を防げますがロケット弾などの大型兵器とレーサーなどの光学兵器を防げません。

それで、次の防衛を考えています、後は、探知装置ですね。

これは登録したDNAを探知するものです、後は、とても固く柔軟な素材ですね、超高密度素材です、あぁ、それとコンピューターのAIですね」

「いろいろ、お考えですね、それでジェニーは、お役に立っておりますの」

「勿論です、私を研究に専念させてくれますから」

皆、驚いた、素振りだけで周りの状況はしっかり把握していたのだ。

また、アイリス以外が驚いたのは、アイリスがケンに興味を持ったと言う事だ。

その表情と眼差しは興味以上に好感を抱いている様に見られた、非常に希な事だった。

「ジェニー、良い方ね、手離してはだめよ、一族への才能貢献の事ではないのよ、この方の心よ」

「はい、お婆様、決して離れません」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る