第7話 漂流

「どうしました、早紀」

「・・・・ヘンリー、今微かな揺れを感じませんでしたか」

同じ頃

「雄一さん、今微かな揺れを感じませんでしたか」

二人が感じた微かな揺れは次の瞬間激しい衝撃を伴った揺れに変わりサイレンと赤い警告灯の点滅が続いた。

雄一、ルイ、ヘンリー、佐紀は制御室へ向かい、自室に居た研一郎とジェニーも制御室へ向かった。

だが誰も直ぐには制御室に辿り着けなかった。

激しい揺れの後に体が序々に重くなり歩けなくなって遂には床に寝込むしか無くなってしまい最後には皆意識を失ってしまったのである。

暫くして雄一、ヘンリー、ケンと三人の男たちが順に目覚めた。

雄一は宇宙飛行士の訓練で高重力に慣れていた。

次に目覚めたヘンリーはスポーツ好きな青年故にケンよりも早く目覚めた。

「う~ん」

ヘンリーは自分の手足の感覚と痛みの無い事を確かめ佐紀を探し側に寄って呼吸を確かめた。

佐紀の呼吸はしっかりしておりヘンリーは安堵した。

「リサ、何があった。皆は無事か」

「はい、無事です。何があったかは皆さんが揃ってから説明します。

制御室に来て下さい。佐紀ちゃんをお願いします」

三人の男たちの言動はほとんど同じものでまず同伴の女性の安否を確認し次ぎに他の仲間の安否をリサに確認した。

制御室に一番近かった研一郎が最初にジェニーを抱え制御室に入りジェニーをソファーに固定した。

「ケン、全員無事です。皆さんもこちらに向かっています。安心して下さい」

「判った、ありがとう。リサ・・・・君はどうかね」

「ご心配ありがとう御座います、ですがそのご報告は皆さんが揃ってからにして下さい、申し訳ありません」

「なあ~に、緊急に私の判断が必要では無いのなら良いよ、二度手間だからね」

研一郎が船の状況を確認しているとヘンリーが佐紀を抱えて制御室に着いた。

佐紀をジェニーの隣に固定し研一郎の隣に座った。

そこへ雄一もルイを抱えて制御室に着き佐紀とジェニーの隣に寝かせ固定した。

「皆さんが揃った様ですが状況説明は暫くお待ち下さい。

船の全体の状況を詳細に把握する時間を下さい」

「良いよ、女性陣が目覚めてからにしよう、良いですね兄さん」

「ああ、構わないよ、しかし重力が無いと重くは無い分運び易いと思ったが逆に難しいものだね」

「えぇ、自分の体の行き先もままならず、増してや彼女と一緒となるととても大変でしたね」

三人の男達は其々の女性の額に濡れたタオルを巻き気遣った。

10分程して三人の女性たちが次々に目覚め其々の同伴者に礼を言った。

因みに現在も無重力状態だった。

「リサ、女性陣は目覚めたが暫く休息を取りたいが差し迫った状況かな」

「いいえ、大丈夫です、そちらの準備が出来たら声を掛けて下さい、それまでは状況把握に専念させて下さい」

「宜しく、リサ、ところで1Gに出来ないかな」

「こちらこそ、ケン」

「ケン、加速するのは気密性を確保し設備の安全を確認してからで良いだろう、なぁリサ」

「はい、雄一さん」

「解かった、リサ頼む」

「了解しました」


30分程経ち六人の搭乗員は半円のソファーに腰掛けリサの説明を聞く体勢に成った。

皆は無重力なのでチューブのコーヒーを暖めた物を手にしていた。

「では、リサ、事の始まりと船の状況を聞こう」

「研一郎、もう一つ聞こう・・・・現在位置を」

皆の顔から驚きの表情が現れ何かを思い出す表情に変わり暫くして納得した表情に変わった。

「はい、まず雄一さんの質問にお答えします・・・・」

コンピューターのリサには珍しく逡巡とも躊躇いとも着かぬ間があった。

「・・・・・・残念ながら今までの処、現在位置をお答えできません・・・・申し訳ありません・・・皆さん」

驚いた事に男性陣は勿論の事、女性陣にも不安の欠片も顔に現われてはいなかった。

雄一が皆を見渡し言った。

「どうやら一番不安な者はリサの様だね」

「皆さんは不安では無いのですか。

私が蓄えた情報では人はこの様な時には不安に成るものだ・・とあります。

男性は女性の前ではその不安を隠し女性を守ろうとする・・とあります。

ジェニーは不安では無いのですか。

佐紀ちゃんは不安では無いのですか。

ルイは不安では無いのですか」

「どうなのかね」

雄一の言葉に男性陣がジェニー、佐紀、ルイを見た。

「私は不安が全く無いと言えば嘘になりますが・・・・ケンが一緒なら死んでも平気です

ケンが何とかしてくれるとも思っています」

「ジェニー・・・・ありがとう」

ジェニーとケンの二人の言葉にルイと佐紀は羨ましくも感激していた。

「佐紀ちゃんは怖くないのかい」

「ケンおじさん、私もジェニーと同じで不安はあるけどお父さんが何とかしてくれる。

必ず助けてくれる・・・そう感じるの」

「ルイは怖くないの」

「はい、ジェニー、私は全く怖くありません、不安もありません。

何だかワクワクしています・・・・し・・・佐紀ちゃんのお父さんとケンがいますので何とかしてくれると思っているのかもしれません」

「良い傾向だな、この様な時に一番いけない事は不安感、恐怖に取り着かれ冷静さを失う事だ・・・皆に約束しよう・・・・私と研一郎が必ず皆を無事に地球に我が家に連れ戻す・・・・・皆の協力の元にね」

そう言って雄一は皆を見渡した。

「さて、リサ、現在地は後回し、敵については追って来ていなければ二番目として第一に船の状況を聞こうか」

「ケン、宜しいですか」

「リサ、私はこの船の艦長だが兄さんはその上の司令官なんだ、だから私の許可は要らないよ」

「はい、ケン、記録しました。船の状況をお答えします。

物質防御フィールドは稼働可能ですが光線防御フィールドは過負荷により破損し使用不能状態です。

最下層と上部二層目にレーザー兵器の損傷を受け気密性が失われました。

上部二層目の植物が一時低酸素、低温に晒されました。

即座に二箇所の階層への区画隔壁を閉じましたので他区画・他層への影響はありません。

なお現在機密性確保修理を工作ロボットが行っています。

ですが防御フィールドの修理は私には出来ません、ケン、ルイお願いします」

「ケン、ルイ後で見てくれ」

「はい、兄さん」

「はい、雄一さん」

「リサ、故障箇所は他に無いかな」

「ありません」

「良し。では経過を聞かせてくれないか」

「はい、雄一さん、私もそう呼んで宜しいてすか」

「構わないよ、リサ」

「ありがとう御座います、では報告致します。

私たちは火星軌道を通過し地球から見て火星の後方へ向かっていました。

火星接近への方向転換地点に着きましたので一旦停止したと同時に小惑星帯の二方向から攻撃を受けました。

攻撃は物質攻撃では無く光線攻撃でした。

最初は一箇所からのそれも小出力でしたが序々に出力が上りもう一箇所からも追加されました。

出力も上がり始めました。

この時点まで16秒で防御フィールドの最大出力の70%に達しました。

これ以上の攻撃が予想されました、それは出力上昇と攻撃地点の追加です。

そこで軌道を系外に向け加速し最新防御フィールドを追加しました。

加速は最新防御フィールドを展開するまでの20秒で出力は60%でした。

その20秒間は加速度を15Gまで上げ皆さんにご迷惑をお掛けしました。

申し訳ありませんでした。以上です」


「ありがとう、リサ、それで速度はどれだけ出ていたのかね、そして今の速さはどれ位かね」

「最後の速度は光速の3倍でした現在も同じです。

おめでとう御座います、お二人の理論が正しかった。

物体の移動速度は光速を超える事が出来るのです」

「ほう、この災難の中での朗報だね。

だが、この旅でいつかは判った事だろうから結論が早く出たと言うだけだがね。

ところで最後にと言ったのには訳があるね」

「はい雄一さん、最新防御フィールドを展開中も光速の三倍だったとすると現在位置が予想できるのですが残念ながら全く判らない・・・判断できないのです」

「方向が変わったのでは無いの、リサ」

「ジェニー、私もその可能性も考え全方向を確認しましたが判断できないのです」

「判断できない・・・・うむー成程・・・、最新防御フィールド展開中に速度が落ちるのか。

いや其の場合は前方の星座だけでも場所が判るはずだから速度が増す・・・。

それも桁違いに増す・・・と考えた方が良いのかな」

「ケン、私の計算でもその確率が高いです」

「では、リサ・・・後方一直線の位置に何があるかね、大スクリーンに出せるかね」

「はい、此れです」

「オー・マイ・・・・・」

ジェニーは驚きの言葉を発し回りを見回し残りの言葉を飲み込んだ。

ジェニーが驚いたのも無理は無い、画面の全てが真暗だったからであり近くに恒星が星が無いのである。ミルキー・ウェイ、天の川も見えないのだ。

「あら~ルイ、早紀は平気なの・・・あぁルイは冒険好きだからなのね」

「いいえジェニーそうではありません、リサの現在位置が判らないと言う言葉を聴いてから・・何となく・・そうかな~と思っていたからでしょうか・・・早紀ちゃんは」

「私も同じです・・・・私達は光速の3倍で進んでいるとの事でしたので・・・予想はしていました。

光より早く進んでいるのですから後を光で見る事は不可能かなーと」

「お兄さん、理論ではそう言われていましたが実証できた訳ですね」

「そうだねジェニー、リサ船の周囲を見せてくれないかね」

雄一の指示に従いカメラが上部へ向かうと画面は殆ど真暗でやがて前方を移し出した。

だが矢張り殆どが真暗だったが正面に向かうに従って光に満ちていった。

皆は唯々黙して画面を見入っていた。

「リサ、この映像の倍率は、そして君の最大倍率は」

「現在の画像は等倍です、私の最大は5000倍です」

「ほう~凄いな~地上偵察用かな」

「はい、私にはその任務も有りました」

「早急に我々は重大な決断をしなければならない・・・・・。

私は将来地球に戻りたい・・・・、その為には太陽系の位置を知らなければならない。

その為には我々はどの方向から来たのかを記録して置かなければならない・・・・。

勿論、此処まで直線飛行していて曲線飛行又は方向転換をしていない事が前提ではある・・・・。

だが、それを案じていては切りがないし前提とする基盤が無くなってしまう。

では、来た方向を記録するにはどうするか・・・・。

方法は来た方向の恒星配列を記録し判断する。

向かっている方向の恒星配列を記録し判断する。

周囲の恒星配列を記録し判断する・・・・しか無い。

だが、現在の速度つまり高速の三倍で航行していては観測はできない。

速度を光速以下に落とすしか無い。

だが、そうすれば止まった地点から・・宇宙なのに地点と言うのも可笑しな物だが・・・・・、まぁー今は勘弁してほしい。

止まった地点から目的地を決めて向かう時に速度を上げなければならない。

その為には燃料も時間も必要となる。

今もどんどん故郷の太陽系から遠去っている・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

他に方法が無い訳では無い・・光以外・光より早い粒子での観測装置を作り記録する・・手もある。

だが、この装置を作るのにどれ程の時間、日数が掛かるかは解らない。

その間にも、どんどん故郷から遠去り判別が難しくなる。

そこで私は今直ぐに速度を光速の少し遅いところまで落とし周囲の恒星記録を残したい。

賛同して貰えるだろうか?」

雄一は確認する様に回りの皆の顔を見渡した。

雄一の見るところ皆の顔には不安感は微塵も無く考えに耽った表情に見えた。

間を置かず皆がケンを見つめ頷き、ケンは皆を見回し頷き返し話した。

「兄さん、兄さんが皆を気遣い説明してくれたのは嬉しい。

ですが私は危機を感じてもいませんでしたし、説明を受けた案に変わる代案もありません。

だから兄さんの考え通りに進めて下さい。

皆も、それで良いね」

ケンが皆を見つめ、雄一も皆を見渡した。

皆は頷きジェニーが言った。

「お兄さん、直ぐに始めましょう」

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