第6話 宇宙船 案内その二
新参者の雄一、早紀の親子には興味に大きな違いが有った。
雄一は動力系、武器系、防衛系で早紀は住環境、食料に興味が集中していた。
早紀は決して頭が悪い訳では無い、数学、理科の科目は学年でトップを続け他の科目も並以上である。
数学と理科の中でも物理に関してはアメリカならば飛び級で大学院に入れる程の知識と理解力の持ち主である。
しかし本人の趣味では無い、父と暮らす内に自然に吸収した知識に過ぎない。
本人は環境問題に興味があり植物が好きな事も有り環境リサイクルの仕事に就きたいと考えていた。
父・雄一の特質は数学、物理の知識が豊富なだけでは無かった。
物事の全てに好奇心が旺盛で疑問に思った事を調べずには居られず調べ尽くす性格にあった。
その対象に分野は無い大は宇宙、小は分子、原子、素粒子に及び医学では精神、脳外科、細胞、体内微生物にまで及んだ。
そんな彼の最大の才能は発想が突飛な事だった。
その膨大で分野に限定されない知識とこの突飛な才能故に一連の理論を発想した。
発想を公式化し実証しようとした頃に日本の宇宙飛行士候補に名が乗り後を弟に託した。
何故なら、この突飛な理論は宇宙飛行士としての資質に疑問を投げ掛ける要素に成り得るからである。
つまり頭を疑われると言うことだ。
又宇宙飛行士に選ばれれば日々忙しく熟考する時間は取れそうも無かったからだった。
其の為理論の発表を弟に託した。
其の時点でまさか弟が公式化し実証までこなすとは思ってもいなかった。
弟から公式化できたとの連絡に驚き、実証の知らせに更に驚いた。
「まず動力室を見てみたい」と司令室を出た途端に雄一が案内役のルイに言った。
「・・・・さすがに・・・」
「駄目かね」
「いいえ、雄一さん・・・雄一さんとお呼びして宜しいですか」
「構いません、伯父さんでも・・とっつぁんでも・・・・じ様でも構いませんよ」
「まぁ、じ様なんてとんでもありません、とても若いです、惚れ惚れします」
等と話ながらドアを開け現れた階段を降り始めた。
「ルイさん、階段だけかね、エレベーターは無いのかね」
「有りません、無重力の場合を考えると階段を無くする事はできませんので、あえて階段にしています」
「・・・・通常はエレベーター、非常時は壁の梯子段を使う様にすれば良いのではないですか。
無論梯子段の穴は危険なので通常はハッチで閉じておけば良いでしょう。
そのハッチを開けると上下どちらでも行ける様にするとより良いと思うが、どうかな、ルイさん」
「成程、良いですね、エレベーターはどの方式が良いでしょうか、ワイヤー、ギアー・・・」
と言ってルイは考え込み立ち止まってしまった。
考えに落ちていたルイがふと気付くと壁に持たれ掛かった雄一がにっこりと笑って見つめていた。
「あら、私・・・またやっちゃいましたか・・・何分程・・・・」
「15分」
「まぁ、失礼しました、雄一さんは、あの~ずっとそうして、あの~、その~」
「気にしなくて良いですよ、私も同じです、弟も同じだから知っているでしょう」
「はい、ケンもそうです・・・が・・お兄さんもですか」
「兄貴は私ですから、弟の癖は私に似たものか・・・遺伝でしょう」
「でも、とにかく失礼しました、行きましょう、案内を続けます」
「お願いします」
二人は数層分の階段を下り機関室の層に着いた。
「この層のほとんどは食料の冷凍庫、冷蔵庫になっています。
外周部にエンジンがありエンジン本体の直径は2メートルで、二重の真空層を含めて2.5メートルあり円周に沿って4基設置されています。
そしてエンジンの中間に計4機の救命艇があります」
「1Gで航行している割りには静かだね」
「はい二重の真空層はその為に設計しました」
「エンジン4基に救命艇4機か・・・エンジン出力は」
「此れまでの最大は一基約2億5千万馬力で最高速度は時速40万kmです」
「第三宇宙速度の10倍の速度で昔のサターン5型の約2倍の出力か・・・4基で10倍・・・まぁまぁだが・・まだまだ出せるなぁ・・・・試運転と言ったところかな」
「はい、今回の貴方の救出も余裕が有り限界を試す必要もありませんでしたので」
「ところでエンジン近くに冷蔵庫と冷凍庫とは良く考えたね」
「言うまでも無い事ですがエンジンの冷却用に考えました」
「うん、素晴らしい、本当に良く考えたね」
「ありがとうございます」
[参考]---<宇宙速度>-----------------------------------------------------
宇宙速度とは、宇宙で慣性飛行を行うために必要な最小初速度の大きさの事である。
第一、第二、第三に分けられる。
第一宇宙速度は地球の衛星になる為に必要な速さで約 7.9 km/s(時速28400km)である。
第二宇宙速度は地球の重力を振り切るために必要な最小初速度の大きさで約 11.186 km/s(時速40269.6km)と第一宇宙速度の倍で、太陽を回る人工惑星には第二宇宙速度が必要とされる。
第三宇宙速度は太陽の重力を振り切るために必要な最小初速度で約 16.7 km/s(時速60120km)である。
過去最大級の推力を記録したものはアメリカのアポロ計画の打ち上げで使用されたサターン5型ロケットで全長110m、底部直径10mにも及び、燃料にはケロシンと液体水素が使われ総出力を馬力に換算すると、約1億6千万馬力であった。
(参考-ウィキペディア)
----------------------------<>-------------------------------------------------
「それで搭載艇のエンジンは三基かな」
「はい、その通りです、一基では非常時を考えれば問題外で二基では姿勢制御に難があり4基ではスペースを取り過ぎるし推力が余分でした」
「まぁ~そんな処だろう、船外活動用の移動装置はあるのかね」
「別の装置としては有りません。
実験段階ですが宇宙服に小型エンジンを搭載しようと考えていますが出力が有り過ぎて制御できません」
「ほう~考えたな、君の案かな」
「はい」
「う~む、後で見せて下さい」
「勿論です」
二人はエンジンの外装部に達し雄一はそれを仔細に眺めた。
「それで、まだ下に階層はあるのかね」
「最下層は資材倉庫と着陸脚の収納庫になっています、行って見ますか」
「いや、今日は止めよう、今度は搭載艇を次に上部を案内して下さい」
「解かりました、こちらへ」
その頃、早紀とヘンリーは中央層から上部層へ登り一つの部屋にいた。
そこは農園で野菜と果物が育てられていた。
「早紀・・・早紀と呼んでも良いですか」
「はい、勿論です」
「ありがとう、僕もヘンリーと呼んで下さい」
「はい、ヘンリー此処は食料確保と空気清浄も兼ねているのですね」
「その通りです、ルイの案です、食べてみますか」
「この苺食べて良いですか」
「勿論です、どうぞ、この船にある物は皆の物です、尋ねる必要は有りません」
早紀は苺を一つ食べ余りの瑞々しさに驚いた。
「とても美味しいです、感動しました」
「これは日本の種から作りました、日本の食べ物は本当に美味しいですね」
「日本人は味に煩いと言うのは本当の事なのですね」
「はい、僕もそう思いますよ、果物も野菜も日本の物は何でも味が違います」
「ヘンリー大丈夫ですか、アメリカに戻っても」
「う~ん、確かに困りましたね・・・・」
「ヘンリーの会社で農園を作ってはいかがですか」
「うん、その手が有りますね、グループに無農薬野菜の栽培部門があるのですが父に相談します。
さて次へ行きましょう」
「次は何ですか」
「行ってからのお楽しみですよ」
二人は上部階層の中央部に向かいドアを潜った。
「まぁ凄いヘンリー此処が宇宙船の中とは思えません」
「凄いでしょう、ハワイから移植しました」
二人の前には鬱蒼とした森が広がっていた。
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