第2話 救助隊 発進
<救助隊 発進>-----#002
早紀は外に出ると爆風で飛ばされた自転車を見つけ全速力で走り出した。
何処かに行く宛てがある訳ではない・・・ただ無性にその場を逃げ出したいだけだった。
その時携帯電話が鳴った。
佐紀は無意識に電話に応答した。
「早紀ちゃん、基地の外にいなさい、今、そちらに向かっています」ヘンリーの声だった。
「えぇ〜どう言う事、ヘンリー・・・お父さんが・・お父さんが・・」
「早紀ちゃん、解っています、とにかく待っていて下さい」
早紀は言われたままに、基地のゲートに自転車を預け外に出るとそこで待った。
ヘンリーを乗せた車が早紀の前で急ブレーキを掛け、ドリフト・ターンをし早紀の前で止まった。
早紀が乗り込むとヘンリーは急発進し速度をどんどん上げた。
信号で止まり、急発進し 信号で止まりを繰り返し信号がない道に入ると時速300キロを越えた。
二人は無言だった、牧場に着くとヘンリーは居間に入り書斎に向かった。
ヘンリーが何をどうしたのか壁の一部が開きヘンリーは早紀を連れて入った。
小部屋はエレベーターだった、早紀には、何がなんだか解らなかった。
こんな所は今まで知らなかった。
エレベーターが止まり扉が開いた所は管制室の様な部屋だった。
そこに研一郎とジェニーがいた、二人は、何か作業を続けていたが
「丁度だ、直ぐに出発する」と研一郎が言うと
「早紀ちゃん、お父さんを助けに行くわよ」と妻のジェニーが言った、
早紀には、全く訳が解らない、父は宇宙の彼方に行ってしまった。
衛星軌道を越えたのだ、もう、地球には戻れないのだ。
研一郎とジェニーは横の開いたドアへと歩き出した、ヘンリーが早紀の手を引き続いた。
そこは渡り廊下の様で1.5m幅の道が続いていた。
思わず下を見た早紀は驚いた、高さが20mを優に越えていたからだ。
早紀は怖さよりもどの様に支えているのか?に興味が沸き一瞬、父の危機を忘れてしまった。
4人が歩いた先にもドアが有り研一郎が壁の一部に手を当てると開いた。
その先もドアがあり、4人が一つ目のドアを潜ると開いた、気圧調整室のようだと早紀は思った。
二つ目のドアを過ぎると後でドアが閉まり幅2m余りの通路が真っ直ぐに伸びていた。
両側には湾曲した通路が有り四人は真っ直ぐに進んだ。
両側に湾曲した通路が又一箇所ありドアの前に着き、そこも両側が通路だった。
ここでも研一郎が壁の一部に手を当てるとドアが開き4人が入ると閉じた。
中は半円のドームの様な作りで正面にスクリーンがあり、その前にはコンソールが幾つも並んでいた。
研一郎が声を掛けた。
「ルイ、何分後に出られるね」
「丁度、着いた頃には適度な大きさになっているでしょう、今直ぐでも良いですよ」
とルイと呼ばれた女性が言った。
何度も牧場に来ていたが早紀には初めて見る顔だった。
何が適度な大きさになるのかも早紀には理解出来なかった。
「早紀ちゃんね、私、ルイよ、今から出発するから挨拶は後でね、皆、席に着いてベルトを締めて下さい」
三人分の椅子が床から現れ三人は座った。
研一郎はルイの隣のコンソールの前に座った。
早紀が前の画面に目を移すと、今は暗いながらも時々何かが写っていった。
「ステルスモード転移済み、まもなく中央部に到着、探知フィールド展開、これより上昇開始、高度500mでM5に移行し、衛星軌道で停止します」
ルイ以外の女性が言った。
研一郎が続けた。
「リサ、現在までに探知は有るかね」
「ありません」
リサと呼ばれた女性が言った
「探知があった場合の処置は解っているね、くれぐれも逆探知が悟られない様にね」
その時、早紀は体から重さが無くなった事に気付いた。
「了解しました、衛星軌道に乗りました。
今、探知ビーム確認、三箇所です。
一箇所は米軍基地でこちらに気づいていません。
もう一箇所はロシアです、こちらも同様です。
もう一箇所に探知されました、これは衛星です、ロシアの基地とリンクしています。
探知結果を消去しこちらを人工衛星の破片としました。
今、ロシア基地の情報収集中です」
リサが言った。
早紀が聞いていても現実の科学とは思えなかった。
それはまるでディズニー・ランドの模擬体験のようだった。
「ケン叔父さん、今、本当に宇宙にいるの」
早紀が聞いた。
「ヘンリー、これからの早紀ちゃんの接待は君に任せる、まず説明を頼む」
「はい、にいさん、早紀ちゃん、本当に宇宙に居ます。
と言ってもまだ衛星軌道ですから地球の表面ですけどね。
無重力で軽く感じるでしょう」
「はい、これは宇宙船ですか、これで父を助けに行くのですね」
「はい、そのつもりのようです」
「やっぱり、アメリカの科学力は凄いですね、日本はまだ三段ロケットなのに・・・」
「早紀ちゃん、誤解があるようですね、この機体の事はアメリカ政府も知りません」
「えぇ、誰が・・・古代の遺物・・・」
「テレビの影響ですか・・・ケンですよ、世界でこんなの作れるのはケンしかいませんよ」
早紀とヘンリーが話してしる間も研一郎、ルイ、リサ、ジェニーは何やら検討していた。
「ヘンリー、ところでリサはどこに居るのですか、姿が見えないですが」
「ここにいますよ」
「えぇ、どこに、と早紀は回りを見渡した」
「リサはこの船のコンピューターです」
「えぇ、コンピューターなんですか」
「早紀さん、始めまして、リサです、よろしく」
二人の会話を聞いていた様に挨拶して来た。
「リサ、盗み聞きをするな」
ヘンリーが怒った様に言った。
「大きな内緒話でしたね」
リサがやり返した。
「リサ、こちらに集中、集中」
ルイが声を掛けた。
「とても、人間ぽくてコンピューターとは思えません」
「嬉しいわ、早紀さん」
リサが言葉を次いだ。
「リサ」
ルイが再度注意した。
「ルイ、そう言うな、二箇所の話などリサにすれば、ほんのお遊びにしかなるまい」
「リサさん、私に、さんは付けないで早紀と呼んで、私もリサと呼んで良いですか」
「ありがとう御座います。そう呼んで下さい」
「それで、お父さんは助けられますか」
「日本の科学技術は予想を超えていました。
あの爆発も起因しています、予想よりかなり高速で、月軌道を越えました」
「発射台を攻撃した物体で解った事はあるかな」
研一郎がリサに聞いた。
「発射台の南西900メール地点の地下から出現しました。
長さ1.5メートル、幅50センチ、高さ80センチ、直径50センチの円錐形に走行部30センチでした。
局地変更タイプで舗装路ではキャタピラーから車輪に変形しました。
爆発力は物体の大きさと比較して従来のどの急速燃焼現象にも符合しません。
ケンの理論の応用物と予想されます。 (16/10/28 PCなので予想的表現は避けた)
発進地点は発射台から1キロの倉庫です。
異常振動発生の開始位置として匿名で警察に連絡を入れました。
誘導波はこの倉庫を経由しロシアに繋がっていました。
探知波の発信場所と同一地点です。
現在、同地点のコンピューターより情報収集を行っています。
至急に対処するべき設備は衛星5機と判断します。
3機の核ミサイル搭載型偵察衛星と2機のレーザー兵器搭載型偵察衛星です。
核弾頭は広島型の20倍の威力で3発づつ搭載、レーザーの射程は不明です」
リサがとても怖い話を淡々と言った。
「核衛星を核の爆発なく破壊又は消滅可能か、レーザー衛星については発射回路の閉鎖は可能か」
研一郎が続けて聞いた。
「どちらも可能です」
「いや待て、まずレーザー発射回路の閉鎖を頼む、但し、可能なら相手には正常と思わせておきたい」
「その様に処置しました」
「OK、では、核衛星は、フィルードを展開し順次、内部に取り込み核弾頭を外し月軌道を過ぎて、地球から月が死角遮蔽になる位置で核弾頭を蒸発、機体は情報収集、相手には正常稼働中と思わせて下さい。よろしく」
「了解しました、一機目フィルードに取り込みました」
リサが既に作業を開始している旨を告げた。
その間、早紀の体に重さが戻ったり無くなったりし船の動きが幾らか想像できた。
「叔父さん、説明して」
「ああ、その前に、その叔父さんは簡便してくれないか。
確かに君にとっては叔父さんだが、急に老けた気になる、だからケンと呼んでくれ、頼むよ」
「分かりました、ケン叔父さん・・じゃなくて・・・ケン」
「説明は少し待って欲しい、兄さんの追跡に入るまでね、それまでヘンリーに聞いて欲しい」
「解りました」
「三機目の衛星の弾頭も外しました。
月へ航行開始します、皆さんには申し訳無いのですが重力を1.5Gにします、ケン、宜しいですか」
「良し、ルイ、水も酸素も循環式だから良いとして食料はどうかね」
「はい、早紀ちゃんが一人増えましたが、余裕で二ヶ月は大丈夫です、植物性だけならもっともちます」
「宜しい」
「リサ、兄さんの位置は掴めているね」
「勿論です、かなり予定より加速されています、月軌道に入る直前に第3段が点火しましたので」
「それは凄いな、加速度に兄さんの身体は持っているかね」
「最大6でしたので、十分範囲内です」
ケン、ルイ、リサが話し合っている間にも、早紀はヘンリーに質問していた
「ヘンリー、これ勿論宇宙船でしょうけど、こんな技術力は聞いた事がないわ。
アメリカの新技術か新兵器なの」
「違いますよ、先程も言いましたがアメリカ政府とは無関係です、政府は存在も知りません」
「じゃ、本当に伯父さん、いえ、ケンが考えたんですか」
「勿論、ケンとジェニーの物ですよ」
「えぇ~、あの二人の物なの~」
「はい、それに建造したのは佐紀が何時もきている牧場ですよ」
「えぇ~、あそこ・・・地下ですね、でも大変な金額が掛かるでしょう」
「早紀は、ウインステッドと言う名前を知っていますか」
「ええ、勿論、ここ2、3年で新技術を開発し急成長した会社というか一族ですよね」
「ええ、そうです、私と姉のジェニーはその一族です、そして、その新技術を開発したのがケンです」
「え~えぇ、本当に」
「本当です、一族はケンの力で大きくなりました、そして、その技術の応用がこの宇宙船です」
「ジェニー、本当」と未だに信じられないのか確認した
「ええ、本当よ、早紀ちゃん、全てケンの発明です、でも、発想は貴方のお父さんだそうよ」
「父がですか、あの理論の実用化がこれですか」
「あら、早紀ちゃん理論を知っているの」
「はい、父といろいろ話ました、父は人と話すと良い知恵が沸くと言っていますから」
と三人づつが二組に別れ話が進んで行った、勿論、船も進んで行った。
月は地球から38万4,400kmの距離にあり直径は 3,474kmであり、地球の直径は1万2,756kmである。
太陽系の他の惑星の衛星に比べて衛星としては異様に大きいと言える。
リサが言った。
「月後方10000キロに着きました」
即座に研一郎が反応し
「フィールド内でシールド最大、核ミサイルをレーザー消去、この方法で我々に核被害はないね、リサ」
「全く問題ありません、実施します、スクリーンに出します」
皆がスクリーンに目を向けた、三機の衛星に積まれていた格弾頭が横に並んでいた。
火花が散りどんどん解けて行った。
真空の宇宙空間でも構造分子に含まれる酸素がレーザーに反応し火花が散った。
全ての格弾頭が消滅した。
「良し、じゃ兄さんの救出に向かおう、ドッキング予定は」
「30分後です、1Gで出発しました。」
体に重みが戻りスクリーンには遠ざかる月が映っていた、それは急速に小さくなって行った。
「さてと、30分の空きができた、早紀ちゃん紹介しておこう、こちらがルイだ、そして、リサだ」
研一郎が後方のスクリーン全体を手を広げて紹介した。
「花咲瑠衣です、よろしく、お父さんにお会いするのが楽しみです」
ルイの言葉と仕草には救出に対する不安を全く感じさせなかった。
「リサです、コンピューターのリサです」と部屋全体から声がした。
「宇宙船の中のどこに居ても、リサと言って戴ければ直ぐにお答えします、24時間勤務です」
リサは人間の様な冗談を言った。
「峰岸早紀です、こちらこそ、よろしくお願いします、父の救出に力をお貸し下さい」
「早紀ちゃん、この船の基本設計は兄さんさ、シールド、フィールド、レーザーもね」と研一郎が言い、
「そうそう、一番困っていた素材も兄さんの案なんだよ」と付け足した。
「私はケンを尊敬していますが、貴方のお父さんを崇拝しています」とルイが言った。
「ルイ、船内を案内すると良いよ、今は時間がないから軽くね」
研一郎の言葉にルイは立ち上がり早紀の腕に手を絡ませ船が1Gで飛行しているので普通に歩いて部屋を出て行った。
「ケン、ルイのあの勢いだと、お兄さんはルイに捕まりますね」
「捕まるだろうね」
「兄さん、ルイは伯父さんの奥さんになるつもりだと思いますね」
「何、随分と年が離れているがね」
「貴方、私たちと余りかわりませんよ」
「あぁ、そうか、成る程ね」
「そして、ヘンリーは早紀ちゃんが気に入ったみたいだしね」と姉が弟のヘンリーを鹹かった。
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