早紀の宇宙大冒険
イミドス誠一
第1話 日本 初の有人宇宙船の発射
<前書き>
この小説は実のところ科学論文である。
だが、今も昔も論文と名の着く物は理論の記述と式の連続で面白みがまるで無い、そこで私は物語形式で自らの物理学理論を小説風に記する事にした。
今後、科学者が同様に一般の人も読む気になる様に習ってくれれば幸いである。
--[日本 初の有人宇宙船の発射]
耳にテレビ放送のアナウンサーの声が聞こえた。
「本日は日本にとって、輝かしい日となります。
今まさに日本初の有人宇宙ロケットが飛び立とうとしております。
後10分を切りました。」
その頃、発射管制センターでは、全員、最終確認に余念がなかった。
管制長の呼びかけに各部担当の返事が聞こえる。
「機体確認、エンジン担当」
「異常なし」
「エンジン上部機体担当」
「異常なし」
「上部有人機体担当」
「異常なし」
「次、発射台確認、タワー担当」
「異常なし」
「発射台下部担当」
「異常なし」
「次、保安確認」
「周辺一キロに生物反応なし及び同距離に移動物体なし」
「最後に、パイロット担当」
「呼吸、脈拍、通常より少し高めですが以上無し」
パイロットに話しかけた。
「雄一、異常ないか、気分は最高か」
「あー、全く、どこも異常無し、気分は最高、最高、絶好調だ」
パイロットの言葉に管制センター全員の薄笑いが響いた。
それを引き閉めるように、管制長が全員に向かって言った。
「よろしい、このまま、秒読みを続ける」
少し間を置き
「諸君たちの努力と苦労が今、報われようといている。
ご苦労様と言いたいが、それは、パイロットが無事帰還するまで待とう。
それまでは苦労と努力が無駄にならぬ様、今一層の注意と気の引き締めをお願いしたい。」
担当者全員から「はい」「イエス」「ラジャー」など力強い返事が返って来た。
1分ごとにカウント・ダウンの声だけが響いている、秒読みは1時間前から始まり30分前までは5分間隔で30分前からは2分間隔、15分前から1分間隔で10分前から30秒間隔になり最後の30秒は1秒間隔になる。
今まさに10分前が聞こえると皆が思った時、保安担当者が告げた。
「南西900メールに移動物体出現、発射台へ向かっています。」
皆の動揺を裂くように管制長の声が響いた。
「物体の大きさと到達予定時間は」
「長さ150センチ、幅50センチ、高さ80センチで、到達予定は8分後ですが、傾斜路に入ればもっと早くなります」
保安担当者の回答に管制長が
「長さ150センチ、幅50センチか」
と独り言を言った後、続けた。
「秒読み管制官、発射を一分後に変更しろ、準備出来次第秒読み開始、パイロット担当、雄一に伝えろ」
管制センターは、突然、嵐のように言葉が飛び交う戦場と変化した。
管制センターの正面の壁は一面大きなモニタースクリーンで今まで一画面で発射台下部から上部までを移していたが、4つに分割され、左上が今までと同じ全体表示で、右上が、パイロットが乗った上部で右下が発射台とロケット下部を、左下が移動物体を表示するように変化した。
暫くすると、左下の画面が更に4つに分割され、右から左から後方上部からと右からのX線表示変わった。
「850メートル、もうすぐ、傾斜路に入ります」保安担当者の声と同時に秒読み管制官の声が飛んだ。
「1分前」
「今、傾斜路に入りました、凄い速さに変わりました、予定時刻、4分・・更に、早くなりました、3分です」
と保安担当者が状況を伝えた。
「くそ、変形タイプか」 と管制長が又独り言を言い
「保安担当者、その物体の映像を超高密であらゆる角度から取れ」
「既に、初めています、X線を含めた全周波でも撮っています」
と保安担当者が答えた。
「ほぉー、おぬし、できるのおー」
管制長の大声がセンター内に響き室内が一瞬和んだ。
その管制センターを見下ろすように後ろにガラス張りの部屋があった。
そこは、将来、外国の要人が見学に来た時の観覧席で、高価な椅子が100席あった。
今日は、当初、総理大臣も来賓の予定であった。
だが政局不安定の為、昨日、欠席との通知があり、文部科学省の大臣だけが前列の真ん中に座って居た。
その横に宇宙センター長がおり、その周りを技師長、設計主任など各班の幹部が囲んでいた。
その周りをいろいろな作業服を着込んだ作業員や白衣の研究員や設計士などが100席の残りに座り、
同数の100人ほどが立って見ていた。
この部屋に駆けつけるのに遅い人は、たった1時間前まで作業し、観覧席を汚してはならずと、急いでシュワーを浴び、駆けつけていた。
私服でも良いのだが、皆、その作業ごとの服を誇らしげに着ていた。
もちろん、洗濯したての綺麗な服だ。
センター長の横にこの中にあって不釣合いな可憐な少女が緊張した顔で座っていた。
パイロットの娘、早紀である。
「早紀ちゃん、大丈夫、心配ないよ」
と隣の技師長が声を掛けてくれた。
早紀は強張った顔に懸命にも笑みを浮かべ技師長に頷いた。
「3・・2・・1・・発射」
管制官の声が響き発射台では、ロケットが浮き上がり上昇を開始した。
だが、移動物体も接近を続け発射台に激突し大爆発を起こした。
その爆発は物体の大きさに比較して予想を遥かに凌ぐ莫大なものだった。
管制塔の窓ガラスが割れ、塔が地盤から揺り動かされた。
外の観覧席にいた物達は皆、後方へ投げ出された。
発射台の有った所では原爆が爆発したかのようなきのこ雲が登って行った。
管制室では、小さな揺れの中、監視が続けられていた
「なんだぁあの爆発の凄さは・・・ロケットに異常はないか」と管制長の声が飛んだ
「機体各部センサーに異常なし」
と担当管制官が答えたが、他の管制官が
「爆発により上昇速度が加速されました」
「切り離しに支障はないか」
「何とも言えません、自動制御です、残念ですが見守るしかありません」
「手動では無理だな」
「はい、到底無理です」
「解った、私は神など信じないが、今は祈ろう」
皆が正面の大スクリーンに映し出されるロケットを見つめていた。
ロケットは第一段を切り離し、二段に点火した、管制室に歓声はない、只見守るだけだった。
スクリーンが望遠とレーダーに分割された。
ロケットは上昇を続け衛星軌道に達したが速度が落ちず加速を続けた。
管制室に悲鳴が響き渡った。
管制長が呆然とした後、後を振り向き観覧席に向き小さく首を横に振った。
早紀に気が付き目を合わせたまま固まってしまった。
観覧席にいる者たちも専門家達である。
管制室と同じ様に衛星軌道を越え加速を続ける様子を見て悲鳴と呻きが漏れた。
早紀にも十分過ぎる程理解できた、その時、管制長と目が合い見詰め合った。
直後、早紀が突然立ち上がり観覧室を走り出て行った。
後追い自殺を懸念し誰かが追うべきだったが、その時には誰も気が付かなかった。
衛星軌道を過ぎたと言う事は地球へはもう戻れない事を意味していた。
今回は衛星軌道を過ぎてもまだ加速していて太陽系外縁部へ向かっているのである。
地球への帰還が不可能な事を意味していたのだ。
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