ジェットコースター其ノ壱

「ねぇ、やっぱり乗らなくてもいいかな?」


ここにきて、陽一が駄々をこね始めた。


「あたりまえじゃん!ここまで来て乗らないのはもう馬鹿だよ。」


「うーん、馬鹿でもいいかなぁと……」


「何言ってんの!冗談はいいから。早く行くよ。」


 真司は、見事に陽一の言葉をスルーして、先を急がせた。


「分かったよ。」


陽一も、渋々歩き始めた。


 二人はチケットを買い、ゲートを通り、遊園地の中へと入った。入口に、着ぐるみを来ている人がいたが、二人は無視して行った。あれに反応するのは、子ども連れの客だけだろう。


「それじゃあ、手始めにあれに乗ろうか。」


 真司は驚いた。陽一の方から言ってきたからだ。


「え?今の陽一だよね?何かに憑依されてる?」


「いやー、ここに来てヤル気が出てきてね。」


 真司が、不思議な事もあるもんだ、と思って歩き始めると、後ろで誰かが走っていく音がした。


 まさかと思って振り返ると、案の定、陽一が全速力で逃げていた。さっきの発言は、油断させるためのものだったらしい。


 真司は、すぐに追いかけ、逃げる陽一の腕を掴んだ。


「さっきヤル気が出てきたって言ったよね。」


 真司は尋問するかのような口調で言った。


「言いました……すいません」


「次逃げようとしたら殺すよ。」


そう言って、一本のシャーペンを出した。


「冗談は、よしてよ。絶対に逃げないから。それだけはやめて。」


 陽一は、本気のトーンで言った。

 なぜ、陽一がここまで怖がるかというと、このシャーペンが、暗殺の道具だからだ。


 どんなものかというと、特別な使い方をすると、人の肌に当たれば、苦しむ声を出す間もなく死んでしまう、強力な毒が塗られた、小さな針が出てくる。


 真司は、「本当に殺そうかな。」とも思った。しかし、やめた。陽一を殺すにしても、殺さないにしても、もう少し、陽一との日々を楽しみたかったから。


 そうして、それぞれの葛藤をしながら、ようやく、目的のジェットコースターへと辿り着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る