変革前夜
グリーンスワン(気候変動による金融危機)
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"世界的な事件は偶然に起こることは決してない。
そうなるように前もって仕組まれてそうなると、私はあなたに賭けてもいい。"
フランクリン・D・ルーズベルト(元アメリカ合衆国大統領)
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今でも奇妙な思い出としてその残滓が脳裏に残る、2023年の春のことだった。
それまで精を出して取り組んでいた業務案件から、突然担当を外された僕は、鬱憤を晴らすような気持ちで長期休暇を宣言し、鹿児島に観光旅行に訪れていた。
ある朝、ホテルの部屋のカーテンを開くと、"その日の観光の予定を全てキャンセルする必要があるかもしれない"と思うほどの大雨が、窓に打ち付けていた。
昼過ぎには止むのではないか、という僅かな望みを持ちながら、テレビをつけて、おとなしくソファに深く腰を掛けた。
「緊急速報です。九州全域で過去最大級の大雨洪水。一部地域では平成6年に起きた大洪水を大幅に上回る被害が想定されています。」
「こちら、地元住民の方が撮影した映像です。あぁ…。畑がめちゃくちゃだ。こちらの農家さん、なかなか売上にならないといって敬遠されてきた作物を栽培する珍しい農家さんで、流通にも大きく影響…」
「私の知り合いの専門家によればね、日本の九州地方で起きた今回の大天災。これによって起きる経済損失は計り知れないということらしいんですよ。今後数年に渡って経済に暗い影を落とすと…」
「海外の研究機関が言うように、今回の異常気象は、気候変動が原因なのは間違いないですね。大気汚染や排気ガスの問題、日本も欧米諸国を見習って、これらの問題と向き合わなければならない時期だと思うんですね。」
どのチャンネルに切り替えても、このような報道が強い言葉で繰り返されていたのを今でも覚えている。
たしかに雨は振っていた。大雨だった。しかし、僕の目からすれば、それは数ヶ月に一回は拝めるような"日常的な大雨"だったのだ。
またか。マスコミはどうしてこんなに煽るのだろうか、そう感じた。
◆
天候不良により、やや不満の残る結果となってしまった鹿児島の観光旅行を終え、不満の残る新たな案件に取り組むべく、東京のコワーキングスペースへと向かっている途中でも、このような異常気象報道の熱が止むことはなかった。
出勤中の電車の中でSNSをみていると、内閣府の公式YouTubeライブ配信で、環境大臣による記者会見が話題になっていた。
「九州の皆様におかれましては、今大変な状況だと認識しております。我々も復興のために全力を尽くすことをお約束いたします。全国の皆様も募金活動や支援物資の提供など、力を貸していただいております。しかし、それを踏まえましても、昨今の異常気象。自然の力は頼りになると同時に、非常に恐ろしい。ここに来ておられる記者の皆様も、繰り返しそのことを報じておられると思います。専門家会議においても、"グリーンスワン"への対処は、もはや避けては通れない道であると。そういった要因等を鑑みて、先程、"環境税"の導入を首相に提言いたしました。」
このとき、既に環境大臣の背にまとわりつく「環境保護」という存在に違和感を抱くインターネットユーザーは決して少なくはなかったはずだ。
しかし、そのときの僕の感想は、"環境税導入の是非という、数字のとれる大きな波に一歩乗り遅れてしまった"という程度のものであったと思う。
脳のどこかでは、ニューロンが僅かにささやくかの如く、2020年に起きたコロナパンデミックを取り巻く報道状況とどこか似たものを感じ取っていたかもしれない。
ただ、さえない僕の自由意志程度では、その警告を汲み取ることは出来なかったのだ。
"彼"について語らなければならないことは山程ある。
その中で、まずこの話からはじめることにしたのは理由がある。
今思い返せばだが、この会見は、ある種の日本国内における象徴的なイベントとして演出されたのだと、僕は確信めいたものを感じている。
事実、このさき、日本だけではなく世界各国が、"グリーンスワン"の名のもとに、急速に変革を強制されていくことになったのだ。
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"気候変動は今世紀初めの時点で最も複雑な挑戦すべき課題のひとつである。
どの国もそれを免れることはできない。"
(世界銀行が2010年に発表したレポートより抜粋)
世界経済フォーラム "2020年グローバルリスク報告書" では、パンデミックよりも更に世界に致命的な影響を与えるリスクとして "気候変動" を挙げている。
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