第3話 告白とすれ違い②

5月24日、午前7時30分。



カーテンの隙間から太陽の光が差し込む部屋で、上川は再びベットの上で目覚めた。



「痛ッッ…アイツ、今度は殴りやがったな…」



今回も同様にリビングのテレビを見て、自分が過去に遡っていることを確認する。そして、上川は母親にも前回と同じことを聞いてみる。



「今日って何日かってわかる?」

「えっ、今日は24日でしょ? 何で?」

「いや、え〜と…」

「何? デジャブ?」

「そうかも知れない…」



返答に戸惑ったせいか、今度は母親に気味がられる結果となったが。大丈夫。間違いない、自分は過去へ遡ってきたのだ。そう上川は感じた。



前回のように春崎に頼ることはせず、残りは自分の行動のみで黒部と海塚の恋を実らせなければならない。そう何度も同じ時間をループし続けるのも疲れるし、根気と体力を使うので、次の2日後をラストチャンスにすることにした。




5月26日、午後4時20分。



黒部が告白する日がやって来た。実はこの日、秋原が告白しに来る訳ではなく秋原が黒部を妨害しにいっただけのようだった。故に黒部から告白する日という噂は嘘ではなかったことになる。



上川にできることは、一つだけだった。この後すぐにやってくる秋原を何とか、黒部が海塚に告白しきるまで足止めしなければならない。

校舎裏に入ってこれる唯一の場所は下駄箱が置いてある、校舎の入り口のみ。

その入り口の前に隠れて、待ち伏せすることにした。



約2分後。予想通り、秋原はやって来た。



「あの〜…秋原さん。であってますか?」

「そうだけど、何? 私、今急いでるんだけど」

「すみません、実は…オレ、秋原さんのことが好きなんです!!」

「はあ!? なに、いきなり!」



もちろん、自前でついた大嘘だ。結果はわかっている。自分はフラれる。

今、黒部に執着している人間が他の誰かを好きになれるはずがない。

だからこそ、恐れずこの手段を上川は選んだ。

この衝撃的な出来事に遭遇すれば誰しも足を止める。そのはずだった。



「私、あんたのことよく知らないし…今、失恋中だから誰かと付き合うとか、無理。てか、キモい」

「そ、そんな。ちょっと待って!!」



午後4時25分。あと5分、時間を稼がなきゃならない______________

どうする。どうすれば良い。腕時計を見ながら、次に迷っていた時、上川の言葉から本音が漏れだした。



「何で平気で、人の告白の邪魔ができるんだよ…」

「は?」

「アンタは、これから黒部の告白を邪魔しにいくつもりなんだろ」

「何いってるか、訳わかんないんですけど。急いでるっていってんじゃん、そこどいて欲しいんだけど」

「いや、無理だね。今、アンタのことが大っ嫌いになったからな」

「あ〜も〜!! キモい、キモい、キモい!! 早くどけっての」



秋原が上川の身体を振り払おうとした瞬間、上川はすかさず、秋原の両肩を掴みかかった。



「オレは心底、アンタみたいな意地の悪い奴が嫌いでね。アンタはこれから、黒部の告白を邪魔しに行く。そうだろ」

「だから、違うって、何度言えば…!!」

「いーや、アンタは黒部にフラれた復讐のために邪魔しに行くはずだ」

「!?」

「オレは、黒部や海塚のために未来を変えにやって来た。だからこそ、アンタを何としてもここで食い止めなければならない」

「何で…あんた、誰にもはなしてないことばかり知ってんのよ!?」

「未来から来たっていったら、アンタは信じる気になるか?」

「……未来?」

「アンタは黒部の告白を邪魔して、黒部や海塚を復讐のため、自己満足のために誰かを傷つけたいだけだ。そんなことして、何が楽しいんだ」

「それは…」

「自分にされたことを相手にもして、それでもなお、アンタは心の底から笑えるのか。今のオレにしたように…」

「……」



秋原は上川の本音を聞いた瞬間、振り払う腕を止め、何も言わず肩の荷を下ろした。

そして、後ろから猛スピードで駆け抜けていく人影を上川は目撃した。

それが誰がとまでは、はっきりとわからなかったが上川の中では何となくの見当はついていた。



午後4時30分。

再び腕時計を見て、上川は安堵した。計画はうまくいったのだ。

秋原は改めて、上川に問い直した。



「アンタ、本当に何もんなの? 本当に未来人?」

「嘘ついてもしょうがないですよ。ほんとは本当です」

「あっそ」



こうして、黒部の告白はうまくいき、学校内にその噂は瞬く間に広まった。

それからというもの、文芸部に海塚が来ることは一切なかった。



6月7日、午後4時30分。



あれから、平凡な学校生活を送っていた上川の元にある来客者が訪れた。



「こ、こんにちは〜…」

「…こんにちは」

「あの〜…上川隆介さんであってますか…?」

「……!!?」


集中して読んでいた本を激しく閉じると、上川は驚きを隠せない顔で海塚の顔を見遣った。

26日の後、黒部と両思いになったであろう海塚がなぜ、文芸部にやって来ているのか。そのことに上川は焦りを感じていた。



「な、何でここに来ているんだ!? 問題は解決したはずじゃ…!?」

「な、何でって…実は…その、上川さんのことが好きになっちゃいまして」

「黒部とは、どうなったんだよ!? 両思いになったんじゃないのかよ?」

「それが実は、いろいろありまして、うまくいかなくて…別れちゃったんですよね」

「は?」

「上川さんが、秋原さんと言い合いになってた時、あんなに誰かのこと、私のことを応援というか…大切に思ってくれる人ってなかなかいないなって思って」

「……」



海塚の言葉を聞いて、小っ恥ずかしくなった上川だったが、どこか自分で言った本音の部分が、報われたような気がして内心、嬉しくなった。



「だから、その…私と付き合ってくれませんか?」

「……」

「ちょっと人の話、聞いてます!?」

「………」

「ちょっとッッ〜!!」



無事、海塚の問題を解決できたが、胸のどこかで初夏に体験した出来事の名残惜しさを感じる上川であった。

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