第2話 告白とすれ違い

5月24日、午前7時30分。



カーテンの隙間から太陽の光が差し込む部屋で、上川はベットの上で目を覚ました。過去にもこんなことがあったような、そんな気がした。



「突然、キスするなんて…とんでもないことするやつだな…」



自分が過去にタイムリープしていること。日付や時間が過去に遡っていることを、リビングのテレビで確認した。



「今日って、何日かってわかる?」

「えっ、今日は24日でしょ? 何で?」

「いや、別に何でもない」

「…?」



母親にも日付を聞いて不思議がられたが、一応自分の認識は正しいかを確認しておきたかったのだ。間違いない、自分は過去に戻ってきているのだと。

そして上川は覚悟を決めて、自分の通う高校へ向かうことにした。




「春崎。お前、この学校内で一番の恋愛話とかってないか?」

「恋愛話…? それは、もう出来上がっちゃてるカップル? それとも、これからの人たちのこと?」

「出来上がっちゃってるのには興味はない、これからの告白しようとしてるやつらのことだ」



どこの学校にも噂に強い人物が必ず存在するものだ。

春崎舞はるさきまい。ブラウン色に染めた髪色でのロングヘアー。身長は175cmぐらいで高校二年生。学校内のあらゆる噂に詳しく、人の恋愛から学歴に至るまで知る文芸部の一人である。



「これからこの学校で告白しようとしてるやつは何人いる?」

「3人ぐらいかな。海塚菜摘さんと野球部の黒部拓也くろべたくや君と三年の秋原久美あきはらくみさん」

「なるほど。その野球部の黒部ってやつは、いつ告白するとかって言ってなかったか?」

「一応、噂程度には26日の放課後とかって言ってるらしいけど…」

「分かった。ありがとう。春崎」

「こんなこと知って、どうするの?」

「その海塚ってやつにある男子と両思いになれるように協力してくれって、言われてね」

「ふ〜ん。両思いね〜。」

「な、何だよ」

「海塚さんと黒部くんが両思いってことなのかな〜って」

「それはまだわからない。他の男子かもしれないしな」



ひとまず、海塚に聞き忘れた好きな相手が誰か見当がついたところで、上川は文芸部を後にした。初めは海塚、本人に聞き出そうと思ったが、見知らぬ人物にそう易々と教えるはずがないと考え、春崎に協力を仰いだ。



だが、この事象を放っておくわけにもいかない。海塚の告白、片思いが失敗すれば、また自分のところに来て何かしらのアクションを起こされる。そうすれば、再び衝撃的な事態が起こり、また初めから戻るといった、解決しなければ無限ループに陥ってしまう。そんな可能性があるのだ。



「ちなみに海塚が好きな相手って知ってるか?」

「知ってるけど、もう自分の中で見当はついてるんでしょ?」

「そうだな、愚問だった。すまん」



5月26日、午後4時30分。



運命の日がやってきた。なぜ海塚の告白がうまくいかなかったのか、海塚の告白をなぜ、好きな相手は断ったのか。それを今回、この目で確かめるしかなかった。原因を調べなければ、解決へと向かえないからだ。



放課後、告白の絶好スポットとされている校舎裏に隠れて張り込むことにした上川は、野球部の黒部の動向を伺っていた。

黒部は、初々しくも待っている間、ソワソワしながら相手を待っている。

上川もその告白の瞬間を今かと待っていた。



「黒部くん、待ったかな?」

「えっと、何のようかな? 秋原さん」



予想外だった。告白される側は黒部の方で、告白する側は秋原という女子の方だった。海塚はこの場所には一切来ていない。この日に告白する噂が立っていたのは、黒部の方じゃなかったのだろうか。



「私、黒部くんのことが好きなの。付き合ってくれませんか?」

「……ごめん。オレ、他に好きな人がいて…」

「それでもいいよ。私は二番目でもいいから…」

「…!?」



黒部の身体に秋原はにじり寄る。秋原が黒部の身体に抱きつこうとした、その時だった。



「ち、違うんだ!! 海塚さん! これは…」

「ご、ごめんなさい…」

「海塚さん、オレは君のことが…!!」



ことの一部始終を見ていた上川は言葉を失った。黒部が待っていたのは、秋原の方じゃなくて、海塚の方だったのだ。これは大きな誤解とすれ違いが招いた、事故なのだと上川は気づいた。



「秋原さん…、早くどいて! 追いかけなくちゃ!!」

「……」



黒部は抱きつく秋原を振り払うと、校舎裏から海塚を追いかけに行ってしまった。



「何であんなことをしたんだ?」

「誰、あんた?」

「オレは海塚の片思いを応援していた。というより、協力するつもりだったっていうべきか」

「で、そんな奴が私に何のよう? これから用事、あるんですけど」

「あの感じだと二人はこの場で誤解もなく両思いになれるはずだった。なのに、なぜあんな誤解を招くことをしたんだ」

「誤解? 何のこと?」

「お前、黒部のこと。本心で好きだったわけじゃなかっただろ」

「何でそんなことわかんの? 偏見じゃないの、それ」

「本気で好きな奴が、何で二番目で良いなんて言えるのか。オレには理解し難いね」

「……それのどこが悪いの? 私は、一度アイツに振られてるし」

「振られた?」

「そうよ。だから、復讐の意味でもあんなこと見せつけでやってやったってだけ。」



そう言い残すと秋原は、本当に用事があると言って校舎裏を後にした。

一人だけ校舎裏に残された上川は、胸の中に他人への悲しい気持ちや淀んだモヤモヤを抱えたまま、今日は家路へと帰ることにした。



5月28日、午後4時30分。



再びこの日へとやってきてしまった。この日までにできたことは、なぜ海塚の告白、好きな黒部への思いを伝えられなかったのか。なぜ、その告白がうまくいかなかったのか。それが分かっただけの4日間だった。



「こ、こんにちは〜…」

「…こんにちは」



案の定、海塚は上川の時間逆行タイムリープの噂を頼りにやってきた。



「あの〜…上川隆介さんであってますか…?」

「…はい。そうですけど。」

「お願いします! 私の過去を変えてくださいませんか!」

「分かってる。もう一周してきたからな」

「へっ?」

「無条件で解決してやるって言ってんだ。話が早くて助かるだろう」

「まだ私、何も言ってないんですけど…」

「片思いの相手と両思いになりたいんだろ? その感じだと、黒部って奴とうまくいってなかったみたいだな」

「何で何もかも知ってるんですか!? 預言者なんですか!?」

「預言者ってほどじゃないけど…手取り早くなんかオレに衝撃的な何かを与えてくれないか? そうでもしないとタイムリープができない仕組みなんだ」

「えーと、突然そう言われても…どうしたら」

「キスでも何でも良いから早く」

「もうこうなったら、えいッッ!!」



上川に飛んできたのは、最初に出会ったときのようなキスではなく、一発の顔面パンチだった。それがクリティカルヒットしたのか…上川は軽くめまいを起こし、そのまま気絶してしまった。

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