第1話 タイムリープ

5月28日、午後4時30分。



「こ、こんにちは〜…」

「…こんにちは」



文芸部。学問的な本もあれば、芸術の本や大衆小説などがあらゆる所に敷き詰められている、そんな少し近寄りがたい部室に一人の女子生徒がやってきた。



「あの〜…上川隆介さんであってますか…?」

「…はい。そうですけど。」



あくまで冷淡に答えた上川は、プリントや答案を持ってきた、或いは自分の潜在能力のことで冷やかしにきた人物だと思っていた。

しかし、それは大きな間違いだった。



「お願いします! 私の過去を変えてくださいませんか!」

「…………?」



唐突の発言で上川も驚いたが、彼女の気迫からはウソやイタズラ心は全く感じない。おそらく彼女は本気でここにきたのだ。



「私の名前は海塚菜摘うみづかなつみ。上川さんと同じ二年生です」



彼女の背丈は見た感じ、173cmぐらいで黒髪のロングヘアー。服装は文学科高校、独特のものでブラウン色の古典的なセーラー服と短いスカートを履いている。



「自己紹介されたからには、オレも必要かな。 自己紹介」

「大丈夫です! 名前は存じておりますゆえ!」

「いや、そうじゃなくて…」



それに比べて、上川は177cmぐらいの身長で、ボサボサの寝癖黒髪ヘアー。服装は女子と違い、黒と赤色のブレザー、ズボンといった感じだ。



「どの生徒にも言ってるが、冷やかしはお断りだぞ。そんなやつらばっかりだからな」

「冷やかしじゃありません! 本気でここにきてるんです!」

「本気って何が……」

「何がじゃなくて、過去を変えてきてもらいたいんです!!」



海塚は純粋なまなこで上川を見つめる。その純真さと子犬のような可愛さに何も感じないわけにもいかず、協力してやりたい気持ちではあったが、やはり心の中での天の邪鬼な部分、相手を信じきれない気持ちが働いて思わず上川は願いを断った。



「無理だ。もしオレが過去に行ける力があるとして、君の願いを叶えられて、その後オレに何のメリットがあるんだ?」

「メリットならあります…! 私と付き合える権利を与えます!」

「何で上から目線なんだよ…。いらないし…」

「ひ、ひどいッッ!!」



このままでは埒が明かないと思った上川は、適当にここはごまかして、また今度。と言う風にやり過ごそうと考えた。



「あなたみたいなモテなさそうな男子と付き合うって言うんですから、もっと光栄に思ってもらいたいものです!!」

「そっちも、さりげなく言うことひどいな…。分かった。分かったから、それでどんな過去を変えて欲しいんだ?」

「私が片思いしている相手と付き合えるようにして欲しいんです」

「オレと二股じゃねーかッッ!!」



海塚はとんでもない言い分を繰り出してきた。片思いの相手と付き合える状態を過去に行って作っておきながら、上川と付き合うと言うのだ。

言ってることがさっきから無茶苦茶である。



「ふざけんなッ!! もうやめ、やめ! 言ってることがありえない」

「私には一夫多妻制が成立します! 裁判長!!」

「それ、逆だ! バカ!! あと、誰が裁判長だッ!!」

「バカとは何ですか…!! これでもちゃんと好きだったんですから…」



突然、海塚が話の途中で泣き出したので、上川もどうしていいのかわからなくなったが、それでも話は続いた。



「あのな…。悪いけど、オレだって過去に時間をさかもどるには、交通事故とか、そうゆう衝撃が必要なんだ。そう簡単には戻れないんだ…」

「………それなら」

「……?」

「これぐらいの衝撃的なことなら、過去に戻れるんじゃないんですか!!」



海塚が上川に顔を近づけた、次の瞬間。

海塚は上川に向かって、キスをした。



「ッッ__________________________!!!??」



上川はすぐに離れようとしたが、もうその時には遅かった。

上川の頭はグワングワンと激しく揺れ動き、意識が朦朧としていく。



「上川_______さ___ん______!! 上_______川_______さん」



強い眠気に襲われる中で、上川は海塚のかすかな声は届かず、海塚に抱き寄せられている感覚だけ身体に残った…。





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