うらがえった世界

激しい衝撃に、全身が波打った。


物理的な世界は、全て内側にしまいこまれてしまった。


そこら中に個人の存在を感じる。戸惑い、不安。そんな数十人分の感情が渦巻いている。なにかを見たり、聞いたりしてそう感じるのではない。感情がそのままわたしの領域に入ってくる。

どこからか、喜びを感じた。ここを天国だと思っているようだ。でも、わたしは電車の座席のふわふわしている感覚は持っている。きっとわたしの体は電車の座席の上にまだあるのだろう。

ざわざわと周囲の個人が自分の体の状態を確認する感覚が伝わってきた。しばらくして、驚くほどの絶望が一面に広がった。それはさっきのここが天国だと思ったひとりの絶望だった。運良く何かのきっかけで死ねたと思っていたのに、自分はまだ生きている、どうしてだ。クソみたいな上司にも、クソみたいな職場にも毎日の満員電車にもこれでこれでおさらばできると思ったのに。あまりにも生々しく実感させられるドス黒い感情に、渦巻く不安と、絶望はますますダークになる。


突然、そのドス黒い絶望が途切れた。内側から血腥ちなまぐさいような匂いの感覚がする。

“殺してやった“

誰かが発した、恐ろしいほどの快感と、この世の最悪を見た恐怖が同時に瞬間に襲ってきた。場が一気に凍りついた。

“彼は重たい辞書で殴られ、即死している。もう脈はない。”

その場の中で唯一冷静な言葉を感じた。


冷静な言葉にすこしだけ緊張が解け、困惑と恐怖の入り混じった混沌が私たちの間を満たした。

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