ある高校生の話

ぶつり、とロックンロールが途切れた。


「ふっふっふ……私はこの”宇宙”の主の”魔王”である。」


なんだ、この声は。私は急いでBluetoothのイヤホンを両耳から外した。


「これからこの宇宙について、宇宙に生きる生命体たちに説明しようと思う。」


どこから聞こえるんだ。

でも、声はどこから聞こえているわけでもない。頭の真ん中で鳴っている。脳みそをその声が支配していく。電車が走る音がだんだん遠のいて行く。

電車は急停車し、進行方向に強い加速度を感じた。つり革が一斉に45度傾いた。


「136億年前、私はこの宇宙を買った。」


さすがにだれかのいたずらだと思った。でもそれにしては、声はあまりにも明瞭に脳内に響いている。ふんわりとした思考で、きっと超自然的な何かだと思った。


「もう少し詳しくいう。その頃私はある種の好奇心に取り憑かれていた。”空間”ができ、”物質”ができていく様子をこの目で見たいという好奇心だ。」


この魔王の好奇心が手に取るようにわかる。自分も同じ気持ちを抱いたことがあるというわけではない。魔王の好奇心そのものが体の中に送られてくるのだ。


それからはもはや言葉という枠組みなど必要としない、”気持ちそのもの”で魔王の話が伝わってきた。魔王が思っていることがそのまま私の脳内に移植されてきた。ゆっくりと断片的に、魔王の思考が少しずつ私の脳に入ってくる。

魔王の話す情報が入ってくるのはとてもゆっくりだったが、それでも私の脳には衝撃が強すぎて、頭の中で私自身と魔王の断片的な考えが混ざり合って大混乱に陥った。


私は宇宙を作った?宇宙からみる地球は最高だ。新品のローファーに昨日つけてしまった傷。金儲けしか考えなかった過去の自分。フカフカな電車の張り替えられたばかりのシート。学校の隣の席に浮かぶのは魔王。母の胎内は真っ赤。真っ黒な機械を家に運び込む自分。雨上がりのカエルが死んだ匂い。ダークマターを注ぐ機械の使い方を科学者に聞いている。解けなかった高校入試の数学の最終問題。この手は誰のもの?閉じたり開いたりしているのはだれ?


「今から私はその技術をあなたたちが住む地球に試してみようと思う。」


一瞬、意識が途切れた。

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