第5話 陰の想い霊の源

「陽太くんは、ステレオタイプってわかるかな?」

「いや……。」


正直、初めて聞いた言葉だ。思わず首をかしげてしまった。


「単刀直入に言うと、一種の決めつけみたいなものだよ。例えば、男は外で働くべし、女は家事をするべし、みたいな。思い当たることあるんじゃない?」

「あ……。」


俺は、クラスや学校の生徒をまとめていく立場として、大きな間違いをしていた。

特にそれが顕著に表れていたのが文化祭の準備だ。

あの時、俺はみんなにどう指示した?

女子は飾り付け作りやデザインで、男子は大荷物運びなどの力仕事だと言った。

私は細かい作業より力仕事の方が得意だから男子チームに行きたいという女子。

あるいは、力仕事よりも絵を描いたり細かい作業の方が得意だから女子チームの仕事の方が良いという男子。

この両方の声があったのを無視して、時間がないからと誤魔化して、みんなの意見を尊重せず、自分が言っていることが最善だと思い込んでみんなを苦しめていたのだ。


「ふふっ、気づいたみたいだね。これが事件を大きくした陰の想い霊の真相。」

「陰宮、お前も……。」

「うん、僕もあの時、細かい作業の方が力になれるって言った。力仕事の方が良いって言っている女子がいることもね。でも君は、女子より男子の方が力あるからって聞き入れなかった。それの積み重ねがこの騒ぎに繋がったってこと。」

「ごめん、俺、自分の基準でしか考えられていなかった。こんなに陰の想い霊が大きくなるほどみんなが傷ついていたなんて全然気づいていなかった……。」


俺は、情けなさのあまり膝から崩れ落ちた。

その時、頭上から全ての罪を洗い流してくれるような、穏やかな声が降り注いだ。


「今、声を奪われた人たちは、自分の気持ちを伝える勇気を出すのがどれだけ大変かを感じているんじゃないかな。手伝って欲しい。ちょっとだけでも配慮してほしい。こんな風に小さい声でも声を上げてくる人たちは、すごい勇気を振り絞っていることが多い。迷惑じゃないかな、でもお願いしないと逆にもっと迷惑かけることになるかもって思いながら。それでも受け入れられずに陰の想い霊となったのをいくつも見た。誰しも、得意なこと、苦手なこと、できること、できないことが違う。それを自由に発信できるようにしないと、みんな疲れちゃうよ。みんながそれに気づけたら、想い霊も声を返してくれる。」


確かに陰宮の言う通りだ。

今までの自分の行いの卑劣さを思い、ズシンと今の言葉がのし掛かる。


「この世界は、誰が中心とかないみんなのものだよ。だからお願い、陽太くん。みんなの声に寄り添って。みんなが自分らしくいられるように。否定しないで。見た目とか性別とかで決めつけないで。」

「わかった。」


次にみんなで協力するのは、先生へのサプライズ決めだ。

今までお世話になった気持ちを込めて、みんなで用意する。

みんなで先生にとびきりの感謝を伝えるために俺は、リーダーとして最善を尽くす。

もう二度と誰も傷つけたりはしない。

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