第4話 この街の言い伝え
「まず、その鬼火だけど、陽太くんの言霊を受けて傷ついた人の想い霊だよ。ここまで言えばだいたい予想がつくんじゃないかな。このことが、今回の高校の事件に大きく関係するんだ。」
頭を抱え始めた時、ゆっくりと陰宮が話し始めた。
言霊。想い霊。この言葉は、この街に住んでいれば誰もが知っている。
その上、みんなとても恐れている。それは、こんな言い伝えがあるからだ。
陽の言葉を与えし時、それが陽の言霊となり相手に安らぎをもたらす炎と化す。
陰の言葉を与えし時、それが陰の言霊となり相手に苦しみをもたらす鬼火と化す。
陽の言霊を受け取りし者からは陽の想い霊が生まれ、感謝の意をもって
陰の言霊を受け取りし者からは陰の想い霊が生まれ、憎しみの意をもって言霊主に苦しみをもたらす。
言霊と想い霊の大きさは比例する。
もし陰の言霊が相手にとって絶大なる力を発揮した時、相手は鋭利な刃にやられたかの如く火傷の痛みに苛まれる。
言霊主は想い霊から生まれた鬼火に支配され、
つまり、人に優しい言葉を与えた分だけ自分にもその優しさが返ってくる。
そして、人を言葉で傷つけた分だけ自分も同じくらい大きな傷を負い、
傷が深いほどその代償は大きくなる。
俺も、十分そのことは肝に銘じていたつもりだった。
だからまさか自分がこうなる日が来るとも思わず、鬼火にもピンときていなかった。
「俺が、言葉で陰宮を深く傷つけていた? 鬼火で大火傷を負わせるほど……。」
「そういうことになるね。」
陰宮からの返しにぞっとする。
なぜ俺は人を傷つけておいて自覚がない?
この街の言い伝えもわかっていたはずなのに。
自問自答ばかりが続いて、変な汗がじわりと俺の身体を這っていく。
「ちなみに、陽太くんの言葉で苦しんでいたのは僕だけじゃないよ。陽太くんや、行方不明になった人たちの言葉によって、深い傷を負っていた人がたくさんいた。だから僕はここまでの大火傷を負った。他の人の陰の想い霊を鎮めるために。そして、自分も陰の言霊によって傷付けられていた上に、鎮めるべき想い霊があまりにも多かったから、受けとめきれずに、陰の想い霊による被害者を出してしまったり、僕自身が大火傷の跡から生き霊として分離したんだ。」
ということはつまり……。
「陰宮は、言霊師ってこと?」
「その通り。だいたいは、鬼火になる前に察して、陰の想い霊を術で取り込んで、自分の身体の中で鎮めて浄化できるんだ。でも、今回はみんなの陰の想い霊が一気に大きくなっちゃったみたいで、僕の身体の中で浄化する前に溢れた。だから、受けとめきれなかった僕も悪いんだ。」
まさか、陰宮が由緒正しい言霊師一族だったとは。
ただ、まだ俺が陰の言霊を生んだ理由がわかっていない。
それに、陰宮は1ミリも悪くない。
「それで、行方不明になった子に関しては大火傷で運ばれたばかりでどうにもできなかったんだけど、しばらくして僕の中の陰の想い霊が大きくなって分離して、とりあえず自由に動ける身体ができたから、陽太くんなら間に合うと思って、陰の力をなんとか術で操って、わざと鬼火を陽太くんの周りに飛ばした。そしたら、陽太くんの声が奪われる前に金縛りの負担とお話だけで浄化できるから。」
「そうだったんだ。」
こんなに大変な状態なのに、そこまで考えることのできる陰宮はすごい。
言霊師は、いつも危険と隣り合わせなのだということを思い知らされた。
「俺の言葉で傷ついた理由、教えてくれないかな?」
俺もちゃんと向き合わなければ。
そんな想いで恐る恐る問いかけると、陰宮は静かに頷き話を続けた。
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