第2話 正体

「お前は誰だ?こんなことして何のつもりだ?」


静寂が包む中、俺の声に怯むどころか相手が困ったように微笑んだのが見えた。


「そっか、忘れているよね。高3だと大学受験とか就活で今は自由登校だし。」

「どういうことだ?」


俺が忘れている?

今話しているのは知り合いということか。

こんな現実離れした展開を引き起こしているのは、俺の知っている人物なのか?


「僕は陰宮透かげみやとおるだよ。高校3年間、陽太くんとずっと同じクラスの。僕は陽太くんと違っていつも教室の隅にいて、話す機会も少なかったし、最近は顔も合わせてないから忘れられているのは予想ついたけど……。」


まさか。陰宮透。教室の端の席で、いつもずっと座ったまま何か黙々とやっているやつだ。誰かと話したり、外で遊んでいるのは見たことがない。

でも、生徒会長としてクラスメイトを忘れているなんてなんたる失態だ。


「陰宮!? ご、ごめん! 暗くてわからなくてって言っても言い訳か……。

本当にごめん。でも、何でこんなことになって……。」

「これは僕のようで僕じゃないんだ。わかりやすく言うと生き霊ってやつだよ。僕の本体は別のところにある。」


俺はいつの間にそんな霊感を手に入れたのか?

というか、陰宮はもうこの世の人間ではないのか?

今の状況が分からなすぎて、頭の中がパンクしそうだ。

自分から出る声の温度がみるみる熱くなっていく。


「生き霊!? 陰宮、お前、学校で会わないうちに何かあったのか!? しかも、こんなことになるなんて、俺、もしかして陰宮に何かした?」

「大丈夫。僕はちゃんと生きているから。解決方法もある。ついてきたら、全部わかるよ。それに、こうなったのは僕も悪いんだ。」

「そうなのか……?」

「うん。だからついてきて。」


陰宮は終始いたって冷静だ。

それに、黒く澄み渡った瞳の奥から、感じたことのないくらい強い意志が伝わる。

口調も、従わざるを得ないと思わせるような芯のあるものだった。


「わかった。」


とにかく今は陰宮についていくことが謎を解く1番の近道だ。

俺は黙って彼についていくことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る