第9話 恋愛勇者の本名
あれから岩太は、かつ丼大盛りを楽々食い上げ、各自は部屋に戻る。恋也が部屋に入ると、段ボールの山ができている。
「こんなにあったんだ」
「さっさと片づけるぞ。これじゃ寝れない」
「そうだね、終わったらお風呂を沸かそう」
恋也は訴求に片づけを開始をする。ここの学生寮は一部屋にお風呂が設置してある。地下に大浴場があるが、女子の女の子の日のために一部屋につけたそう。
恋也はガムテープを外し、中を覗く。そこにはプラスチックでできた物入。透明になっているため中が見える。ぎちぎちに押し入れられた服が入っている。
「これは、ベッドの近くに置いてっと」
次に出てきたのはベッド一式。ベッドフレームが無かったことが奇跡。あったら捨てなければいけなくなる。恋也はそれを敷くと恋愛勇者がベッドに腰を下ろす。
「ぐしゃぐしゃにしないでね」
「しないよ。俺がウロチョロしてたら邪魔だろ?」
「今俺って…」
「もともとは俺って言ってたけど、やめてただけだ。早くやれよ。風呂に入れなくなる」
「分かってるよ。すぐに終わるから」
恋也はテキパキ動いて、やっと父親の仏壇を開けることができた。
「父さんごめんね、苦しかったよね。すぐ出してあげるから」
恋也は重い仏壇を取り出す。重すぎて落とさないか不安になる。すると、恋也は躓き、仏壇を倒しそうになるが、恋愛勇者が助けてくれる。
「危なっかしい奴だな。どこに置けばいい?」
「そこの窓際…」
「了解」
そこだけ、段になっていたので、丁度いい位置になる。仏壇を開けると、父の遺影があり、袋に包まれた遺骨がある。全てに埃がたまっており、手入れされていないことが分かる。すぐに恋也は掃除道具を取り出す。
最初に父の遺影を掃除する。曇った笑顔を優しい笑顔に変えたいためだ。掃除を終えると、父の顔は優しくなっていた。
「これで良し。お風呂を沸かそう」
お風呂が沸くと、恋愛勇者を呼んで一緒に入るように言う。家から持ってきたアヒルちゃんを浮かべる。
「温かいお風呂に入るの何年ぶりだろうね」
恋也は笑顔を見せる。
「大丈夫か?しみない?」
そんなことより、恋愛勇者は恋也の身体にできた虐待の傷を心配する。青あざになっているところは母親が連れてきた男に受けた傷。やけどや切られた傷は母によるもの。
「大丈夫だよ、しみてない」
「本当にか?」
「うん。それより、恋愛勇者」
「なんだ?」
「お前って、名前なんていうの?ずっと恋愛勇者って呼んじゃっているけど、名前とかあるでしょ?」
恋也は顔を上にあげて訊く。
「あるよ。よく聞けよ」
「うんうん」
「俺は、レルフルミスト・ラウングルンだ」
恋也は長すぎてうまく聞けなかった。
「レル?なんて?」
「だと思ったよ。俺の友達につけてもらったあだ名で覚えてくれ。名前の最初のレと最後のンで、レンだ」
「レン。良いあだ名だね」
恋也が笑って見せると、レンは笑って返してくれる。すると、レンの顔が近づいてきて、キスをされる。思わないことに恋也は目を見開く。
顔が離れると、レンはしまった!と焦る様子を見せる。きっと誰かと間違えたのだ。
「ごめん、恋也!お、俺ッ!…」
「大丈夫だよ。なんか知らないけど嫌じゃなかったし」
「マジでごめん」
かなり落ち込んだ様子に恋也もどうしようかと焦りを見せる。
あの後二人はベッドに横になる。ベッドは一つしか無いうえに毛布なんてベッドに引くやつしかない。二人は丸々ように眠った。
だが、レンだけが眠れずにいる。あの時キスしたことを悔やんでいた。あの時脳裏には、ある青年の姿が横切った。もう忘れたと思っていたあの姿。自分が近寄ると、どんなにボロボロにされても笑顔を見せてくれる。あいつは今どこに居るのだろうか。レンは静かに目を伏せる。明日、恋也は何をするだろうか。
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