第8話 楽しみ

 実花と共に食堂に向かった恋也。食堂は学校でよく使っている場所。

「食堂ってここなんだね」

「そうだよ、初めてだもんね。夜の食堂に来るの」

 奥の方を見ると、岩太が席どりをしている。岩太は二人に気づくと、手を振ってきた。

「遅かったな、なんかあった?」

「別に何もなかったよ。ねえ、恋也」

 首をかしげて、可愛いく言ってくる。

「そうだね」

「ならいいけど…早く飯食おうぜ。腹減った」

「そうね。行きましょう」

 岩太はバックを置いて、席を離れる。

「今日は何にしようかな?カレーセットにしようかな?」

 よだれを垂らしながらメニューを見る岩太。

「ちゃんと野菜を取らないとだめだよ」

「分かってるよ」

 実花の注意に縮こまる岩太。いつもの二人に心が和む。

「?恋也、お前も選べよ」

「ああ、分かってるよ」

 恋也は悩んだ末に、サラダうどんを注文した。岩太はカレーセットの大盛り。実花は白菜のクリーム煮の麦ごはんセットを注文。

「今日はデザートもあるよ。ショートケーキと大福だよ。どちらがいい?」

 と食堂のおばさんが言ってくる。

「私はショートケーキ」

「俺も同じく。恋也は?」

「俺は大福にするよ」

「はい。ありがとね」



 席に戻った恋也たちは、大福のことで話していた。

「恋也、大福で良かったのか?」

「うん、俺がんじゃないからね」

「どういうこと?」

 実花が疑問に思っていると、恋愛勇者が出てくる。

「その大福をこの私が食べるのさ」

「出た!恋也に取り憑いている人」

「誰が取り憑いている人だ!私を幽霊扱いするな!」

 どこかの茶番を見ているようだ。

 しばらくすると、三人同時で呼び出しタイマーが鳴る。三人で、食事を取りに行く。三人、いや四人で食事を楽しむ。

「そういや恋也、明日休みだけど暇?」

「あるとすれば、部屋の整理だね」

「それなら今やればいいよ。まだ時間は早いし。だからさ、明日ショッピングモールに行きましょ」

「いいけど、何か買う物あるのか?」

「あんたの時計、壊れてない?」

 ジト目で見てくる実花。そう考えると、そうだなと思う恋也。

「それとついでになにか買おうということ。その、自称恋愛勇者にもね」

「自称って…」

 文句ありそうな顔で実花を見る。

「じゃあ、明日の十時にエレベーターホールに集合な」

 さっさと食べ終えた岩太は立ち上がり、食器を片付けに行く。恋也も実花もまだ半分しか減ってないのに。

「岩太、早くない?」

「そんなことないよ。もう一杯食べるから」

「まだ食べるの!」

 岩太はそそくさと、受付に行く。

「あの食いしん坊、あの胃袋どうなってるのかしら」

 呆れたようにため息をつく。

「まあ、いいんじゃないか?食べない岩太より」

「確かにそうだけど…」

 実花は何やら心配している。

「実花って、お母さんみたいだね」

「そうかな?もしかしたら、お母さんが亡くなったからかな?」

 実花は笑って言う。だが、恋也は実花のお母さんを思い出す。父が生きている時はいつも遊びに行って、よくイチゴのタルトを作ってもらった。だが、全てはあの事件で崩れた。恋也の恋愛勇者の力も実花のお母さん。多くの人の命。全てがあの時に奪われてしまった。あれは奴らがやったかは分からない。

 しかし、許しはしない。必ず倒す。全てはあそこから始まったのだから。

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