第7話 「苦しいなら、ため込むなよ!」
「恋也、ごめん、聞こえていたんだけど。おばさんって昔からこんなんだったけ?」
恐る恐る訊いてくる実花に、苦しまぎれに薄っすら笑顔を浮かべる。
「父さんが死んでからこうなっちゃたんだ。でも、『解放された』とか言ってた時があったから。あれが母さんの本性なんだよ」
ヘラヘラと苦しそうに笑う恋也にあまり話さない岩太が、口を割る。
「苦しいなら、ため込むなよ!」
突然の大声に、二人は肩が上がる。
「お前は昔からそうだ!何かあると、すぐに隠そうと笑って誤魔化す。お前にとって俺たちはそんなに頼りないのかよ!」
「え?」
「え?じゃねーよ!俺たちは友達以上だろ!全部抱え込まずに、俺たちにも頼ってくれよ。何でもないことでも、話しに付き合うし、相談にも乗る。お前が抱えているもの、一緒に背負うぞ」
岩太は怒っていたが、自分を心配して言ってくれた。今までは、「誰かに頼ってはいけない」と一人で抱え込んでいた。だが、もうそんな必要は無い。抱え込む必要も無い。恋也は母親の影響で、視野が狭くなっていた。こんな近くにあるのにも関わらず、気づかずにいた自分が恥ずかしい。
気づくと、恋也の頬に涙が零れていた。
「岩太、実花。ありがとう…」
「礼を言う必要なんて無いよ」
三人は少しの間、恋也が泣き止むまで待つことにする。黄昏時だった空模様は、すっかり無くなり、学校内に明かりが灯る。
あわてて帰った三人は、学生寮に戻る。そこには教師の先生方が立っている。
「水野君、遅かったね」
「はい、少し用がありまして」
「そうか、ならいいのだが…ところでだ水野君、君どこの部屋がいい?突然のことで片づけていないところがあり、場所は限られているが、かまわないか?」
「はい。中が広ければどこでも」
「よし、ならいいところがある。付いて来なさい」
恋也は教師の後を追いかける。
ここの学生寮は全部で三十階。どこに何があるかは、また後程。
教師に連れられ、恋也は二十一階にたどり着く。ここの学生寮はエレベーターがあるようだ。(当たり前だ)
「ここがその部屋だ。どうだ?」
教師は鍵を開け、中を見させる。中は広く、勉強机とベッドフレームがあるだけだが、それにしても広い。
「とてもいいです。ここにします」
「そうか、なら後で荷物を持ってきてもらう。その間、食堂に行って夕食を取ってくるといい」
「はい、わかりました」
「それと思うが、君のお母さんは勝手な人だね。人の気持ちが分からないのだろうか」
そういう教師に恋也は苦笑いをする。
恋也は部屋を後にして、食堂へ向かおうとエレベーターに乗り込むと、スマホが鳴り出す。画面を見ると、実花から「一緒に食堂に行こう」と通知が来ている。まだ食堂の場所もいまいち分かっていないので、連絡手段のアプリ、「LEIN」を起動して、連絡をする。そしてすぐに「エレベーターホールに来て」と連絡が入る。嬉しさ交じりの笑顔を見せる。
エレベーターホールに着くや否やや実花を探す。
「恋也!こっちこっち!」
手を振ってこちらに合図を送る実花に恋也は手を振ってそちらに向かう。
「ごめん、待った?」
「全然だよ、岩太が席取っててくれて居るから早く行こう」
恋也は頷いて食堂に向かう。
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