第6話 疑い

 あの後に、職員の先生たちは警察に連絡したらしい。警察は「すぐ行きます」と言ったらしいが、こんな場所だしすぐには来られないだろう。

「恋也…」

 恋也が振り向くと、小刻みに震える実花が居た。余程怖かったのだろう。

「ごめん、怖かったよね」

「少し、訊いていい?」

「なに?」

「恋也は『恋愛勇者』なの?」

 恋也は実花の問いに、少し黙る。幼少期に『隠し事はしない』と実花と約束したにも関わらず、恋也はずっと話さなかった。いや、話せなかった。話せば、色々な問題に繋がる上に、奴らにも正体がばれてしまう。(今回のことで、ばれたような気もするが笑)。

「そうだよ。ごめん、約束を破った」

「あのさ、今回の恋也を見て、遠い人間のように見えてきちゃった」

 薄っすら涙を浮かべる実花。

「恋也っていつもそうだよね。一人で考え込む癖。友達である私たちには言わず、一人で大きな重しを持っちゃうんだよね。恋也にとって、私たちって、なんだったりするの?」

 恋也はすぐに返答ができなかった。すぐに『友達だ』と答えてしまえばよかったのにも関わらず、答えなかった。

「こいつは、君たちには荷が重すぎるって話さ」

 恋也の背後から、恋愛勇者が現れる。見えるはずがないと思っている恋也は、実花たちの反応を見て驚く。

「え、実花、こいつ見えるの?」

 実花は、無言で頷く。

「元はと言えば、私は誰からも見えるんだぞ」

 嬉しそうに話す恋愛勇者に、恋也は苦笑い。

「なんだその顔は」

「別に…」

 目を背ける恋也に、実花は不安になる。今目の前に居るのは本当に小さいときからずっと一緒にいる恋也なのだろうかと、疑い始めた。



 あれから、警察が何台かのヘリコプターでやってきた。その場に居た多くの生徒は、事情聴取をされた。もちろん恋也たちもだ。後から聞いた話、事情聴取された生徒からの口から、恋也が恋愛勇者だと言う者はいなかったそう。

 スマホの電源を入れながら、廊下を歩いて教室に入ると、実花と岩太が待っていた。外はもう黄昏時、学生寮を借りている二人は、一度部屋に帰らないといけないはずなのに。二人は思いつめた顔をしている。

 二人が恋也に気づくと、はにかみ笑いをしている。

「お前ら、部屋に行かなくてもいいの?」

「もう行ってきた。恋也がまだ帰ってないって聞いたから」

「だからって、いなくてもよかったのに」

「不安なんだよ!もう、帰ってこないんじゃないかって」

「岩太…」

「お願い、私たちも協力するから」

「じゃあ…」

 恋也が話そうとしたタイミングで、着信音が鳴る。

「ごめん、俺だ」

 恋也は電話に出る。相手は、母親だ。

「もしもし、母さん。どうしたの?」

『なんですぐ出ないの!』

「ごめん、警察の人に事情聴取されてて、スマホの電源を切ってたんだ。つけっぱなしじゃ迷惑だと思って」

『あらそうなの、ならいいんだけど。ただ警察のヘリコプターが飛んで行ったの見えたからさ』

「そうだったんだ」

『後さ、あんた今日から学生寮に住んで。荷物も全部送っておいたから』

「え、どういうこと?」

 突然のことで、恋也は戸惑いを見せる。

『お母さん、しか受け付けてないんだけど』

 母親は、冷たい声色で言ってくる。その声に、恐怖を覚える。

「はい、母さん。後、父さんの仏壇、送ってもらえると、うれしいです」

『分かった、いい加減邪魔だったんだよね、仏壇これ。持ってて貰えて助かるわ。無理だったらと思ってたからさ』

 ぶつぶつ言う母親に、怒鳴りたい気持ちがあったが、恋也は必死に堪えた。

『それじゃあね、お母さん忙しいから。バイバイ』

 強制的に切られた電話に、ブチっと音がする。恋也は堪えていた何かを吐き出そうと息を吐く。母の冷たい態度に、恋也にまた重しをぶら下げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る