第5話 守る者
突然のことで生徒は動揺していたが、一人が叫び声を上げると、一斉に逃げ出す。
「=逃がしはしないぜ!=」
逃げようとする生徒を触手を使って捕まえていく。そしてそいつの後ろにいる、巨大アメーバが飲み込んでいく。内部が見えないようになっているため、中で生徒がどうなっているのか、分からない。もしかしたら、中で溶かされているのかもしれない。このままでは、実花たちが危ない。
「二人とも危ない!逃げろ!!」
だが、二人は恐怖で腰を抜かしている。このままでは、二人は死んでしまう。
その時、恋也の見る世界が遅く感じた。逃げ惑う生徒たちは、走っているにも関わらず、スローモーションのごとくゆっくりだ。
「何が、起きて…」
「恋也、お前は本当に、守る者がいないのか?」
背後から、恋愛勇者が囁くように声を掛けてくる。
「本当に、父親しかいないのか?」
彼は、何かを知っているかの様に囁く。
違う、そうでは無かったはず。父は、自分に向かってこう言った。
『恋也、お前は必ず、誰かを守れる人になるんだ。友達でもいい。守る者を見誤るな。お父さんだけじゃないからな』
恋也は父の言葉を、忘れてしまっていた。父が死んでから、誰かを守ることも、助けることも。
恋也は歩き出す、皆とは逆方向に。彼の瞳は赤く光り出す。
「=そんな姿でこの俺に立ち向かうのか?勇気のある奴だこと=」
奴は触手で、実花を掴む。その姿を見て、恋也は走り出す。
「=お前、知らないのか?人間が我々に触れたら、どうなるかのか=」
「化け物になるんだろ?」
「=そうさ、そうなってもいいのか?=」
「そうかもしれない。でも俺には、守りたい者があるんだ!」
恋也は奴を殴る。だが、力が弱い。
「恋也!」
実花は泣きそうな声で叫ぶ。
「=あぁん?なんだこいつ?化け物にならないじゃないか=」
「そりゃあそうだよ、だって…」
恋也の姿が変わっていく。恋也の本来の姿から、『恋愛勇者』の姿に。
「俺は人間じゃないからな」
恋也は瞳を赤く光らせ、膝で奴のみぞおちを蹴りこむ。触手は力が無くなり、実花を落とす。
「実花ッ!」
落ちる実花を空中でキャッチする。
「れ、恋也…なの?」
確認するかのように、訊いてくる実花に恋也は頷く。
「実花、下がってて」
恋也は指示するように後ろに下がらせる。実花は黙って後ろに下がる。奴は口から胃液を零す。
「=くそが!邪魔してんじゃねーよ=」
「邪魔?ならこちらも言わせてもらうが、俺たちの平凡な日常生活を邪魔するんじゃないよ」
見下すように恋也は言う。
「=うるせいよ!アメーバー殺っちまえ=」
ぐぉぉぉぉぉぉ!!
巨大アメーバが恋也を襲おうと近づくが、恋也の睨みで恐れをなす。
「お前はそこで大人しくしていろ」
き、きぃぃぃ…
すっかり大人しくなったアメーバに奴は舌打ちをする。
「=使えない生き物だ。こうなったら、俺自身がお前を真っ二つにしてやる=」
「やれるものならやってみろ」
恋也は煽るように挑発する。
「=俺は『ガーレナルス』の幹部の一人、ラッシュ様だ!よく覚えとけ!=」
と、吠えるように言う。ラッシュは、触手を使って恋也に攻撃を仕掛ける。恋也は虚空から、鞘の無い刀を取り出す。そして刀を大きく振り、触手を全て斬ってから飛ぶ斬撃をお見舞いする。ラッシュは胸元から斜めに斬り込みが入り、鮮血が噴き出して床を汚す。
「=おの…れ…ぇ…=」
弱弱しくなったラッシュに恋也はとどめを刺そうと近寄ろうとする。だが、何もない場所から突然ワープゾーンが出来上がる。
「あんたも、少し弱くなったじゃない?」
血のように赤い長髪を黒い髪留めで止めたセクシーなお姉様がワープゾーンから出てくる。
「レナージッ!」
恋也がボソッと言うと彼女は恋也を見る。
「あら、貴方も居たのね。お久しぶりね、恋愛勇者」
彼女はくすくす笑う。その姿を恋也が睨みつけていると、背後でアメーバが爆発する。
「今ここで戦いたいけど、私の任務はアメーバの破壊とこの子を連れ戻すことなの。遊ぶのはまた今度ね。またね、恋愛勇者」
レナージはラッシュをワープゾーンに引きずり込み、彼女らは姿を消す。床に零れていた血液も無くなり、ただ爆発しただけとなった。アメーバに飲み込まれた生徒たちがどうなったか分からない。飲み込まれて、別空間に連れていかれたか、中で溶かされてしまったのか、今ではもう分からないことだ。
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