第2話 孔子(前編)
そこへ、
「先生、孔先生がお見えになりました」
「おお、孔先生がいらしたか。早速お迎えにあがろう」
柳下季が玄関を出ると、孔子は門の外で身の
「孔先生、お久しぶりですなぁ。さ、中へどうぞ」
二人が客間へ移ると、門弟が肉と酒を運んできた。孔子は酒で唇を
「それで、柳先生、今日はどういったご相談なんでしょう?」
それを聞いて、にわかに柳下季の表情が
「……実は、弟の跖のことでして……」
「今、諸国を騒がせているあの方ですな?」
「はい。今では忠告する親も亡くなり、私も散々あの者には言って聞かせたのですが、どうも一向に効き目がありません。それどころか色んな
「うーん」と言ったまま、孔子は
「正しいことを分かっていながらそれをやらないというのは、臆病者になります。それに、やる前から『出来ない』と言うのは自分の可能性を
柳下季は
「おお、孔先生、ありがとうございます。先生のご人徳があれば、あの跖もきっと改心することでしょう。何とお礼を申し上げればいいか」
「いやいや、それには及びません。それよりも、弟さんは一体どのようなお方なのですか?」
「はい、弟の跖は悪賢い知恵が
それと、一番気を付けなければならないのは口達者なことです。
ですが、そんな跖を
そこまで聞くと、孔子の額にほんのりと汗がにじんだ。しかし、その言葉には自信があふれていた。
「なに、私がこれまでに経験してきた苦難に比べれば、そう心配することはありません。ですが、一応念を入れて弟さんに書簡をしたためていただけますか?」
「そうですね、いきなり訪ねて行くと捕らえられるかもしれません。分かりました、すぐにお書きしましょう」
柳下季は書簡を孔子に手渡すと、願いを込めて言った。
「先生、跖は利益になることばかりを好み、人に対しても物に対しても常に
「柳先生のご助言、この身に染み入りました。では、明朝出立することにいたします」
孔子は待たせていた馬車に乗って帰って行った。柳下季は馬車が見えなくなるまで孔子を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます