希望販売機
道に迷ったときに、それを見つけた。
暗い夜道をほんのりと照らしていたそれは、希望販売機と書かれていた。
それはディスプレイ式の自動販売機の様だったが、商品が表示されておらずなんとも不思議に思い、立ち止まったのだ。
まぁ故障か何かだろう、と思う一方で、なにやら面白いものを見つけたのではないか、というわくわくとした気持ちもあり、とりあえず十円玉を投入した。
すると、淡く発光していたディスプレイにノイズが走り、やせ細った子供が映し出された。見るからに健康的な生活を送れていないだろうその子供は、しかし笑顔でこちらを向いていた。
「──」
子供が発したのは日本語ではなく、何を言っているのか聞き取れなかったが、きっと有り難うと言っているのだと確信した。それがすんなりと心に入ってきたからだ。
暫くすると、ディスプレイは消え、今度は「誰かの命が救われました」と表示される。
なるほど、誰かの希望を買う自動販売機がこの機械だという訳なのだろう。どういう原理で何が起こっているのかはわからないが、誰かが救われていることだけは疑わなかった。
こんどは百円を投入してみる。
すると、先程とは違う子供が、されど健康状態は同じような子供が、集団で映し出された。
「──」
やはり、なんと言っているかはわからなかったが、そこには間違いなく笑顔と感謝があった。
数秒するとまた画面は消え、今度は「どこかの七人の子供が救われました」と表示された。
今まで、人を救うには莫大な金がかかると思っていた。
でも、こんな少ないお金で救われる命があるのだ、と気づいた俺は狂った様に有り金をその自販機に投入した。
その次の日、また自販機に立ち寄ろうとしたのだが、そこにあったのは普通の自動販売機で、変えるのはジュースだけだった。そうなると、昨日の持ち合わせが多くなかったことに罪悪感を覚えて、なんとなしに友人に相談してみたのだ。
「希望販売機ねぇ」
「そう、確かに昨日はあったんだよ。何か知ってることはないか」
「いや、ないね。そもそもそんなものにコストをかけないだろ」
そう言った友人に、思わずつかみかかってしまった。命を軽視している様に思えたからだ。
「お前、人の命を何だと……」
「ちょ、ちょっと待てって。何か勘違いしてないか」
「勘違いもクソもあるか」
「冷静になれって。俺が言ってるのは、募金ってシステムがあるのにわざわざ自販機なんてコストのかかることしたら意味ないだろ、ってことだよ」
そう言われて、手を離す。確かにその通りだった。
「ま、そうやって募金するきっかけになるんだったら意味はあるんだろうけどさ。募金って言われるとなんとなくやりにくさとか、少ししかお金を出さない気まずさとか感じることもあるだろうし。でも、それで救われる命があるって実感できたなら、間違いなくいい経験だろうよ」
救うっていうのは傲りかもしれないけどな、と友人は立ち去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます