いつか実れど何時なるや
「先輩! 付き合ってください!」
初めて口にしたときは恥ずかしさと怖さでいっぱいいっぱいだったけど、もう何回もこんな台詞も慣れてしまう……嘘。やっぱり少し恥ずかしさはある。
でも、怖さはない。先輩がこの後、赤面したかわいい顔で慌てふためくのを知っているから。そしてこう言うのだ。
「ご、ごめん! ちょっと整理が追いつかなくて……でも、嬉しいよ」
「それはOKってことでいいんですか?」
「あ、え、えっと、明日まで待ってくれないかなぁ、なんて」
「ええ、いつまでも待ちますよ。先輩が返事をくれるまで、ずぅっと」
その明日が来るのなら、私は。
何だか重いなぁ、と半笑いでほほをかく先輩を見ながら考える。
きっとこのまま甘酸っぱい下校を先輩と過ごして、そのことを思い返しながら一日を終えるのだろう。
そして朝目覚めれば、また振り出しに戻るのだ。私が告白した、今日の朝に。
理由はわからない。初めて告白したあの日に、この幸せがいつまでも続くように願ったからだろうか。もしそれが叶えられたというのであれば、神様はきっと皮肉が好きなのだろう。
確かに、この時間は間違いなく幸福ではある。しかし、その先はない。そこから前進することはないのだ。だから私は、来ない明日をいつまでも待っている。
もう何回繰り返したかもわからない。色々試そうともした。それでも先輩との関係が崩れるのが怖くて、告白の返事を催促することだけはしなかった。
いや、もしかしたら、一線を越えた後に白紙に戻されるのが耐えられないと思っただけかも知れない。先輩が答えてくれたとしても、どうせ朝には元通りなのだから。
その一歩を踏み出せば、このループは終わるのかも知れない。でも、私はいつまでも明日を待つのだろう。
また朝がやってきた。前回の今日と同じように、何も変わらない学校生活を送る。
授業も何回受けたかわからない。数回目以降は窓辺を眺めてループのことを考えていた。どうせ同じ内容なのだし、もう知っていることの勉強よりも、まだ見ない明日の方が重要なのだから。
そうやって、くだらない四時間を過ごして昼休みがやってくる。でも、うちの学校は昼休み中に他学年の教室を訪れることを禁止されているので、同じ味の弁当を食べながら、聞き飽きた雑談をするしかない。でも、時間の流れというものは素晴らしい。つまらないと思っても楽しいと思っても、時間は平等に過ぎるのだ。
自分にとって、その法則が絶対ではなくなってしまったのを除けば。
それでも、放課後は必ずやってくる。
「待ってましたよ先輩」
「ごめんね、ちょっと部活で呼ばれちゃってて」
「そんなことはいいんです、それより、その、何か言うことがあるかと思うんですけど」
そうだ。僕は彼女に言わなければならない。例えそれが報われないとしても。
「不甲斐なくて、気が弱くて、鈍くさい僕に君なんてもったい無いと思う。でも、それでも僕は──
君のことが好きだ
返事と言っていいのかわからない、中途半端な告白のような、そんな台詞は暗転した世界の中に消えていく。
僕の言葉は彼女に届いただろうか。そもそも、僕はしっかりと言えていたのだろうか。
そんなことはわからない。わかるのは、また変わらない今日がやってくるということだけだ。
そうだとしても、僕は返事を待ち続けている彼女に、このループが終わるまで何度でも好きだと伝えに行く。
たとえ、この恋が永遠に実らないのだとしても。
また今日がやってきた。
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