第一次厨二力大戦
イメージは力である。歴史において、想像力は様々な物を生み出してきた。
しかし! それには限界がある!
そこで開発されたのが想像力を形にする装置、DR。
DRは使用者の現実意識を切断し、仮想空間に形と意識を与える機械である。
この仮想空間内では全てが想像力で決まる。
空間の景色や、重力といった法までも
この装置によって、想像力が生み出すものの限界は取っ払われたように思えた。
が、しかし。限界がないのであれば果てはどこにあるのか、と考えるのが人間の性。その疑問はとどまることなく、世界を飲み込んだ。
そうなれば、DRを使った大会が開かれるのは当然の摂理。
これにて、第一回想像力最強決定戦、またの名を、第一次厨二力大戦の火蓋が切って落とされたのだ!
「ということで! 実況は私、
「解説は私、田中一郎でお送りさせて頂きます」
会場の方から聞こえてくる歓喜の声に、身を震わす。
とうとうこの
問題はどこまで
いや、この際気にしまい。ここはそういう場であろう。
「それでは早速第一回戦目! ノエル選手と天羽選手のお出ましだぁぁ!」
カプセル型のDRに入り、仮想空間へと意識を移す。
こちらから会場は見えないが、会場からこちらは見えているはずだ。
もう、実況や歓声は聞こえない。この身は戦いのコングを待つのみである。
相手は予選で灼銀のノエルと呼ばれていた選手だ。
炎の翼を背にし、お嬢様のようなドレスを纏った銀髪の美少女。火を使うことは明らかだが、果たしてどうなるか。なお、リアルに触れてはいけない。今は俺も漆黒の翼と光輪を持ち、これまた黒いコートに身を包んだイケメンになってるだろうから。
そんな考えなど関係ないとばかりに、カウントダウンの数字が浮かび上がる。
『3』
予選では守り重視の戦法だったと聞く。
『2』
では最初は高火力の技で攻めるか?
『1』
いや、そう考えることなど予測済みかも知れない、とすると……
『FIGHT!』
「
「
燃ゆる吹雪が如き流星は、展開した漆黒の翼に吸い込まれていく。
やはり、初手は大技で来たようだ。確かにこの技なら攻防一対を成しつつ、なおかつ一撃で相手を仕留めるほどのバリューがある。
「初めから自身の名を冠する大技とは、随分と思い切りのいいことだな」
「あら、灼銀の名は私がつけたものではなくてよ?」
こんなのは茶番かも知れんが、大会出場条件の一つが『対戦中相手との会話をすること』なので仕方が無い。それが想像力のさらなる飛躍を生むとかなんとかと書いてあったが、絶対嘘だ。
っと、あまり余計なことに思考を回している暇はない。ここは想像力の世界なれば、一瞬でマグマの世界に変わることもあり得るし、何より飛行やアバターの形成だけでもイメージ力がそこそこ必要なのだ。
「いつまで翼の檻に籠っていらっしゃるおつもりで?」
「おっと失礼、この程度の防御は簡単に破ってみせるかと思いまして」
「言ってくれますわね……
ノエルが前に突き出した腕から、それが放たれる直前、翼の防御を解いて急降下する。上昇した方が有利はとりやすいだろうが、降下の方が早いというイメージがあるのだから仕方が無い。想像力の世界は、そういうイメージも影響してくる。
「やはり今のは避けますか。闇は光に弱い、小学生でも知っている摂理ですもの」
「フハハ、我が翼は光をもたらす物。なればその程度造作も無い、が
「なんだ、お気づきでしたの」
ケルト神話の神ヌアザ。銀の義手を付けた際の別名はアガートラーム。堕ちた天使を由縁とする俺の技は当然神に弱い……というイメージがある。ここでは理屈よりイメージだ。先入観と言い換えてもいい。
じゃあそんなこと知らなければダメージを受けないのか、といえば否である。
ここには二人のイメージ体が存在する。そして、イメージ強度の高く具体性があるプレイヤーの方がより仮想空間に影響出来るのだ。むしろ無知は危険を招く材料にしかならない。
「今度は此方から行かせてもらおうか。
「剣には剣を、
俺の翼から羽が飛び、剣の嵐となってノエルに襲いかかる。
対するノエルは、剣を形取った炎で羽を焼き尽くそうとする。
しかし、俺の剣が燃えることはない。
「残念だったな! 羽は我が身を離れたその瞬間から剣へと機能を変えている! 羽であればいざしらず、剣であるのなら燃える理はなし!」
何度も言うがこの世界ではイメージが全て。口に出してイメージを固めることも、相手にネタばらししてイメージの強度を高めることも戦法の一つなのだ。この場合、俺の剣はより燃えにくくなったということだ。
そんな剣の嵐に対して、燃焼という絶対有利を失ったノエルは、剣を剣で弾くしか術はなく、どんどん追い詰められていく。
新しい技を出そうにもイメージを固める前に押し切れるだろう。技の見た目や名前が派手なのは、そうやって相手に圧を与えて技を出しにくくするという理由もあるのだ。
「ふむ、我が猛攻に手一杯と見える。が、念のためもう一手打つとしよう。
広がった漆黒の両翼から、まばゆい光がノエル向かって放たれる。
これで決着だろう。まだマシな方で本当に良かった。もし、奥の手を使おうものなら──
「
凜とした声が響いたかと思えば、燃えないはずの剣は炎となり、明けの明星の行く手を阻む。
「まさか奥の手を出すことになろうとは」
光が止み、炎が消えた時、そこに居たのはドレスではなく、巫女服を纏ったノエルだった。
畜生、あれで終わんないのかよ。しかも形態変化とか……
「じゃが、こうなってしもうたなら是非も無し。せいぜい妾を楽しませろ。
瞬間、頭上に太陽なんて目じゃないほど巨大な円形の鏡が現れる。
まずい、非常にまずい。天照なんてこれから光線が落ちますなんて言わんばかりの技名だ。この大きさでは避ける場所もないし、何より神由来というのがまずい。
嗚呼、もう悩んでる暇はない。きっとこれ以上は本来の俺が持たないだろうが、そんなこと言ってる場合じゃない。
「光射」
「
光を飲み込むほど黒く、そして歪な茨が、光を打ち消さんと天へ伸びる。
「ふむ、少しはやるようじゃが悪あがきにすぎぬな」
「それは、どうかな?」
「ふっ、強がりはみっともない……まさか!?」
「ハハッ、気づいたようだな!」
「さながら昇天回帰、とでも言ったところか」
「ひ、卑怯よ! そんな屁理屈あっていいはず無いわ!」
「ははは、美しき少女よ。素が出ているぞ。そんなところも愛らしいがな」
「う、う、美? 愛?」
悲しきかな。我が好敵手は魔の手に呑まれてしまったようだ。これでは戦闘復帰はかなわぬだろう。
「では、ここは一太刀を持って終幕とするのが礼儀だろうな」
「ちょ、待っ──」
「告死の天剣」
振り下ろされた銀色の大剣は、たやすく少女を断ち切った。
『終了っっ! 第一回戦、勝者は漆黒の堕天使、天羽選手だぁぁっ!』
外で鳴り響いているであろう歓声に、右手をあげて応える。
それと同時に意識が薄れていった。
◇◆◇
目が覚めて、DRカプセルから這い出る。そして、個室に用意された休眠用のベッドに寝転んだ。
ここで問題だ。
DRの仮想空間にはMPのような要素はない。では、一体何を消耗して戦っているのでしょうか。
イメージ力? それは確かにある。さんざん言ってきたし。
でも、技によって必要なイメージ力はその瞬間だけであり、技が終わった後にイメージ力が減っているかというと、そういうわけではない。
じゃあ何かって?
精神だよ馬鹿野郎っ!
DRはイメージ力が問われるというが、実質厨二力と言っても差し支えない。そんでもって、相手の厨二力に対抗するには自分も厨二に染まるしかないわけで。
「何が美しいだ! 何が愛らしいだ! 告白じゃねえかよ馬鹿野郎! それに昇天回帰ってなんだよ! ダサいにもほどがあるだろうが!」
DRに入っている時は、仮想空間に意識体が作られる影響か、厨二と本来の自分みたいな感じで、黒歴史云々のダメージはない。
でもその反動は勿論終わった後にしっかり帰ってくる。
ノエル選手も個室で嘆いているに違いない。
でも、賞金のためには仕方ない。
たとえ、精神が擦り切れても、この先も戦い抜くしかないのだ。
ちなみに戦闘中に言った大会出場条件だが、本来の記述は『役割を演じつつ劇のように対戦中の相手と会話すること』である。つまり大会スポンサーは黒歴史を量産することで場を盛り上げている。
はぁ。
やっぱり辞退していいですかね?
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