ミステリアスはほくそ笑む
自分は学校一の美少女である。
彼女にはそんな自覚があった。実際その認識は間違っておらず、モデルやアイドルのスカウトに声をかけられたのも一度や二度の話ではない。
そんな彼女であるが、周りに人の輪が出来ることはない。
否、出来ないようにしている。
普段は無口で、気がつけば教室におらず、どの部活に入っているかも不明瞭。そんなミステリアス美少女を彼女は演じているのだ。勿論そんなことに何の意味もない。ただただ彼女が楽しいだけである。
というわけで、彼女の一日を覗いてみよう。
ミステリアス美少女の朝は早い。四時に起床し、洗顔や髪のセットを終え、しっかりとした朝食をとる。早起きではあるが、しっかりと睡眠時間は確保済みだ。ミステリアス美少女は自分の美貌に驕らないのである。しかし化粧の類いはしない。なぜなら自分は美少女だから。
もうわかると思うが、彼女は少しアホの子である。
さて、諸々準備を終えた彼女は家から全力で自転車をこぐ。それはもう驚くべき早さである。
そうして学校に到着した彼女は、駐輪所に自転車を止めると数秒で息を整え、今度は自らの足を駆動させる。
グラウンドを整備し、弓道部の的を張り替え、文芸部に詩をしたためた用紙を置き、と彼女はやるべきことが多いのだ。そして、意味も無く全ての部活に自分の痕跡を残すと、他の生徒が来る前に教室で読書を開始する。繰り返すようだが、特に意味は無い。
暫くすると外が騒がしくなり始め、教室にも何人かの影が現れる。中には彼女に話しかけようとする者もいるが、そんなことはさせない。無駄に極められた観察眼により、彼女は話しかけられる前に席を離れる技を身につけている。
全くもって無駄な特技である。
そんなこんなで時間は経過し、ホームルームの時間となる。ここから暫くは彼女のすることはない。強いて言うなら優等生を演じることくらいである。
ホームルームが終わり、授業が始まる。真面目に授業を受け、当てられればはきはきと答える。ミステリアス美少女は予習も復習も完璧なので、いかなる問いも問題にならない。こればかりは有意義であるに違いない。
そして、授業が終わる。ここからが彼女の腕の見せ所だ。
挨拶が終わるや否や姿をくらまし、意味も無く彼女の教室がある三階から階段を下りていく。一階にたどり着くと、こんどはゆっくりと別方面の階段から三階に上がる。そうやって彼女が教室に戻り、席について授業の準備を終える頃にはチャイムが鳴り響く。慣れというものは恐ろしく、この程度のことは時計を確認する必要もなくなっているようだ。やはり無駄な特技である。
この学校は基本的に六限まで授業がある。つまり昼の時間を除くとこんな行為が後三回も繰り返されるわけだ。全くもって理解不能だが、彼女が楽しいのであれば何も言うまい。
ちなみに昼は職員室で先生方と一緒に食べている。こう見えて社会性はしっかりと持っているのだ。宝の持ち腐れかも知れない。
まぁ、そんなこんなで授業も終わり、帰りのホームルームが終わり、帰宅もしくは部活の時間がやってくる。
ここで問題だ。果たして彼女は何をするのか。
正解は、鞄を教室に置いて街に行く、である。
彼女曰く「学校にいるはずなのにどこにも居ないってミステリアスじゃない?」だそうだ。もうそれでいいです。
そして、生徒と出会わないように街を散策し、最終下校時間になるとこっそり教室に戻って帰宅する。そうして、クラスメートが自分の噂をするのを聞いてほくそ笑むのだ。何なら家に帰って高笑いする。
確かに傍目にはミステリアスかも知れない。
しかし彼女の本性は少しばかり、いや、かなりアホなのであった。
まぁ幸せそうなので文句は言うまい。
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