人は見た目に抗えない

 人は見た目じゃない。まぁ、よく聞く話ではある。

 では、現状を説明しよう。

 舞台は町中。黒光りするぶっちゃけGみたいな怪人と、ヒーロースーツのようなものを見に纏った人物が相対している。


 おかわりいただけるだろうか。

 じゃない、おわかりいただけるだろうか。こんな状況下で、怪人が悪者じゃないと思う奴なんていない。世の中にヒーローなんて概念が無くても、きっとそれは変わらないだろう。


「また邪魔するのか、このゴキブリ怪人め!」

「ふざけるなよこのヒーロー面がぁ!」


 まるで特撮のようにそんな会話を交わしているわけだが、ここで両者の内心を確認してみよう。


「また邪魔するのか、このゴキブリ怪人め!(干し立ての下着が私を待っているというのに!)」

「ふざけるなよこのヒーロー面がぁ!(この形態だと腹が減るんじゃボケェ!)」


 まぁそれは酷いもんである。いや、ヒーロー面の内心は実際どうだか知らないが、十中八九こんな感じに違いない。あいつはそういうやつだ。

 だが、そんな内心を目撃者が知る由もないわけで。


「か、怪人よ!」

 と叫んで逃げ出す者もいれば、

「頑張れヒーロー! 怪人なんてやっつけろ!」

 とヒーロー面を応援する者もいる。

 応援するのは止めておきなさい。そいつ見た目こそヒーローだけどただの下着泥棒だから。

 そんなわけで、しょーもない戦いが幕を開ける。勝ったとしても救われるのは世界ではなく、誰かの下着である。しかも勝たなきゃいけないのは俺の怪人側


「待てぇい! この変態クソ仮面!」

「貴様などに構っている暇はない! 私には使命があるのだ!」


 さぁ始まりました第何回か数えるのも面倒くさい鬼ごっこ大戦!

 え、バトルすると思った? 必殺技は?

 馬鹿言え暴行は犯罪だ。必ず殺す技なんてもってのほかだろう。

 でもまぁ、技なら無いこともない。


「ディタージェントスライド!」


 途端! G型怪人の体は加速する!

 これは足から洗剤のような液体を分泌し、路上を猛スピードで滑る技だ。G怪人の出す液体なんて気持ち悪い、と思う人も居るだろうが安心して欲しい。なんとこの液体、即座に蒸発する上、洗剤なので路上の汚れも落とす優れものなのだ。

 そういう問題じゃない? うるせぇ、俺だってこんな技使いたくないわ。


「くっ、やるしかないのか……ジェットアクセル!」


 そんな叫びと共に、ふくらはぎ周辺のメタリックな外装が音を立てながら変形したかと思うと、輝きを放ちながら変態が加速した。


「てめぇ何だそのカッコイイのは!」

「私だって成長するってことさ!」

「成長したのはお前じゃなくてスーツだろ!」


 そんな不毛な戦い追いかけっこは突如として終わりを告げる。


「そこの君たち! 止まりなさい!」


 警察の介入だ。

 こんな見た目の二人組が大声を出しながら往来を駆けて(滑って)いたのだ。そりゃ通報もされる。

 ヒーロー面変態も警察には逆らわず、大人しく二人で道の横に避けた。

 それにしても、警察が来てしまったか。出来ればその前に捕まえておきたかったんだが。


「お話を伺ってもいいかな?」


 この後、俺は警察署で一時間ほど問い詰められることになった。前回あいつ変態仮面を捕まえた時に知り合った警察官がいなければ三時間はかかっただろう。怪我の功名というやつだ。いや、別に過った行いをしたわけじゃないんだけど。


 なお、ヒーロー面は一旦自宅に帰されたそうだ。

 仕方が無いことなのだ。人は見た目に抗えないのだから。


 それでも言わせ欲しい。

 見た目なんてクソ食らえ!

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