「セックス」するから
もりくぼの小隊
「セックス」するから
目が覚めると頭がズキズキと痛い。こいつは、二日酔いだな……あぁ、気持ちわりぃな。水欲しい誰か水……言うても誰かいるわけないな彼女もおらん寂しい独り身やん俺。しゃあない、しばらく横になって気持ち悪いのーー
「ほれ」
ーー不意にピタリと額に冷たい感触。これ、水か? それに、女の声?
思わず毛布を下ろして顔を出す。
「ん?」
「ん、んん」
目線を上げると大きめの黒いパーカー付トレーナーを着た「女」が気だるげに見下ろして水のペットボトルを軽く振ってまた額に押し当てる。
「っめたっ」
「水飲みぃ。楽になるけえ」
女がペットボトルを放すので俺は慌ててキャッチする……んだが。
「え、んぁ?」
「なに、ふふぅん、フタ開けられんとか?」
「は、馬鹿にすんなっ開けられるわっ、ほら」
なんか小馬鹿に鼻で笑われた気がしてペットボトルのフタを開けてみせた。
「お、やるやん男の子」
女は口端を右に軽く上げて俺の手から引ったくると一口喉を鳴らして飲み俺の手に戻した。
「それ飲んでええかげん目え覚まして」
女はまた気だるげな顔に戻って赤茶けたロングヘアを掻いて俺の寝るソファーの下に座ってスマホを弄り始めた。
俺はなんだかよくわからず女の後頭部を眺めながら水をゆっくりと喉に流しボンヤリとした意識を復活させてふと思った。
(こいつ、誰なん?)
そう、俺こいつ知らんわ。なんで俺ん家に知らん女が
俺は残りの水を一息に飲むとペットボトルをべこべこと潰しながらペットボトルのそこで女の後頭部を叩いた。
「おい」
「は、なに?」
女は不機嫌に顔を上げて俺を見上げる。いや、は、なに? は俺の台詞。
「おまえ、誰なん? なんで、俺ん家に居るん?」
「……は?」
女は「うわ、信じられん」とでも言いたげな顔で眼を半分に細める。いや、そんな顔されてもな。
「おいこら、マヌケ面野郎」
女は不機嫌を隠さずに可愛くもない言葉を吐きながら俺を指差す。
「あんね、あんたが俺ん家で飲み直そうってウチをここに引きずり込んだんですけど。わかっちょりますか?」
「は、俺がそんな事を?」
いや、全然覚えてないんだが……でも確かにビールとかチューハイの空き缶が目の前の机に山となっちょるな。
「はぁ? まさかホンマに覚えとらんとか言わんよね「エッチ」までしといて?」
「あっ?「エッチ」て「おセックス」てこと?」
「あたりまえやん」
「うっそやろ?」
「うわ、うっわ最低アンド説得力無し男。
んん……確かにパンツ一枚な俺。ほのかにスケベェな香りもするし、そこらに脱ぎ散らかした服と……。
「マジか」
「マジよ」
証拠の数々……あぁ、俺この女と「セックス」したらしい。
とりあえず昨日のつまみの残りだという朝飯を食いながら俺がいっさい覚えてない昨日の出来事を聞いてみる事にした。
「おまえ俺とどこであったか覚えとる?」
「は? そっからてウソでしょ?」
「わりぃ、さっぱりと思い出せん」
女は眼を瞑ってるかってくらい細めてチーたらをガジガジと噛りペットボトルのお茶を飲み、机に肩肘をついた。
「まずさぁ、ウチおまえじゃなくて「
「え、おまえ男だったんか?」
「ははぁ、男に見えんのかぁ」
「いや、見えんなぁ」
「はいはい、このやり取り昨日やりました。ちなみに漢字は
「へぇ、珍しい名前と漢字だわ。ちなみに
「ーーそれもう聞いた」
「あ、俺「
「ーーそれも聞いた」
ふうん、結構面白いこと話してんな俺達。覚えてないのなんかもったいね。
俺はなんか不満げな女こと
「んで、どこであったけ?」
「「居酒屋のレン」合コン、数合わせ、あまりものふたり。おわかりいただけたでしょうか?」
「のレンで合コン? あぁっ、いったいった。頼まれて数合わせで行ったわ。なんも覚えてねえけど」
「かもね、来る前から顔が赤かったし……絶対近づかんとこうと最初に思ったから」
「ひどくね?」
「あんたがね。ハハハ」
サトルちゃんは乾いた笑いで食いかけっぽいコンビニの肉じゃがを手掴みで口にほうり込む。
「それで、なんがあってこうなったわけ?」
「はいはい、めんどくさいけど説明すんわ癪だしさ」
サトルちゃんはスマホを操作してとある画像を俺に見せる。これは、俺?
「そ、あんたのマヌケ面。ベロベロでめんどくさくてボッチ確定した直後くらいのフォト」
「ほうほう、全然覚えてねえ」
「……ハハ。で、友達が男と話始めて晴れてボッチになったウチも暇だったんでついついあんたのマヌケ面を撮ったろうと近づいたの」
「おい、勝手に撮んなよぅ。事務所通せや」
「ごめん、話の腰折らんで?」
「どうも、すんまへん」
怒られちゃったよ。怖っ。
「で、このフォト撮った思ったらあんたが目を覚まして掴まってしまいましたとさ。そんで、めんどくさい酔っぱらいをウチが相手する事になったままお開き。そんままあんたを押し付けられたウチは家で飲み直すって聞かないあんたとコンビニに行って、好きなもの買っていいって以外と太っ腹なあんたに迷惑料がわりに遠慮なく奢られたウチはここまでGO。あんたは手を出さない条件をあっさり破ってウチにガオッ。朝帰りコース確定でいまにいたるってな感じかな。わかったか右曲がりくん」
「うわぁ、ここまで聞いたけどゴメン全然覚えとらん」
「でしょうよ。今までの流れ的にわかっちょった」
マジかぁ、悪いことしたわぁ。俺、女には紳士的な筈なんだけど。特にサトルちゃんみたいな子って結構好みのタイプだから第一印象は大事にしたかったわ。
「なんか、迷惑かけてーー」
「ーーもう今更。ま、仕事休みだしやることも無かったからええけどね」
お、許してくれた優しいめっちゃドキドキ。ああ、しっかしサトルちゃんとおセックスしたこと覚えとらんのがもったいね……て、おや、ソファーの上に見知らぬ紫色のくしゃくしゃパンティ? てことはっ。
「もしかして、サトルちゃんってばノーパンちゃん?」
「は? 上も下も着けとらんよ。あんたがウチの下着全部下敷きに知とったからね」
つまりはその服一枚? やっべーー
「ーーおいこら、チン○元気にしてんじゃねえよっ」
「え、あっ、いや想像力がついつい。で、おっ勃ちついでにどう? もう一発しっぽりすっぽり」
覚えてないならまたヤればエエかなって思うんだが、どうだろうか。
「は? 朝っぱらからとか最悪なんですけど。もしかして一回寝たからって調子乗ってません?」
「……はい、すんません」
そりゃそうだわ。酔ってたとはいえ印象最悪な男に無理やり連れ込まれてヤられたら怒るわ。はあっ、不誠実。怒るだけで済ませてくれるぶんサトルちゃん優しい。フザケすぎだな俺ほんとゴメン。マジめっちゃ反省だな。
それからサトルちゃんはしばらくスマホいじった後に帰る事にしたのかささっと着替えを済ませる。黒のパーカートレーナーにデニムパンツ。結構ラフな格好だけどすっげぇ似合っててもうちょっと一緒にいたいと思ったけどそいつは叶わぬ夢やわ。
「サトルちゃん……昨日迷惑かけてすまん。俺、もう二度とサトルちゃんには会わんから」
「は? なに言っとんの?」
あれ、なんかサトルちゃんの反応が予想と違うんやけど。あれ?
「これ、な~んだ」
「ん? 電話番号……あれ、俺の?」
いつ交換したのやべ、これも全然覚えてない。
「そう、連絡先交換してセックスしてはい、サヨナラ二度と会わんからってひどくない?」
あきれた溜め息な聖ちゃんの顔が俺に近づく。
「それめっちゃ不誠実。いやぁ、これは許せんなぁ」
「え、でも。俺のこと嫌だったんじゃねぇの?」
「嫌なら家まで来んしっ、押し倒される前に帰っとる。それにあんな凄かったの「忘れた」ままって納得いくわけないってのっ」
サトルちゃんは俺の腹に痛くないパンチをしてニンマリと笑った。
「今日1日付き合ってよ。そんで、今度こそ一緒の「セックス」するから。絶対、あんたが忘れられないやつ」
「セックス」するから もりくぼの小隊 @rasu-toru
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