第十一話 年末年始が気が気でない
第十一話 年末年始が気が気でない ①
「颯太、始めるぞ!」
「おおっ!!」
今日はこの家に来てから初めての
僕がこの家の一員になってから八ヶ月。随分と汚れも溜まってきたな。
お昼ご飯を食べてすぐ、僕らは大掃除に取りかかる。
父さんと一緒に、家中を綺麗にするんだ。
「じゃあ颯太、窓拭きを頼んで良いか?」
「うん、任せて!」
僕は
まずは窓に洗剤をシュッシュッと吹きかけて、その後、
寒い冬、濡れ雑巾を触るのもキッツい。けれども僕は一生懸命だ!
――その脇で、優奈は澄ました顔でゲームをしている。
「颯太君、偉いね。何も掃除なんてやる必要無いのに」
「優奈はやらないの?」
「やらないよ。だって、掃除は佳太郎さんがやる事でしょ?」
「…………」
手伝う気、ゼロ!!
今度は加納子さんの書斎へ。
「ああ、颯太君、何の用?」
机に向かってパソコンをタイプしている加納子さん。論文でも書いているのかな?
「あの、窓を拭きに来たのですけど……」
「やってくれるんだね、ありがとう」
とか言いつつ、手伝う気は一切無し。
僕は書斎の大きめの窓を拭いた。これだけでも一苦労。そして、それが終わると……。
「あっ、じゃあ、本の整理もやってくれないかな?」
「またですか?」
「ダメ?」
「ああ、やりますよ! どういう並び順で……」
「日本語の本は著者別に五十音順、ロシア語の本はキリル文字順に……」
「キリル文字なんて分かりますか! 流石に無理ですよ、それは!」
「じゃあ、転がっている本を本棚に戻すだけで良いよ」
「はい、分かりましたよ」
僕は床に落ちている本を本棚に戻していく。
結構重いなぁ……それがかなりの数っ!! めっちゃ疲れるぅ……。これが幾つも……よっこいしょ!!
「ハァ、ハァ、ハァ……」
つっかれたわ、この作業。
これが大掃除……。家が広い分、やる事も多いなぁ!!
「ありがとう、颯太君。お年玉、多めにやらなきゃね……」
「あ……ありがとうございます」
多め、ってどれくらいなんだか。
疲れさせられるなぁ、もうっ…………。
さて、次は僕と奈緒の共用部屋だ。
めっちゃくちゃ疲れているけど! 息が切れそうだけど! でも頑張らなきゃな!!
よし、窓を拭いたら、次は床を掃除機で綺麗にして……。そして奈緒は僕を気にする様子も無く、パソコンゲームに打ち込み……。
……クッソ、僕が必死こいて掃除しているのに
「奈緒っ! 少しは手伝ってよ!」
ああもうイライラしてきた!!
この家の人達、自分じゃ掃除する気が更々無いっ!!
「手伝えと言われても、俺は掃除のやり方がよく分からん。教えてくれ」
「分からないって、ちゃんと掃除できているよね。奈緒の机周りとか、綺麗そうだけど……」
「実は……臭いものに
「ええっ、本当?」
「ああ。だから見て欲しい、俺の机の中を。そしてどうやって掃除して良いか教えて欲しい」
「ああ、分かったよ」
そうやって見させられた奈緒の机の、一番大きな引き出しの中。
開けた瞬間……うわっ、何だこの紙の山は!!
主に
「どんな物が入っているの?」
「捨てて良いのか捨ててはいけないものなのか……迷いに迷っていたらいつの間にか溜まっていた。全部見てくれないか?」
「良いの? 机の中を僕が
「構わん。見ろ」
僕は引き出しの中身を
チェックすれば一目瞭然、殆どいらない物だな!! よく取っておいたな!!
「何これ、中三の数学の教科書……捨てるよ」
「構わん。使っていないし、
「それとこれ……えっ? 小五のテスト?」
「小五の社会か。覚えてないな」
「捨てるよ」
「ああ、捨ててくれ」
「で、これは布……うわああああっっっ!!!!」
あっちっち、まるで熱いやかんでも触るかのような大袈裟なリアクションを取ってしまった。
僕はその布を慎重に渡す。何でここに入っているんだよ、こんな物が……。もうっ、心臓が止まるかと……。
「ああ、これは俺が小六の時着けていたEカップのブラだ」
それは奈緒の古いブラだった。
てか小六でEカップ? 幾ら何でもデカすぎだろ…………。
「おい颯太!」
奈緒はそれを……うわっ、何をするっ!!!!
「うううう……。どこに投げつけているの?」
僕の顔面にブラが直撃。うわっ、これは奈緒が実際に着用していたブラだ。それが僕の顔に……なんてことをしやがるんだぁぁぁぁっっっっ!!!!
「それはお前にくれてやる。アイマスクにでもするんだな」
「つ……使えないよっ! 捨てるよっ!!」
「欲しくないのか?」
「ほし……くないっ!! 捨てるっ!!」
ハァっ、ハァっ……。
僕は顔からブラを外して、ゴミ箱に放り投げた。
しかし顔にも指にもブラの
「気を取り直して……今度は……上の段の引き出しも……」
そうして僕は、奈緒の机周りの全てを掃除させられる羽目に……。
「奈緒っ……。ちゃんと掃除しなよ……。疲れたぁぁぁ!!」
「お疲れ、颯太。これでも飲みなよ」
奈緒は卓上冷蔵庫からコカコーラの缶を一本出して僕に渡す。僕はそれを飲む。
「フーッ、ありがとう。何を捨てるべきかとか、ちゃんと考えなよ……」
「ああ、分かった。けれどもやはり、俺は家事には向いていないな。ババ……母さんにとっての親父のように、家事を任せられる
「……きっと見つかるよ、いつか」
「いつか……。いや、もう見付けているのかも知れないな」
「もしかしたら、ね……」
僕達は笑い合う。
あれ……? もしかして……もしかして奈緒も僕の事…………いや、流石にそれは無いか。
フーッ、これでようやく休める……!
僕は二段ベッドの上段に寝転んだ。あーっ、疲れたぁぁぁ!!
「颯太、
と、父さんの呼び出す声。
…………休む時間がねぇぇぇぇぇぇ!!!!
「分かった、行く! 今行く!!」
僕は二段ベッドを降りた。
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