第十話 姉の看病が気が気でない

第十話 姉の看病が気が気でない ①

「ピロピロピロ♪」

 それにしてもクソダサい音だな。

 今朝けさもスマホのアラームが鳴る。僕はその音で目が覚める。二段ベッドのハシゴを降りる。

 今日は十一月の中旬、水曜日。

 奈緒は家にいない。だって、今日から金曜までの三日間、沖縄おきなわへの修学旅行なのだから。

 確か、朝七時に学校集合だったよな。もう既に行っている筈。

 三日間、寂しくなるが……って、えええええええええええっ????

「奈緒……どうしてここに? まさか中学の時みたいに……」

 奈緒は二段ベッドの下段に横になっていた。何だか辛そうな顔をして。

「な訳あるか……ゲホッ、ゲホッ……。もう学校には電話した。修学旅行には行かん。せきが出る、寒気さむけが止まらん、吐き気がする、頭が痛い。熱計ったら三七・八度も……」

「だっ、大丈夫?」

「大丈夫だったら修学旅行に行っているわ。多分、インフルエンザ…ゴホッ…思う。お前は早く学校に行け。俺から離れろ、伝染うつりたくなければな」

「わっ、分かったよ」

 僕はさっさと部屋を出て、リビングルームへ。


「おはよう」

 部屋の掃除をしている父さんが声をかける。

「おはよう、父さん。奈緒の話は聞いた?」

「聞いたよ。インフルエンザかも知れないって。かわいそうだな、修学旅行に行けなくて」

「いや、それは無いと思うけど」

「えっ? どういう事だ?」

「それは、まぁ、奈緒、ああ言うの嫌いだから……。それよりも父さん、奈緒に経口けいこう補水液ほすいえきを買ってやってよ。辛いだろうから」

「ああ、買ってくるよ」

 僕は席に着き、机の上に用意された朝食を食べる。

 心なしか、いつもより量が多いなぁ……ああ、奈緒が食べなかった分、僕に多めに盛っているのか。

 朝食を食べて、歯を磨いたら、荷物を持って学校へ出発。

 一人で歩く通学路は何だか寂しい。

 校門前に着いても、二年生がいないから人出が三分の一減っている。寂しいな、理沙先輩もいないのか……。

 僕は教室へと行った。


「おはよう、風見。あれ、中島は?」

 教室にいる筈の中島はいなかった。

「あいつ? いないぞ?」

「どうして?」

「インフルエンザにかかったんだよ、熱が止まらないらしくて」

「中島も?」

「中島“も”って、誰か罹ったのか? お前の家族でも」

「実は、奈緒も……。多分、インフルエンザだと思うんだけど」

「マジぃ? 修学旅行に行けないじゃねぇか」

「別に奈緒は修学旅行に行きたい訳じゃ無いけどね。でも、心配で心配で……」

「あの図太ずぶとい女がインフルエンザ如きで死ぬと思うか?」

「何を言っているの? 死ななきゃ良いって話じゃないよ!! 大好きな奈緒が苦しんでいるって考えると、僕まで胸が痛くなるの。だから……どうしたら良いと思う?」

「乳揉んでいややしてやれよ」

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 ったく、こいつは。ビンタだ!

「軽いジョークだって、なぁ」

「あっそ」

 僕は風見を鼻であしらい、自分の席に座り、物思いにふける。

 ――奈緒は今、どれだけ苦しい思いをしているのだろう。

 僕はインフルエンザを過去に何度か経験した。激しい頭痛ずつうに苦しみ、悪寒おかんに襲われ、咳が止まらず、嘔吐おうとを繰り返す。それを今、奈緒が――

 ああ、考えるだけで嫌になる! 早く治って欲しい。でも、僕にどれだけの事が出来る?

 ああ、分からない。だけど微力びりょくでも、力になれたなら。

 僕は医者じゃないから、治すなんて出来ないだろうが、元気を出させてあげる事くらい出来る筈だ。何をしてあげられるかな……。

 一日中その事ばかりを考え、授業に集中出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る